6.5
レイは息を呑んだ。
サラはサンドイッチを手にしたまま、受け取れないと言った理由を話し始めた。
「我が家がニートを抱えることになります」
「へ?」
キョトンとするレイに、サラは淡々と説明を続ける。
「聖女がおいしいポジションだと、レイは思いますか?」
「え、うーん」
レイは少し考える。
「聖女様を怒らせないようにって、周りが色々便宜を図ってくれるよね。なんというか、いばれる立場ではあると思う」
「では、政治的な役割は?」
「いるだけでいいっていうか、いなくなられたら困るから、みんな機嫌を取るよね。ああ、そっか、いるだけだから爵位もなければ役職もない。それで国王陛下に嫌われてたっけ」
「それで嫌われてた? そうなんですか?」
「え、気づいてなかった?」
説明役がレイに代わる。
「国王陛下って、上下関係にめちゃくちゃきびしい人なんだよね」
そうか? いや、元軍人なんだから当たり前か。レイも国王陛下になれなれしいようでいて、ずっと「下の者が甘えてくる」態度を崩さなかったものな。
「うん、すごくきびしいよ。それでさ、サラと初めて会った夜に、妹さんサラを陛下にこう言ったでしょ「姉は察しが悪くて手がかかる」って」
サラはヴォルフガング陛下と会った夜を思い出す。
「ああ、メアリの口癖なんですよ、あれ」
「だと思う。でもさ、私たちは婚約に至った過程を知っているけど、国王陛下は知らないでしょ?
で、私たちはもう同居してる。国王陛下から見たら、サラはもう伯爵夫人なんだよ。
元々姉とか兄は弟妹からすれば目上だって思ってるのが王族な上に、サラは伯爵夫人でスナイパーで貴族。妹さんは爵位も役職もない平民。
国王陛下からみれば、自分の臣下の妹さんが目上に対して、とんでもなく無礼な口を利いたようにしか見えないよね」
「ああ……。何もしなくても妹がニートに落ちる可能性が出てきました……」
サラは頭を抱えそうになったが持ち直し、説明役に戻った。
「まあとにかく、いばる以外何もできないポジションに、人を殺してまで着きたい理由はただ一つ。無能だからです。
少しでも何かができるか、何かをしたい人間なら、聖女になんかなりたくないんです。でも」
サラは頭の痛い記憶を思い出しながら、説明を続ける。
「妹は異能の能力も低ければ、鍛錬や勉強といった努力も嫌いな人間です。けれども、他人をひがむ心は人一倍。
だから私の異能がねたましくてたまらないし、ひがむ心を埋め合わせるために、他人に機嫌を取ってもらい続けなければ気が済まない。
できるのは唯一、社交だけ。こんな人間がどこで働けると」
「あ、ごめん、妹さん社交能力も低い。国王陛下に嫌われてるのも、私がずっと無視してたのにも、まったく気がつかなかったし。
っていうか、本人に面と向かって察しが悪いって言う人って、いつでもどこでもトラブルメーカーだし。
だからあの蛇使いが欲得で動くってわかったんだよね、情で動く人なら妹さんとはつるまないでしょ? やっぱりあっさり裏切ったじゃない」
レイの言葉に、サラはまた頭を抱えた。
「……唯一の取り柄がなくなったので、妹は聖女orニートが確定しました。父はどうでもいいですが、母がニートを抱えるのは忍びないです。
妹の転落は気分がよいですが、ニートになられるのは困ります。
いえ、あんなヤツと一緒に働きたくないという意見には同意しかありませんが。というかもうニートルートが、うっすら見えてしまってますが」
「そっか……なら……」
レイの顔が明るくなる。サラは顔を上げ、首を横に振る。
「他の何かでも、もうあなたからは受け取れません」
モラ妹に復讐しすぎると実家がニートを抱えるって、けっこう切実な話なんですよね。
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