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6.6

 レイのくちびるが震えた。

「受け取れない、受け取れないって……。じゃあ出て行くの? ねえ、どこかに言っちゃうの? 私を置いて行っちゃうの?」

 サラはゆっくり微笑んだ。

「いえ、どこにも行きませんし。衣食住は受け取ります」

 レイはサラにしがみついてきた。背中に腕をまわし、ローブに爪を立て、必死に必死に問うてきた。

「じゃあ何をしてほしい? どうしたら喜んでくれる? なんでもするよ? ねえ、何か、何が、おねがい」

 必死に問うてくるレイの表情は、涙ぐみながらの引きつった笑顔だった。

 サラは、レイに告げた。

「私はあなたに、お腹いっぱい食べさせたいだけです」

 レイは叫んだ。

「うそだ!」

 もう笑うことすらできず、レイは悲鳴のように叫び続けた。

「うそだ! うそじゃなかったらだめなんだ、だめになっちゃうんだよぜんぶ!」

 ガクンと落っこちるように、レイの叫びが止まった。

「ごめん、もう来ない」

 レイはサラを離し、夢遊病者のような足取りで扉へ向かった。

 サラは、レイの背中に向けて言った。

「置いていったりしませんから」

 レイは答えず、扉を閉めて階段を下りていった。

 鍵がかかる音はしなかった。

 サラはようやく、初めて泣いた。

 レイは与えられたものに対して、与えられた以上に返さなければ、いけないと思いこんでいる。

 それが、あぶない関係性と知らず、当たり前だと思いこんでいるから。

 フィフティフィフティの関係性を求められると、恐慌状態に陥った。

「レイがどうしてああなったか知らなくては……。レイがあのままなんてだめ……」

 あんなにあぶない生き方を続けられるなら、利用された方がまだましだ。


 コダマガラスは、ラクール一族で重宝される魔獣である。一族の者に、頻繁に飼い慣らされている。

 うまく飼い慣らせば、調べてこいと命じた情報一つに限り、情報に関連する音声を収集して戻ってくる。

 いわば、一族伝来の(さく)(てき)(ほう)である。

 命じた言葉を覚えさせ、遠方でくり返させることもできる。伝書鳩の音声バージョンといったところだ。こちらの能力から、コダマガラスと呼ばれている。

 レイはペットだと思って嫉妬しているが、サラにとって初号機は武器である。武器なので人間より信用している。

 ベッドから起き上がったサラは、初号機に向かって命じた。

「ドラゴンに関する”音”、集めて戻って響かせろ、行け」

 ずっと室内にいた初号機だったが、いざ空を見ると飛びたくなったのだろう。窓に貼った板の隙間から、夕暮れの空に白い翼が飛びだった。

 情報を”ドラゴン”にした理由は、サラを利用しようとするなら、真っ先に思いつくことだろうからだ。

 ドラゴンを撃墜したスナイパー、サラ・ラクール。

 そして、レイが「お母さん」と呼んだドラゴン。

 最後に石碑の文字『心悪しき者、皆竜と化せ』

 三点も心当たりがあれば、調べるべきはドラゴンだと誰でもわかる。

 サラはライフルを三脚に立て、窓の隙間からスコープを覗きこんだ。

 相変わらず、上空にはドラゴンが舞っている。

「忘れておくことを忘れるな。忘れたころが、撃ちどきだ」

病み闇レイくん(ちゃんと子どもでいさせてもらえなかった子どもが、精神的に幼いまま大人になってしまう、そういう男がとても性癖)

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