9.2
「狙撃って……、あの遠くの物を壊す力だよね?」
「はい。このライフルに」
サラは唱える。
『来たれ』
手のひらの中にライフル弾を出現させたサラに、レイは目を見張っている。
「この弾をライフルに装填し」
説明しながら、ライフル弾をライフルに装填する。
「セフティレバーを外します」
「外れてないよ?」
「これはとってしまう、の意味の外すではなく……。安全装置を外す……。枷を外す、ような意味ですね」
「枷をしておかなくちゃいけないの?」
「はい。銃というのはただ撃つだけなら、この引き金を引くだけですので。当てるのに訓練が必要なのです」
レイがポカンとする。
「あの、ドラゴンを殺して助けてくれたのって、サラの『狙撃』だよね?」
「ええ」
「あの件のお礼がまだでごめんね」
「お気になさらず」
ぺこりと頭を下げるレイに、サラも頭を下げて返す。
瞬間、切り替えるようにレイの驚きが響いた。
「あんな大きな力を、そんな指をちょっと動かすだけで出してたの!?」
「母君のドラゴンを追い払った際にご覧になったはずですが……」
「見てたけど! なんかもっと複雑な魔法みたいなことをこっそりやってるのかと思ってたよ!?」
「勘違いされるのも無理はありませんが。指をちょっと動かすだけで、あれだけの力が出せるスナイパーだからこそ、生殺与奪を私が決められるのですよ」
「説得力がこわい! じゃあちょくちょく言ってる「頭を吹っ飛ばす」って」
「撃った場所との距離によりますが、人間の頭部程度なら文字通りえぐりながら吹っ飛びます」
「えぐるって何を!?」
「それは人間の頭部に何があるか考えればおのずと……」
「あんまり考えたくない!」
「まあ、今は関係ないですね。とりあえず、訓練すればあんな動かない的ぐらい、指をちょっと動かすだけで大破壊エネルギーを叩きつけられるとさえおわかりになれば大丈夫です」
「すごくたくさん訓練しないと、大破壊で大惨事なのもわかったよ」
「十全です。では撃ちますね」
「えッ」
ライフルの引き金にかけた、サラの指がちょっと動き、銃口から弾丸が放たれた。
バシュッ。
銃声が鳴り響き、スコープ越しに手応えを感じる。
「当たったの?」
「当たりましたよ。……ん?」
弾丸が当たった石碑が、強い光を放った。
「サラ、サラ」
レイがサラのローブの裾を引く。
「すみません、レイ、石碑に異変が起きています」
スコープから目を離そうとしないサラの裾を、レイが力をこめて再度引いた。
「こっちにも異変っていうか、透けてる人が来てる」
「……は?」
いきなりトンチキなことを言い出したレイを怪訝に振り向くと、本当に体が透けている女が、背後で宙に浮いていた。
長い髪を結わえもせず空中に広げさせた、古めかしいドレス姿の女である。
「驚かぬようだな、ラクールの娘。我が子孫よ」
サラはとっさにツッコんだ。
「ビックリしないわけがないでしょう、なんでも顔に出る人間ばかりではありませんよ」
宙に浮く女はツッコミ返した。
「お前の男は顔に出ているが。自分の顔が沈黙してる分、顔がうるさい男が好みか?」
「ますます失礼ですね。うるさいのは顔だけじゃありませんよ」
「なんで私の悪口になってるの!?」
更新最終日でもまたライフルの話を始めるのです。では、ラストまでご堪能あれ!
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