表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

58/66

9.4

 タエコが運んで来た紅茶を三つと、スコーンがのったトレイを持ってレイはまた、困ったなあと云う顔をした。

「テーブルがないのですが、床で食事するのって気になりますか?」

 唐突に現れた忍者に、あっけにとられていた様子のドラコナだったが、レイの問いに肩をすくめて見せる。

「毒気を抜かれたわえ」

 そして、器用に空中で足を組んで座った。

「我に実体は失われて久しい。物など食わぬ。どこなと気にせず好きに食すがよい」

 レイはドラコナに頭を下げて、床にトレイを置く。トレイの中のスコーンとお茶を一人前、ドラコナの方向へ向けて移動させる。

「物など食わぬというたであろう」

 レイはまた、笑顔で言った。

「あなたが物を食べられないからって、あなたの分がなくていい理由にはならないと思います」

 レイのコミュニケーション能力が本領発揮だ。相手が望むことを観察によって推察し、叶える言動をする。

 内心の望みを叶えられたドラコナは、再度肩をすくめた。情が動いたのだ。

「まったく、あの男の子孫とは思えぬのんきさよ。まあ、我の子孫でもあるのだがな」

 サラは、レイが結婚を申し込んだ際の、長老の言葉を思い出した。

 ペトルシアか、これも因果よの。

「ドラコナ・ラクール、あなたは、ギルマン家に(とつ)いできた我が一族なのですか?」

 ※

 いかにも。

 我は200年前の戦時中、ラクール一族よりギルマン家に嫁いできた。

 国防のためにの。

 当時のペトルシアには敵軍が迫り、侵略されるは目前であった。

 敵軍との圧倒的な兵力差において、ペトルシアは侵略されれば即座に占領されるのは見えていた。

 故に、我が嫁がされたのよ。

 ペトルシアの民をドラゴンに変え、兵器として使うためにの。

 ペトルシア中に、我が夫たる当時のギルマン伯爵から触れがなされた。

 一戸につき成人一人、敵軍が押し寄せた際に戦えぬ者を優先して、差し出すようにと。

 むごかろう。人間とはみにくかろう。

 だが、清らかな者もいたのだ。

 触れられた期限よりずっと早く、子どもたちがギルマンの屋敷に忍んできたのだよ。

 戦えぬ親を持つ子どもたち。病やケガで動けぬ親の世話を、ずっとしてきた子どもたちが、親の代わりに自分をドラゴンにしてくれ、と懇願しにきたのだ。

 あわれなる小さき者らを、どうして見捨てられようか。

 我は夫に頼んだのだ。

「この子らの親はドラゴンにさせないでくださいませ」

 ああ、承諾した我が夫は、すべて予想しておったのだ!

 夫は屋敷に来た子どもらの親たちに、約束を伝える使いを出した。

「早く子どもたちを迎えに来い。迎えに来れば、お前たちの家からはドラゴンを出さない」

 誰も迎えに来んかったよ。

 ずっと自分の世話をしてきた小さき子を、親は自分の代わりにドラゴンにしろと、自分だけは助けてくれと言ったのだ。

 領主たる夫の元に迎えにいけば、約束を破られて、親たる自分がドラゴンにされると考えたのだ。

 強き人間がみにくいのは、まだ救いがあるのう。弱くてみにくい人間からは、世界の救いのなさがしみこんでくる。

 身を削って世話をしてきた親に、捨てられた子どもたちの目を見たとき。

 我は石碑に、我が身とともに異能を凝縮したのだ。

 むごい命令を出した夫も、幼い子どもを差し出してきた親も、悪しき者を皆ドラゴンに変えた。

 ははっ、滑稽な話だ。ドラゴンの襲撃で戦は大勝利。我が遺した赤子には、末代までペトルシア領主の地位が約束されたのだよ。

 ええ、そなた、レイモンドというたかえ。

 お前の母もドラゴンであったな。

 どれだけ気づいているのやら。

 ドラゴンは殺せはしない。

 ドラゴンになった段階で、人間はもう死んでおるからの。

まあ、戦争中にドラゴンが使えたら使うよなあ……(歴史をひもとくと人間が嫌になることありますよね)

ブクマ、評価、いいね、ありがとうございます。お気に召したら評価をポチっとお願いします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ