表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

40/66

7.1

 サラはベッドでゴロゴロしていた。

 昨日まではいつも通り、日がな一日スコープを覗いて、領地を観測していたのだ。

 今日になって、初めての感情を覚えた。

 スコープを覗くのに疲れた。

 基本的な話だが、スナイパーならば疲れないということはない。普通に人間の肉体だ。集中して何かを観測し続ければ、心身共に深く疲労する。

 疲労を補うのはタフな精神力。それのみである。

 話を単純にすると、一週間もレイが来ないので、観測する精神力が尽きたのである。

 なぜ、レイが来ないぐらいで精神力が尽きたのか、ベッドでサラは考える。

 スナイパーとして狙撃の機会をうかがった期間は、ドラゴン撃墜時の半年間を筆頭に数週間はザラであったし。

 狙撃のために潜んで観測しているときは、飢え渇き寒さ暑さなど無い方がまれだった。

 今回はたった一週間、タエコが届けてくれる三食おやつ付きで、火鉢を炊いて暖かい。

 超快適環境にもかかわらず、疲れてスコープを覗く精神力が尽きた。

 精神力が尽きる可能性たり得るものを想定し、一つ一つ消去していく。

 気づく。

「ああ、私はさびしいんですね」

 今まで、人間と関わり合うめんどうくささを感じても、さびしいなんて感じたことはなかった。

 それなのに、レイと会えないだけで、どれだけ恵まれた環境でもさびしい。

 もう来ない、とレイは言った。

 きっと混乱していただけ。自分が理解したくないことを理解させられそうになったから。

 でも、理解させようとする女なんて、嫌いになったのでは?

 でも、またでも、レイ、あなたはまだ理解できていない。

 もし、私が「妹が死ぬと気分がいい」って言ったらどうする?

「私に喜んでほしいから」人を殺すことになりますよ?

 自分の心も自分の意志も希薄に、軽々に、流されるように、人を殺すと決定することになる。

 相手に与えられた以上に返し続けた人間の、行き着く先はそこなんですよ。

 レイ、私はあなたに、そんな風になってほしくない。

 返しすぎるのは、私で終わりにしてほしい。

 他の誰かに、取り返しのつかないものを、奪われる前に。

 いえ、きっともう既に、奪われてしまった後なのだろうけれど。

 レイはああ見えて、命がかかった状況で、他人のために命を張れる。

 勇気といえばそうだろう。

 でも、レイは、どこか底が抜けてしまった人間に見える。

 身を守るために必要な、底が。

 レイ、気づいて。私はあなたの「喜んでほしい」という気持ちそのものだけが、一番尊くて、うれしくて、好きになったの。

 だからあなたの危なっかしさが、ほっとけなくて、守りたいの。

「クアー! ドラーゴン! ドラーゴン!」

 ベッドで考え込んでいると、初号機の鳴き声が響き渡った。

 コダマガラスの白い羽が、真昼の太陽を受けて輝いて、板戸の隙間から飛びこんでくる。

「ドラーゴン! ドラーゴン!」

 鐘の音のように響く鳴き声に、サラは跳ね上がるようにベッドから出た。

「初号機! ドラゴンの情報を集めてきたんですね」

 サラの左腕のローブに、初号機が止まり、鳴く。

「ドラーゴン!」

 サラはテーブルの上から、ゆで卵を取って初号機に見せた。

「いい子ですよ、初号機。ご褒美です。はい、あーん」

 殻ごとのゆで卵を、初号機のくちばしに持っていき、右手に力を込めて殻を砕く。半分に割ったゆで卵を、初号機のくちばしの中に放り込む。

「クアー!」

「いい子です。情報を話して」

 初号機はほめられたとうれしげに、もう一度「クアー!」と鳴いて。調べてきた音声を再生し始めた。

『あの娘、気の毒ねえ。お父さんがドラゴンになるなんて』

『そうかしら? お父さんがドラゴンになったおかげで、救われたと思うわよ』

疑似母子をやっていた女が、母でなく女と自分を自覚する瞬間も、とても性癖。

ブクマ、評価、いいね、ありがとうございます。毎日更新。しばらく6時18時の一日二回。お気に召したら評価をポチっとお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ