表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/38

21話 呉越同舟

 アタランテを含む海咲たち三人は、半人半鳥―ハーピーとなったメタブルーに掴まれ、プラントを目指していた。プラントが見えてきた矢先、爆発音が響き、広場に火の手が上がっているのが見えた。彼女たちは急いで広場に着陸すると、上長二人と合流した。


「…その様子だと、黒幕の話は聞いたようですね」


 海咲は頷いた。どうやら、メタブルーたちの話は本当であったらしい。


 海咲たちの傍らに、縮こまるように現れたメタリック・ブルーの球。ヒドラはそれを見て、鼻を鳴らした。


「とんだ道化でした。まさか、最初から仕組まれていたとは」


 海咲はエネルギープラントの方を一瞥した。ガラス張りの外壁は、内部の様子がよく見えるが―逆に此方の動きも筒抜けであるようだ。エントランスホールには見張りが立っており、彼らは銃を構えて此方を睨んでいた。


タンポポ男(ダンディライオン)の目的は?」


「プラントの爆破かと。ダンテ曰く、プラント内には爆薬が仕掛けられています。そして彼は何時でも、手元のリモコンで目的を達成できる」


 彼の言葉に、海咲は首を傾げた。ここまで手間暇をかけてプラントを占拠してまでしたかったことが、自爆とは。それなら最初から、プライベートジェットで突っ込んだ方が早いのでは―という感想はさておき、海咲はヒドラに問いかけた。


「爆破って…何のために、です?」


 こういう時、いつも頼りになる少女であれば―詳しい話を知っているだろうか。海咲はヒドラの返答を待ちつつ、頼れる赤毛の参謀の姿を探した。しかし、自然鎮火が進み、少々煙たくなってきた周囲にどれほど目を凝らしても、マゼンタの姿はない。


「理由は不明です。ウルタールからの宣戦布告も、まだありません」


 ウルタールには、速攻抗議の電話が掛けられ―『遺憾の意』が表明された。しかし彼の国からの返答は謝罪ではなく、今のところ『事実確認中』の一点張りであった。ウルタール側も予期していない出来事なのか、それとも『見て見ぬふり』をするつもりなのか。真偽は不明である。


「…因みに、マゼンタは?」


 不安に駆られ、海咲は縋るような声でヒドラ副部長に尋ねた。静かに目を伏せた彼は、全ての首を横に振る。


「ふぉ」


 そしてカルキノスは、自身の鋏でエネルギープラントを指し示した。マゼンタは、プラントに囚われているのか、或いは既に―。


「…待って、ちゃんみさ」 


 反射的に駆け出そうとした彼女を、いなりが止めた。海咲は彼女を振り払おうとするが、いなりは強い力で海咲の手首を握った。


「今行ってどうなる?最悪の場合、皆死ぬんだよ」


 冷静な―否、冷徹な声色でそう述べたいなりに、海咲は柄にもなく大きな声で怒鳴った。


「でも、マゼンタが!」


「冷静に、だよ。今は一度退こう。そうしないと『また』貴女の我儘で、誰かが犠牲になる羽目になる」


 『また』の部分を強調され、海咲は少し冷静になった。彼女はいなりの手に従うと、代わりにエネルギープラントを睨んだ。無機質で清潔感のある外装は、広場の火事に照らされて、鏡のように光っていた。炎の城のように揺らめくその様子は、一転して有機的な肉感に溢れていた。


「一先ず、元の本部に戻りましょう。幸いにも、輸送機は無事ですし、持って帰る中身もありません」


 そう早口に述べると、彼はプラントの駐車場に向かって這って行く。その途中、彼は首の一つを後ろに向かせた。


「デミ・ショゴス―いや、メタブルーの方々。皆さんも、こちらに。敵意がないのであれば、悪いようにはしません」


 通常―不法入国者への対処は、強制送還だ。先程のように仕掛けられれば正当に反撃するが、基本的に彼らはまつろわぬ『客人』として扱われる。


 メタブルーたちもヒドラに敵意がないことを察したのか、各々思い思いの姿に形を変えて、大人しく付き従った。


 海咲はヒドラを追いつつ、後ろ髪を引かれるように―背後を振り返った。エントランスホールの血溜まり。無機質なタイルを彩った赤色に、不吉なものを感じたからだ。


 狭い輸送船に揺られること、十五分ほど。ヒュージ・メタブルーを避け、役割を終えたはずの対策本部には、怒号が飛びかっていた。計算機のタイプ音が響き、物理的に資料が宙を舞っている。そんな治安の悪いインテリたちを横目に、海咲たちは奥の席についた。ソファでは、寛いだ様子のバロールが、ティーカップを傾けていた。


「戻ったか、ヒドラくん。聞いたぞ、まんまと嵌められたそうじゃな。アストライアも安否不明、これは大失態じゃぞ」


 くつくつ、と老爺は笑った。彼はカルキノスに席を勧めると、残りの面々の顔を眺めていた。


「ええ。強行してでも、ダンテの申し出を断るべきでした。私の失策です」


「ふぉ」


 『仕方ない』と述べたカルキノスに、ヒドラは力なく笑った。そして別の頭で、彼はバロールに問いかけた。


「プラントが爆破された場合の、被害予想区域は?」


「爆発範囲が直径五キロメートル、地盤沈下で地獄に落ちるのが直径十キロメートル。ここ(セントラル)は沈まんが、高天原地区は決定的な打撃を受けることになる」


 ガキ女神<天照大御神>の泣きっ面が目に浮かぶわい、と彼は付け加えた。


 イリスの総面積は、東京ドーム七万個分。広大―と言われればその通りだが、円に近似するならたかだか直径六十キロメートルである。そのうちの十キロメートルも吹き飛ばされてしまっては、生活面での壊滅的な打撃は免れない。


「…さて、どうするかのう」


「バロール様!」


 頭を抱えたバロール。溜息をついた彼に、若い河童の女性が声を掛けた。彼女は息を切らして、オフィスの奥まで駆けてきたのだ。


「テレビ―ご覧下さい!」


 返答を待たず、その艶めかしい河童の女性はテレビの電源を入れた。古い型のテレビは、通電と同時にノイズが走り、そして像を結んだ。


 海咲はテレビの方に目をやって―そして眉を顰めた。


「御機嫌よう、イリスの諸君」


 テレビの中に現れたのは、ダンテその人であった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ