4.4
ビスケットとマシュマロの組み合わせは、サラがビスケットに慣れ親しんでいたことと、メイドがお茶請けにマシュマロを添えて持ってきたことから思いついた、いわば偶然の産物である。
サラが野営中に食べるビスケットは、軍用糧食の超ハードビスケット。通称乾パン。
軽くて持ち歩きやすく、胃の中で水分を吸って膨らむすぐれものだ。
対してメイドが持ってきたビスケットは、乾パンに比べればやさしい口当たりである。 胃の中で膨らみはしないが、その分消化しやすく食べやすい。ただし、ビスケットをそのまま火であぶっても、ただの温めたビスケットである。
手料理、とはちょっと違う。
そこで思い出したのが、乾パンによく添えられている氷砂糖だ。
もっと甘く加工すれば、糖分というエネルギー変換が早い成分を、効率よく体内に取り込めるのではなかろうか!?
最初はビスケットを火であぶり、マシュマロを挟んだが、これではただの温めたビスケット感がぬぐえない。
ならばとマシュマロを焼いてみると、クリームのように溶け始めた。
これだ! とビスケットに挟んでみれば、大成功だったわけである。
しかし。
お菓子で栄養を摂る習慣はよくない。
何より。
もっと色々、おいしいものを教えたい!
さて、そのためには調理器具を作らねばならない。
さらにそのためには、何を作るのか決めなければならない。
……。
「まずは自分の食事ですかね」
行き詰まったときは息抜きだ。
サラは自分のカップに牛乳を注ぎ、メイドが置いていってくれたサンドイッチを手に取った。
ハムと千切りにしたキャベツが挟まった、大ぶりのサンドイッチである。パンはペトルシアらしく雑穀交じりだ。
サンドイッチにかぶりつくと、ジューシーなハムとキャベツのさわやかさ、隠し味のマスタードのピリリとした刺激が、口の中に広がった。
「サンドイッチなら作れるのではないでしょうか」
凝ろうと思えばいくらでも凝れるが、具材をパンで挟めば、どれだけ凝れなくてもサンドイッチだ。
とはいえ、もうちょっと工夫したくはある
頬張りながら、サラは部屋を見渡した。
「これです」
休憩終了。作戦を続行する。
部屋の隅、残骸と化したインテリアを集めた箇所から、目当ての物を探す。
あるのは知っているのだ。
ザカザカと20分ほどガラクタをあさり、ようやく目当てのものを発見した。
額に入った肖像画である。
15センチ四方の小さな肖像画だ。描かれている人物は、汚れと破れで判別しづらくなっている。
「最適です。後は――」
翌日。
レイの足音が聞こえてくる。昨日と違って、足音に恐怖と迷いがない。
むしろ弾むような足音だ。
ちょうど時刻は昼食時である。
「サラ、今日も食べ物をもらえるかな?」
ひょこっと扉から顔を出したレイに、サラは手招きをして応えた。昨日と同じく、雪中用グローブをはめた手である。
「準備はできていますよ。こちらに来て温まってください」
相変わらず火には恐怖心があるのか、火鉢の前に座るのに、レイは少し躊躇した。
しかし、意を決してしまうと、サラの隣に腰を下ろす。
昨日は気づかなかったが、レイは貴族だというのに、床に座るのに抵抗感はないらしい。
まあ、いい。
それより、早く食べさせたい。
サラは手にしていたアルミニウムの平たい箱を、火鉢の中に投じた。
元は肖像画を入れた額縁である。
額縁の中の絵を抜き取り、向かい合わせに針金で縛り上げると、アルミニウム製の平たい箱になるのだ。
火中に投じられた箱に、レイは少し驚いたが。
「サラ、なんだかいい匂いがしてきた」
火中で箱が熱せられるにつれて、漂ってきた食欲をそそる香りに、もっと驚いている。
サラは黙って、コンバットナイフで器用に火から箱をすくい上げ。
グローブをした手で針金を解いた。
「わあ……!
パカッと開いたアルミニウムの箱。中身を見たレイが歓声を上げる。
スナイパーズクッキング。今回の道具は、先祖伝来の額入り肖像画です♡ 火に投ずることで使用します♡
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