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11話 襲撃

「ところで、だ。賊と饅頭に気を取られていたが、聞き込みはどうだった?上手くいったかね?」


 一つ前の席に座ったダンテは振り返り、海咲にそう尋ねた。少女は首肯して、簡単に内容を共有した。


 メタブルーは、ヤクザに報酬の上乗せを要求していた。そして、頻りに宝石を強請っていたことを聞くと、ダンテは鬣を撫でながら思案した。


「そうか。つまり連中は何かを欲しがって、ウルタール人に成り代わったと」


 ふむ、とダンテは鬣に触れた。手を拱きつつ、彼は言葉を続ける。


「連中に欲などないと思っていたがな。他人に化け、言われたように動く。それだけの生物だと思っていたが」


 ウルタールにメタブルー―彼らは『デミ・ショゴス』と呼称するが―が持ち込まれたのは、たった数年前の話である。それ故に、まだ明らかになっていない生態も多い。使役しつつも、彼ら自身、メタブルーのことをよく知らないのだ。


「何を探してたんですかね、暴力団の事務所で」


 いなりの問に、海咲は首を傾げた。


「自分とか?」


「モラトリアムかよ。もっと真っ当に生きなさい」


 いなりの返しに、海咲はくすくすと笑った。丁度、バスは停留所に留まり、人が数人降り、数人が代わりに乗ってきた。そして、再びバスは動き出した。


「大喜利やめてね?真面目にね?」


「じゃあ、新しい家族とか?」


「兄弟盃か。盃を交わすな、知らんヤクザと」


 すっかり漫才になってしまった彼女たち。和気藹々とした空気に、ダンテの言葉が響く。


「…いや、あながち間違っていないかもしれんぞ」


 彼の一言に、三人の視線がダンテに集まる。


「思い出したことがある。貴様は先程、事務所に現れたメタブルーが要求したのは、『宝石』と言っていたな?」


「ええ」


 ヤクザの組長が自身を買収しようとして見せた、アタッシュケースの中身。それは、色とりどりの宝石だった。


「その中に、青い玉がなかったか?内側に銀河を内包したような、美しい玉だ」


 あ、と海咲は声を漏らした。海咲は、その玉を知っていた。事務所に残されていた、青い玉と彼らの体の一部と思われる粘液。何か手がかりになるかも、と回収したそれは、ダンテの言及した外見と一致していた。


「ええ、ありました。青い玉」


「そうか、なら答えは出た。それは、メタブルーの卵だ」


 三人は顔を見合わせた。マゼンタは、手元の資料に目を走らせる。『取り敢えず』で印刷していた資料については、それほど精査できていないからだ。しかし、採取した青い玉の写真こそ出てくるが、詳細については記載がない。


「調べても出てこんよ。誰も、その卵から彼らが産まれた瞬間を目撃していない。古い友人がいてな、迷信と伝承が大好物の、古都ダイラス・リーンの行商人だ。そいつが言っていたのを、聞いたことがある。『創造の包漿玉(ウボ・インキュナブラ)』―などと大層な名のついたその青い玉は、生命の源が自らの姿に似せて生み出した、原始生物の卵だという。成程、確かに磨かずとも玉状に光るそれは、卵に似ている」


 ダンテはそう言うと、窓の外を一瞥した。再びバスが停車し、数人が降りて数人が乗り込んでくる。これで、始発から乗っているのは海咲たちだけとなった。


「しかし、既存のどんな方法をとっても石から生命が産まれることはなかった。それ故に、私は単なる御伽噺と思っていたのだが―」


 彼は少し苛立たしげに、窓枠をこつこつ、と叩いた。


「―どうやら、彼の話は真実だったようだ」


 そして、彼は進行方向に向き直った。


「そうだろう?諸君」


 いつの間にか。乗客の全員が、此方を見ていた。妖怪、妖精―怪物。乗客たちのその姿形は、様々である。つまり、イリスに於いてはよくある光景なのだが―彼らは明確に、海咲たちに対して敵意を抱いていた。


 先回りされた。マゼンタは舌打ちすると、虚空から魔女の帽子を出し、深く被った。


「…ちっ。生意気にも文明の利器を使いこなしているのか―或いは、テレパスか。いいえ、彼ら自身が巨大なネットワーク(一は全、全は一)を形成しているのでしょうか」


「へえ、それは助かるね」


 そして―いつの間にか。海咲の手には、ワルサー(拳銃)が握られていた。彼女は座席の奥から、廊下に身を乗り出した。不敵に微笑む少女の体を、大蛇がとぐろを巻くように震電(機械仕掛けの魔女箒)が這っている。


「断末魔と共に伝わるのでしょう?私の可愛さが」


 運転席近くに立っていた、スーツ姿の河童の女性。彼女はぎこちなく体を動かすと、瞬きの間に白い甲冑を纏った男性の姿に変わる。それは、イリス公安警察の戦闘服(ユニフォーム)であった。その手の中には、暴徒鎮圧用のライオットガンが握られている。


「ねぇ、貴方。それが何を意味してるか分かってる?」


 錆びたブリキの玩具のように固い動きで、白い兜が声の主の方を向く。彼の視線の先―地雷服の少女が、くつくつと意地の悪い顔で笑っている。


「よーいドン、だよ」


 白い甲冑の無機質な顔が、歪められた―ように見えた。かちゃり、とライオットガンが持ち上げられ、その引き金に―指が掛かる。漸く異変を察知した運転手の男性が、恐る恐る振り向いた。


「…お客様?」


 そんな彼の体は、メタリック・ブルーの銃弾によって射抜かれた。


 その刹那。重厚な駆動音を伴って、地雷系が飛翔した。


 それとほぼ同時に、バス後部に立っていた乗客たちのシルエットが、膨れ上がる。メタリック・ブルーの粘液は、瞬きの間に結合し合い、互いに溶け合い、そして吐瀉物のように噴出した。玉虫色に表面を色付かせた粘液は、弾丸のように駆け出した少女を迎え撃つ。

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