9.3
透明の女は、文句を言うレイを見下ろした。
「ほう……ギルマンの子孫め、キャンキャンと吠えよるわ」
「ええ、かわいいでしょう」
「なんで意気投合してるの!?」
透明の女は、今度はレイを無視する。サラの方を見下ろして話す。
「して、ラクールの子孫よ。先ほど我が異能にぶつけてきたのは、そなたの異能の力だな?」
サラは透明の女に向かって名乗る。
「サラ・ラクールです。あなたもラクール一族……私の先祖のようですね。確かに、異能で弾丸を石碑にぶちこんだのは私です。それで、あの石碑があなたの異能なのですか?」
透明の女も名乗った。
「我はドラコナ・ラクール。いかにもあの石碑は我が異能だ」
サラは腕を組み、納得した。
「なるほど。推測するに、あの石碑が人間をドラゴンに変える異能の元ですが」
一足飛びに、サラはライフルの元に戻った。
「破壊します」
「待って! サラ!」
レイの制止に、ドラコナと名乗った女は、嘲るように同調する。
「よき判断よの、ギルマンの子孫。我が子孫は気短で困るわえ。お前の異能ごときで、我が異能が壊せるものか」
「あ、ううん。そうじゃなくてね」
レイはドラコナに向かって、貴族の作法で一礼した。口調も礼儀正しく改める。
「レイモンド・ギルマンと申します。ドラコナさん、あなたがどうしてこんなことをしてるのか、教えていただけないでしょうか?」
空気が、ぐにゃりとゆがんだ。
ドラコナの体から、怒気が膨れ上がる。
サラがライフルを手に取り、構える。
異能を操る魔人どもの祖と、異能を操る魔人どもの魔女だ。
片方が怒れば、自然と相手を殺しにかかる。一族の中でも、踏んだ場数が違う二人なのだ。
しかし。
「お待ちください!」
魔人どもが殺し合う前に、いつもこの男は止めに入る。
力もろくにないくせに、だ。
「レイ、何ですか?」
「ギルマンの子孫よ、何のつもりだ?」
「何って言われても……」
殺し合いを停止したラクール一族二人ににらまれ、レイは困ったなあとでも云うかのように、ポリポリと頬をかいた。
「私はドラコナさんがどうしてこんなことをしてるのか、知らないといけないと思っただけだよ」
まるで当たり前のように続ける。
「だって、ペトルシアで何かされてなかったら、こんなこと続けないでしょ。私はペトルシアの領主だから、何をされたか聞く責任があると思う」
「何をされたかだと!」
レイの言葉に、ドラコナの怒気が一気に膨れ上がる。ガラクタの中から「クアッ!」と悲鳴が聞こえた。隠れていた初号機が、驚いて逃げようとしての悲鳴らしい。
サラはライフルのセフティレバーを外す。
しかし、レイはサラの前に立ち、ドラコナと正面から向き合った。
「思い出しただけで、そこまで怒ることなら、なおさら責任者に話さないといけないと思います」
ドラコナの怒気に、ビリビリと室内が震える。
「聞きたいか? ギルマンの子孫が聞きたいと申すか! 面の皮が厚うできておるわ!」
レイは安心させる口調と笑顔で、にっこりと言った。
「そりゃあ、やらなくちゃいけないことは全部、命を賭けてもやらなくちゃだめじゃないですか」
ドラコナの怒気が、わずかに薄れた。
「命を賭けても、我が過去語りを聞きたいのか?」
レイは笑顔のまま言った。
「死にたくないし、すごく生きたいけど、こわいからってやるべきことから逃げた人の末路を、私は知っているので」
ドラコナの怒気が、消えた。
「ふん、ならばせいぜい語ってくれるわ」
レイは「あ、では」と、気づいたように言って、パンパンと手を叩いた。
「タエコ、お客様だからお茶を持ってきて」
ス……ッと室内に、メイド服のくノ一が片膝を立てて現れる。
「かしこまりました。お茶菓子は必要ですか?」
「下のテーブルに、領民のみんながいっぱい持ってきてくれたスコーンがあるから、それをお願い」
「はっ」
再びス……ッと姿を消すくノ一メイド。
力が抜けたサラは、何度目かわからぬセリフを吐いた。
「だから普通にドアから入ってきてください」
ラクール一族って先祖代々甲賀忍法帖みたいなカンジなの?(わりとそう)
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