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8.4

 屋敷から迎えを呼んでもらってペトルシアに帰ると、母は病気で寝こんでた。

 え? ペトルシアまでの道のりが心細くなかったか?

 どうだろう……。子ども一人ってわけじゃなくて、使用人が着いててくれてたし。小さかったから、些細なことまではちょっと覚えてないかな。

 とにかく、社交界で何か失敗すると、母は必ず病気にかかって寝こむんだよ。

 だるい、苦しい、もう死んじゃうって。

 病名は特になかったみたい。

 あ、いや、デュマ先生が当時、病名がないから診ないって言ったきり、別のお医者さんに代わったからよく知らない。

 病名はないけど、母は「また迷惑をかけたわたくしなんて死ぬべきなのよ」って、病気になりましたって報告の手紙に書いて、あちこちに送ってたよ、失敗する度に。

 でも、一通り寝こむとまた社交界に自分から行くって言って出かけて、人間関係で失敗して寝こんで、病気になったと手紙をあちこちに出して、その繰り返しだった。

 母が病気になると、私がつきっきりにしてなくちゃいけなかったから、わりとよく覚えてる。

 なぜって……。母は一人で寝てると心細くて、病気がひどくなって死んじゃうからだよ。

 うん、そう、そんな風だから。どんどん母への、社交界からの招待状が減っていった。

 最後の招待は、先代の聖女様が開いてくれたお茶会だった。

 母が私も来てっていうから、着いて行ったよ。

 先代の聖女様、すごくやさしいおば様だったんだ。

 母はいつも通り、散々にやらかしてたのに、眉をひそめる周囲をなだめてくれてたから、母は失敗したのに気づかずにいられた。

 ああ、どんな失敗かっていうと。

 一回だけちらっと会っただけの、夫人の名前をわざわざ出して

「あの人が「誰?」と岩ばかりの顔をなさったから、わたくしもう自分から他人様に声をかける勇気が出せなくなってしまいましたの」

 とか、自分が話題の中心になれるよう話を振ってくれずに、他の人たちで盛り上がっていたたお茶会を、

「武門の誉れ高いギルマン伯爵夫人ですのよ、ばっかり紹介されて嫌でしたわ」

 とか、まあ、うん、自分のせいなのに他人のせいにする話を、一人でしゃべりまくってたんだ。

 でも、その頃の私はもう10歳になってたから、母は失敗を怒られなければ、失敗に気づかず病気にもならないってわかってた。

 だからそのお茶会は、恥ずかしいのとホッとするのが半々だったんだ。

 でも、そこで私が失敗した。

 アイスクリームってフォークとスプーンを添えるのが、貴族のマナーで、一応はフォークもちょっと使うしきたりなんだけど。

 私、うっかりフォークを使うのを忘れて、スプーンだけでアイスクリームを食べちゃったんだ。

 ちゃんと器に盛られたアイスクリームって初めて見たのもあるけど……、やっぱり気を抜いちゃったせいだろうね。

 それを見た母は、アイスクリームの噐をひっくり返して私を怒鳴りつけた。

「この礼儀知らず! わたくしに恥をかかせたわね!」

 って、母の怒鳴り声が部屋に響き渡って、ビリビリ震えた。母は私に怒鳴りまくった。

 私はもちろん謝り続けたけど、母の怒鳴り声はやまなかった。

 そしたら、それまでやさしかった先代聖女様が、静かに母を叱ったんだ。

「いいかげんにしてください。あなたがどうしようもないから、今日だけはギルマン家のために許してあげるように、皆さんにお願いして集まっていただいたんですよ」

 って。

 ちゃんとその場で謝るべきだったんだろうね、母は。

 いや、失敗したのは私なんだけど、ちゃんと母をみていてあげられなかったから。

 私がちゃんとできなかったから、母を謝るべき状況に追い込んでしまったんだ。

 私が母に、招いていただきながら、食器をひっくり返して怒鳴り散らすなんて、とんでもない失礼をさせてしまった。

 でも、母は謝らなくちゃいけないときに、面と向かって謝るのが怖くて、帰って病気になってから謝罪を添えて、病気の報告を手紙にして出してたんだ。

 母は、どうしても、怖くてその場で謝れなかった。

 怒られるのが怖くて、母は謝らないで部屋を飛び出して、ペトルシアに急いで逃げ帰った。

 帰る途中、馬車の中で、母の腕を見て私は気づいた。

 赤銅色の、鱗が生えてる。

母親がメンヘラかまってちゃんなので、ずっとケアしてたレイくんです。人に合わせて相手の気分をよくする能力は身についたけど、しっかりバグったよ!

ブクマ、評価、いいね、ありがとうございます。毎日更新。しばらく6時18時の一日二回。お気に召したら評価をポチっとお願いします。


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