8.2
ローストビーフを切り分けて、香味野菜のレフォールソースをかける。
ローストビーフを焼く際、一緒に焼き、肉のうまみがしみこんだ野菜で作るソースだ。
初号機の分はソースなし、代わりに一番分厚く切ってやる。
ローストビーフの隣に、ザワークラウト(酢漬けキャベツ)を付け合わせとして添える。
これが一枚目の皿。
サラはいつものコンバットナイフではなく、ケーキ用ナイフでタルトタタンを切り分ける。
大きくて、ぎっしりと詰められたリンゴがこぼれそうな、タルトタタンの一切れの皿。
隣に、ゴツゴツした素朴な形のスコーンも盛る。
ランプの灯りに照らされたテーブルに、幸せたっぷりの皿が五枚のった。
サラの正面にレイが座り、サラの肩には初号機がとまっている。
サラはまず、小皿に切り分けたローストビーフの皿を、初号機のくちばしに近づけた。
「えらかったですね、初号機。ご褒美ですよ」
「ゴホーウビ!」
歓喜の鳴き声を上げた初号機は、くちばしを皿に突っ込み、カッカッカと音を立てて、分厚いローストビーフを平らげた。
食べ終わると、もう一度歓喜の鳴き声を上げる。
「ゴホーウビ!」
ごちそうさまー! といった様子で初号機は飛び立ち、階段の方向へ向かう。
自分のねぐらである、塔の上の監禁部屋へ戻るつもりなのだろう。スイスイと上へ行く。 初号機を見送った二人は、先にレイが、次にサラが、ザワークラウトを一口食べた。
口の中に酢漬けキャベツの酸味が広がるも、酸味をキャベツの甘みがやわらげ、口の中がスッキリする。
「よく食事に出ていましたが、おいしいですね、ペトルシアのキャベツは」
レイは、じんわりとよく噛んで味わっていたが、サラの言葉にうれしげに返した。
「うん! ペトルシアで昔から作ってるんだよ! ペトルシアでは、ザワークラウトは必ず家になくちゃいけないものなんだ。ザワークラウトさえなくなったらおしまい! 昔からそう決まってるよ」
レイの青ざめていた頬が赤らみ、少し目がうるむ。キャベツの茎の部分に白い歯を立て、ざっくりと噛み切ると、赤い舌がちろりとのぞいた。
レイのシャクシャクという、キャベツを噛む音がする。
存外大きめの喉仏が、ぐりっと動いた。飲み込んだのである。
「ちゃんと味わって食べたのは初めてだけど。なんだか申し訳ないな。みんながんばって、こんなにおいしく育ててくれたのに」
そしてレイは、ローストビーフをナイフで切り分けながら、話し始めた。
「言い訳みたいになっちゃうんだけど、味わう余裕なんてなかったんだよ。屋敷で家族と食べても、一人でガツガツむさぼっても」
サラもローストビーフを切りながら、問うた。
「あなたに、何があったんですか?」
テーブルいっぱいのごちそうって、満たされることの象徴だと思います。味わえてよかったね!
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