7.2
救われた? 父親がドラゴンになったおかげで? どういうことだ?
疑問を感じるサラの腕で、初号機はドラゴンの情報を再生し続ける。
どこかの店内で、中年の女たちが井戸端会議をしている音声らしい。
『確かにお父さんはひどかったけど、お父さんがつけ狙うせいでお母さんまで逃げ出したのよ? あの娘、もうひとりぼっち』
『それよ。あそこの家、お母さんも外面はよかったけど、本当はかなりアレな人だったのよ』
『そうなの!? 確かにあんまり付き合いなかったけど、いつもニコニコしてやさしそうだったわよ!?』
『外ではね。だって考えてもみてよ。夫がドラゴンになったからって、自分一人だけ逃げ出す? 普通、娘を置いて逃げないわよ』
『ええっ、自分が狙われてるから、娘を置いて逃げたって、てっきり……』
『逆よ逆。家族全員が狙われてるから、娘だけを的にするように置き去りにして、自分だけ逃げ出したの』
『えー、うがちすぎじゃない? どうしてそう思うの?』
『ほら、あそこの家、お父さんが朝から酒浸りだったじゃない? お菓子なんか買ってもらえないから、いっつもあの娘、うちの店のショーウインドウをじーっと見てたの。お父さんの酒瓶を買う道の行き帰りによ。もうあたしゃかわいそうでねえ』
いつも観測している、菓子屋でしていた会話らしい。
『ああ、それならあたしも見たわ。お父さん、毎日あの娘にお酒買いに行かせてた。10歳にもならないうちから、重たい瓶を抱えて冬でも薄着で。アル中ってどうしようもないわね』
『でしょう? 10年ぐらい前の話、ホントにあの娘が10歳にもならない頃よ。こっそりあげたのよ、あたし、あの子にうちの店のクッキーを一袋。そしたらね』
『そしたら?』
『すぐ後にあの娘が、お母さんにクッキーを半分あげようとしてるのを見たの。食べないで持って帰ったのねって、あたしまた泣きそうになったわ。なのによ』
『何があったの?』
『お母さん、クッキーを全部ひったくって、地面に投げ捨てて踏みつけたの。あんなちっちゃい子からお菓子を取り上げたのよ。しかも怒鳴りつけた内容がこれ「ひと様に施しなんか受けるんじゃない! うちがおかしいと思われるでしょ!」って』
『ええっ、そんなひどい、だってあそこの奥さん――』
『そうなの、あの子、一人になってから、ちゃんと肉がついたでしょ? 今まではお給料もほとんど親に渡してたのよ。今ね、しょっちゅうね、うちにクッキー買いに来るのよ。
きっと昔、取り上げられたのが忘れられないのね。よっぽど食べたかったんだわ。だからついついおまけしちゃうんだけど、ホントは――』
サラは観測した、街の様子を思い出した。
頻繁に菓子屋でクッキーを買って、歩き食いをしていた若い娘がいた。
ドラゴンに襲われて殺された主婦と、そっくりの娘だった。
石碑の文字は、心悪しき者、皆竜と化せ。
レイの懇願は「お母さんは怒られると死んじゃうんだ」
ドラゴンは国境、つまりはペトルシアにしか現れない。
点と点をつなぎ合わせると、二つの答えが導き出される。
ペトルシアでは、悪しき人間がドラゴンに変わる。
レイから食事を奪ったのは、ドラゴンと化した母親だ!。
他人に迷惑をかけないために、身内に迷惑をかけよう精神の人間っているんですよね。
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