5.2
トマトスープを温め直していると、そろそろと白い頭がガラクタの中から出てきた。
コダマガラスは用心深い。ミミアリマムシの騒動で、ガラクタの中に隠れていたのだろう。
「初号機、ケガはないですか?」
生きていることから噛まれてないとわかるが、念のため羽毛の隙間を確認する。お尻を確認したときは嫌そうにしたものの、ケガはないようだった。
「初号機って、そいつの名前?」
手の中の初号機を指さして、レイが聞いてくるので答える。
「ええ、いつまでも名前なしではよくないと思いまして」
「やった! 愛を感じない!」
「ええ、愛ではなく信用を寄せるために、型番で呼んでいます」
「ひどい! 浮気だ!」
喜んだり嘆いたり、アップダウンの激しいレイを、初号機が怪訝そうに見る。
ご主人様、彼は何を一人で騒いでいるんですか? と言わんばかりだ。
……嫉妬深いだけでもめんどうなのに、嫉妬の対象がコダマガラスかあ……。
我ながら、やっかいな男を好きになったものである。
「スープ、あったまりましたけど」
とりあえずスルーすると、レイは一転してご機嫌になった。
床に座り直したレイに、スープボウルによそったトマトスープを渡す。
「いただきまーす!」
彼はスープを一口飲むと、ポワンと夢見心地の表情になった。
「おいしい。すごくおいしいね」
「そうですか、理解しました」
「え、あ、うん」
レイは理解できていないようだが、サラは自分の感情を理解した。
食べさせたい=愛している。
サラを真っ赤にさせるに充分な解だ。
「サラ? どうかした?」
レイが不審げに顔を覗きこんでくる。普段は人の顔色をうかがってばかりいるくせに、どうしてこんなときだけ鈍感になるんだ!?
っていういうか、食後のレイの顔は、至近距離だとさらに危険物なんだが!?
と、葛藤していたサラの顔が、す、と真顔に戻る。
「タエコ、戻られましたか」
「忍者の気配に気づかれるとは、流石です奥様」
レイの背後に音もなく現れたタエコに、サラは力を込めたセリフを吐いた。
「普通にドアから入ってください」
暗殺者にメモ用紙を渡してきたタエコと、レイは話すことがあると部屋を出た。
サラは床に縫い止められたまま息絶えている、ミミアリマムシを見て機嫌を良くする。
獲物を仕留めた恍惚は、他の何物でも得られない。
そして、ミミアリマムシは味がいい。心底レイに食べさせたい!
スナイパーは、自分の恋心を理解する。食べさせたいってそういうこと。
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