6.3
日が暮れる前にミミアリマムシのポトフとパンで夕食を摂り、サラはさっさと寝ることにした。
ベッドに入って自身に命じる。
眠れ。
同時にサラは眠りに落ちる。眠れるときに眠る能力はスナイパーに必要である。
眠れないときは絶対に眠れないのが、スナイパーの待ち伏せだ。
眠れるときに眠っておかねばならない。ライフルを抱いて眠る。
暗。
覚醒。
サラはバネ仕掛けのように起き上がる。
ライフルを瞬時に構える。セフティレバーを外す。
室内は真っ暗である。体内時計で推定。現在AM2時前後。
ベッド前に、立っている者がいる。
眼前の人物は、暗闇で誰だかわからない。
「撃たないでくれ。俺は手を引くと告げに来た」
相手が発した言葉で、サラはすべてを察する。
メアリの寄越した、蛇使いの暗殺者だ。
「手を引く? 名乗らず顔も見せず、深夜に忍び込んで来て信用しろと?」
「詳細はお前の男に聞け。第一、俺の名前も顔も、知ったところですぐに変わるんだ」
レイがなんとかなったと言っていたことだし。
いや。
自分を利用する相手を、信用するのか?
サラは脳内で自分の問いに答える。
その気になったらいつでも殺せる。目の前の男も、レイモンド・ギルマンという男も。
裏切るようなら殺せばいい。
でも。
「信用できないなら、次に殺せ。今は撃たないでくれ」
「たしかに。それで世は事も無しですね」
「ああ。ところで、俺の蛇はどうした?」
サラはああ、と頭をかいて答えた。
「おいしいポトフになりました。蛇を取り返しに?」
目の前の相手が、肩をすくめるのが見えた。
「自分の武器は食わねえよ」
暗殺者の足音はしなかった。ただ、部屋のドアが開き、閉まる音がして。
ドアの鍵がかかる音はしなかった。
誰も殺さなくても、逃げられる。
でも。
「殺したくない、置いていきたくない」
レイのそばにいたい。
スナイパー、アサシンと対峙するの回。
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