8.5
母はそれから、どんどんおかしくなっていった。
後で、家族がドラゴンに変わった人たちに聞いてまわってわかったんだけど、人間がドラゴンへの変化過程なんだ。
ドラゴンに変化する過程で、人間の心が少しずつ失われていく。
でもね、すぐ完全に人間の心が無くなるわけじゃなくて。
一度無くなった人間の心も、たまに戻ったりするんだ。
あっ、あのねっ、母は私にはやさしかったんだよ。
やさしくしてくれたから、私は母が死なないように、ちゃんとみていてあげなくちゃって思ったんだ。
母がドラゴンの習性で、しょっちゅう怒鳴ったりわめいたりするようになって、父に塔の上に、あの部屋に閉じこめられたときも、私から一緒に部屋に入るって言ったんだよ。
無理やり入れられたわけじゃないし、私の方はいつでも出ていいって母には言われてたんだ。
でも、私がみていてあげないと、母は心細くて死んじゃうから。
怒鳴ったりわめいたりしたとき父に怒られたら、母は怖くて死んじゃうから。
いつ死んじゃうかわからないから、だから、私は、自分からあの部屋を出なかっただけなんだ。
食べ物だって、お母さんは食べるななんて一度も言わなかった。
ただ、私が何か食べる音とか気配を感じると、お母さんは自分の内側からドラゴンに食べられるかのように感じて、怖くなって、怒鳴って叫んで死んじゃうから、もう死ぬって怒鳴って叫ぶから、生きてほしくて。
わたしは、お母さんに生きてほしくて、それで自分から、物を食べるのをやめたんだ。
やめたって言ったって、お母さんが深く眠っていたときは、こっそり食べられたんだから、完全にやめたわけじゃないよ。
ねえ、サラ、信じて、そんな顔しないで。お母さんを怒らないで。
「レイ、他の家族がドラゴンに変わった方のお母様は、太っていたそうですよ」
「レイ、あなたはろくに食事をとれなくて、弱っていったのではないですか?」
「レイ、母君は、もう死ぬもう死ぬと怒鳴って叫ぶ元気があったのですね?」
「レイ、母君は、あなたが食事をとると自分が死ぬと言いながら、自分は食事をとっていたのではないですか?」
「レイ、子どもに命がけで守ってもらうのが、平気で日常な母親は、本当にやさしいお母さんですか」
レイは、ぽつりと言った。
「お母さん、ドラゴンになって行っちゃった」
1年近く食べ物を奪われ続けて痩せ細り、起き上がることもできなくなったレイの前で、母は完全にドラゴンに成り果て。
塔の壁を破壊し、くずれた壁の下敷きにして先代ギルマン伯爵を殺し。
レイを置いて、空の向こうに行ってしまった。
「わたしはサラを利用して、お母さんを殺してもらおうとしてたんだ」
サラは、テーブルの向こうに手を伸ばし、レイの頭を撫でた。
「でも、言い出せなかったのですね。レイはやさしい、いい子ですから」
毒親を一所懸命かばう男なんか、ほうっておけるわけがない!(ガチギレの荒ぶる地母神系スナイパー)
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