5.4
まず、ミミアリマムシの全身にナイフを入れて、内臓を取り除く。
残りの胴体はぶつ切りにする。多少大きく切ってもかまわない。
トマトスープが入っていた鉄兜を洗い、ぶつ切りにしたミミアリマムシの肉を入れる。
鉄兜に水を入れる。
ライフル弾で火をおこす。火鉢に火を入れる。
カブとにんじんの皮を剥いて乱切りにする。茎も食べやすい大きさに切る。
鉄兜ににんじんを、剥いた皮と一緒に入れる。しばらく煮込んでカブを入れる。茎はまだ入れない。
鉄兜の中身がぐつぐついってきたら、茎と塩少々、コショウ少々を入れる。
最後に、ぶつ切りにしたミミアリマムシの肉を鉄兜に入れる。
このまま数時間煮込む。
後はレイが戻ってくるのを待つだけだ。
「サラが好きだよ」「好き! 好き好き大好き!」
レイに言われたセリフを思い出し、ボソリとサラは口に出した。
「私のどこが好きなんですか」
口に出したときの顔が、まだ赤くなっているのに気づき、真顔に戻す努力をする。
レイが階段を上がってくる足音が聞こえた、ついでタエコの足音も。
「サラ! 暗殺者の件はなんとかなったよ!」
満面の笑みがほめてー! と言わんばかりのレイに、サラは頭を下げて礼を述べた。
「助かりました。ありがとうございます」
「何をしたのか気にならないの?」
結論だけ聞けば充分です、と言おうとして、サラは考え直す。
「おうかがいしてもよいのでしたら」
「うん! あのねっ、近いうちに、本人が教えてくれると思うっ!」
「はあ……そうですか」
別に聞かなくてもよかったな、と思いかけたが、レイのほめてー! の表情を見てまた考え直す。
「あなたは優秀です」
「えっ」
ん? ほめかたを間違えたか? とサラは一瞬思ったが、レイの顔がかーっと赤くなったので、違うと気づいた。
「いや、今回も、助けてもらっただけなんだ、本当のところは」
サラははあ、とため息を吐いた。見栄を張ったなと遠回しにたしなめているのではない。自覚のなさのたしなめ方を考えたのだ。
「あなたでなければ、助けようとは思わない。あなたは手を差し伸べた相手の言うことを素直に聞き、感謝を忘れませんから。しかも実行も飲み込みも早い。だから助けたくなるんです」
レイが無自覚に生きている自身の能力の高さを説明し、サラは最後に付け足した。
「素直ないい子は、誰でも好きですよ」
かーっとうれしげに照れていたレイの顔が、一瞬陰る。
「どうしました?」
レイはあわてて両手を振る。
「なんでもない!」
言ってから、レイは鼻をひくつかせた。
「いい匂いがする」
「ええ、まだ煮込んでいる段階ですが。ミミアリマムシを調理しています」
「げ、魔獣を食べる……?」
タエコがレイの背後で小さくつぶやいたのが聞こえたので、がんばってくれた彼女にもねぎらいをこめて、すすめてみる。
「できあがったらタエコもいかがですか?」
タエコは青い顔をして「わたくしはあくまでも使用人ですので」と言い残して消えた。
だから普通に出て行ってほしい。
一方、レイはキラキラした目で鉄兜を見つめている。
「魔獣っておいしいの!?」
期待されているのがうれしくて、サラは「ええ」とはにかむ。
照れ隠しに、ミミアリマムシの生き血を入れたグラスを手に取った。
「こっちは私のものですが、一口だけならいかがですか?」
レイの目がいきなり見開かれ、サラは思わずたじろぐ。
「一口? サラのグラスから一口飲んでいいの? サラのグラスから?」
スナイパーズクッキング。今回はミミアリマムシの肉をよく煮込みます。……間接キス展開になりましたね?
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