6.2
前書きに本文を書いてしまっていたのを訂正しました。ご不便をおかけして申し訳ありません。
カブとにんじん、ミミアリマムシをよく煮込めば。
「ミミアリマムシのポトフです」
サラがスープボウルによそった汁に、レイは少しすまなげな顔をする。
「ありがとう。ごめんね、まだちょっと具は食べられなくて」
ポトフのメインは具材である。やわらかく煮込んだ具材をサラに盛り、ナイフとフォークで食べるのが本式だ。
知識としては知っているらしい。二日酔いによる胃の不調は、今身をもって学んでいる最中だ。
「レイ、具材は明日食べればいいのです。まずは一口飲んで見てください」
起き上がったレイが、スープボウルを受け取る。
「あったかい……」
スープボウルのぬくもりを手のひらで味わったあと、レイはスプーンをスープボウルに入れた。
「あつッ」
スプーンを口に入れようとして、スープの熱さに失敗し、飲み損ねたスープがわずかにレイの口の端からたれた。
ちろりと存外厚い舌が、くちびるからのぞく。
赤く染まった舌が、おそるおそるスプーンをなめる。
自分の行儀の悪さに気づいたレイは、はっと頬を赤らめて舌を引っ込めた。
一口、飲む。
「!!」
レイモンドの顔が驚愕に満ちた。
「サラ、これ、何? おいしい、おいしくて、これ、何?」
狙いより喜び方が大きいので、サラの心が少し晴れる。
「ミミアリマムシで一番おいしいのは、肉と骨から染み出る出汁なのですよ」
「出汁!?」
ミミアリマムシは肉食動物だが、キノコ類を好んで食べる習性がある。何種類ものキノコを胃の中でブレンドし、全身にキノコの風味と成分を染みつかせるのだ。
通常の動物と違い魔獣であるため、キノコの成分まで体内に残る。
結果、ミミアリマムシを煮込むことで、動物性の出汁と数種類のキノコ出汁がブレンドされた、うまみ出汁ができあがるのである。
しかも今回のポトフには、野菜の皮から出る出汁も追加されている。わずかな塩気とコショウの味付けもある。
ミミアリマムシのポトフにかぎっては、具ではなくスープがメインなのだ!
ふうふうとやけどせぬようにレイは出汁を味わう。
わずかに口の端に雫を残し、レイはスープボウルを空にした。
「おいしかったー、サラ、なんだか元気が出てきたみたい」
「それはようございました」
レイは起き上がって、上着を羽織った。
「ごちそうさま、サラ。じゃあ、自分の部屋に戻るね」
部屋を出て行く後ろ姿も、しっかりしている。見送ったサラは、まだ彼のぬくもりが残るベッドに潜り込んだ。
「利用……されていなければ、レイがここまでしてくれる理由がないのは理解できる。でも、私の心が、レイに問いただすのを嫌だと言っている」
ベッドに残っているレイのぬくもりが、サラにうつってほしいと願い、サラはベッドにより深く潜った。
「きっと、恋をしているせいなのでしょうね。本当にめんどうくさいものです、恋愛とは。
問いただしたくないくせに、どう利用したいのかだけでなく、なぜ、利用したいのか知りたい。不必要な情報だというのに、どうしても知りたいです」
初号機もベッドに潜り込んできた、くちばしがサラの手に触れる。
ご主人様、だいじょうぶ? と聞いているかのようだ。
「めんどうなことになっているだけですよ……」
本日のメニューは「魔獣ミミアリマムシのポトフ」 これは美青年がポトフを賞味しているシーンです。極めて健全なシーンでございますので、不健全にみえるのはあなたの性癖の問題です。
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