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8.6

「やさしくなんか、ない、私はサラを利用しようとしたし。元はといえば、私がちゃんとできていたら、母はドラゴンになんかならなかったのに。なのに、私は、母を助けずに殺そうと、して」

 ぽつり、ぽつり、とレイのくちびるからあふれる言葉に、サラは撫でていた手をそっと戻し、自分の皿のスコーンを二つに割った。

 割ったスコーンの片方に、木イチゴのジャムとクロテッドクリームをたっぷりとのせる。

 そして、そのスコーンを、身を乗り出してレイの口元に持っていった。

「レイ、あーん」

 レイが驚きに目を見開く。

 サラはおだやかに命じる。

「口を開けなさい、レイ。あーん」

 言われるがままに、おずおずと、レイの口が開いた。

「もっと大きく。あーん」

 サラの言葉に従順に従い、レイは大きく口を開ける。

 サラは開かれた赤い口に、スコーンをくわえこませた。

「ごほうびですよ、レイ。あなたはよくがんばりました」

「もがっ……もぐ……もぐ……」

 スコーンで口を塞ぎ、レイの反論を封じた上で、サラは右手でまたレイの頭を撫でた。

「父君がほったらかしにした母君を、幼い頃から一人で支えて、本当は子どものレイが支え守られなければいけなかったのに。

 ご両親を亡くしてからは、周囲をまとめられるよう気を配って、ペトルシアを豊かにして、よくがんばりましたね」

「う……っ……ふぐ……っひく……っ」

 スコーンで口を塞がれたままなので、言葉にならないすすり泣きで、レイは泣き声を漏らした。

 塞がれたレイのくちびると心は、甘く、甘く、本来もっと幼い頃に与えられなければならなかった甘さを、サラから与えられているのだ。

 レイはサラの手ずから与えられたスコーンを、さくりと噛み取った。

 泣いて真っ赤になった顔を、涙でしっとりと濡らしている。

 サラは、彼を心底、かわいらしく愛しく思った。

「レイ、あなたはとてもいい子ですよ」

 もぐ……もぐ……と、レイが噛んで飲み込む音が聞こえる。

 口の中のものだけでなく、気持ちと、過去と。

 サラからの愛情を、噛んで飲み込んでいる。

 ごくり。

 レイの喉仏が動いた。

 飲み込んだ。

 レイの頬にいつもの青白さは、ない。

 真っ赤に、子どものようなリンゴや薔薇のような、真っ赤な頬である。

「サラ」

 レイの泣き方が、ほろほろとしたものに変わった。

「ずっと、ずっとほめてほしかった」

 守られたかった、甘やかされたかった、ほしがるだけ愛してほしかった。

 レイの隠さなければならかなった幼い心が、サラによって満たされた。

「レイ、見せたいものがあるんです。私の部屋に来てくださいませんか?」

荒ぶる地母神系ヒロインに、いいこいいこしてもらえてよかったねの話でした。

ブクマ、評価、いいね、ありがとうございます。毎日更新。しばらく6時18時の一日二回。お気に召したら評価をポチっとお願いします。

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