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25/66

4.5

 アルミニウムの箱の中には、こんがりときつね色に焼けた食パンが入っていた。

 ペトルシアで一般的な蕎麦粉パンである。アルミニウムの箱で上下から押しつぶされたような形をしている。

 サラはアルミニウムの箱からパンを取り出し、グローブを外した右手で持った。

「レイ、どうぞ」

「え、あ、あーん?」

 以前と同じように、サラの手ずからかじりつこうとするレイに、サラは少しだけ口角をつり上げる。

「私はかまいませんけど、後悔しますよ?」

 サラの言葉にレイは戸惑うも、そのままかじりつきにかかる。

「え、えっと、あーん、むぐ。……ッあつーッ!」

 後悔すると予告した通りサラの手ずからかじりついたレイは、悲鳴を上げて口を押さえた。レイの悲鳴に驚いたコダマガラスが、バサバサと羽音を立てる。

 パンの中から、トロトロに溶けたチーズと軽くマヨネーズで味付けしたマッシュポテトが、ビュッと口の中に飛び込んできたのだ。

 当然ながらアツアツである。

「あつ、あつい、え、何これ? パンが二枚重なってる」

 口の中をやけどしたレイに水を渡す。サラは考え、水を飲み干すレイを見ながら、名付けた。

「そうですね……。熱いサンドイッチ。名付けてホットサンドです」

 肖像画の額縁でできた箱で、スライスチーズとマッシュポテトのサンドイッチを挟んで薄く潰しながら焼いたものだ。

 食パンをトーストすると同時に、食パンに挟まれたチーズとマッシュポテト、マヨネーズが熱く焼け溶けるのだ。

「ね、後悔したでしょう?」

 少し()(ぎやく)(てき)に口角をつり上げたままのサラから、レイはサンドイッチを自分の手に受け取った。

「手が……あったかい……」

 手袋越しに熱が伝わるのだろう。栄養失調の人間は、冷え性だ。じんわりと手先を温める熱は、手のひらのごちそうと云えた。

 晩秋のペトルシアで、ゆっくりとホットサンドの熱が、レイの手のひらにいうつっていく。

 意を決したようにかぶりつこうとするレイに、サラは「ちゃんとフーフーしてください」と注意する。

 レイは一時停止して、ホットサンドをフーフー吹き、がぶり、とかぶりついた。

「……おいしい」

 口の中をやけどしていても、溶けたチーズとマッシュポテトが混ざり合ううまみ、二つを挟んだパンの香ばしさは、かぶりつくのを止められない。

「痛くておいしい……」

 先日より頬を赤く染めたレイの目は、蕩けた上に湯気で少しうるんでいる。

 やけどの痛みにしみる美味という、マゾヒスティックな悦びを、レイに与えているかのようだ。

 レイの食べる速度は、前回よりだいぶ遅い。単純に熱くて痛いせいだが、結果的にレイに味わうことを教えていた。

「ごちそうさま。おいしかったぁ……」

 食べ終えたレイは、満足げにお腹をさすっている。

「まだ、お腹がぽかぽかしてるよ」

「それはようございました」

 サラは無表情のまま、火鉢に寄ってきたコダマガラスの頭を撫でた。

「どうです? ごはんは自分で食べた方がおいしいでしょう?」

 レイは「うん……」とうなずきかける。そこでコダマガラスが「クァー!」と鳴いた。

「あ、お前もごはんですか。少し待ちなさい」

 サラは立ち上がって、ホットサンドに使った残りの塊チーズに、コンバットナイフをすべらせた。

 切り落としたチーズ片を、コダマガラスの口元に持っていく。

「はい、あーん」

「なんで!? なんでそいつばっかりサラにあーんってしてもらえるの!? ひどいひどい浮気者!」

 菓子類にしないことで、急激な血糖値上昇を抑えたのだが……。

 普通に食べて元気が出たら出たで、うるさいな。

美少女が美青年をいじめるSMプレイではありません。食事風景です。SMプレイに見えるのは、あなたの性癖の問題です。

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