4.3
冷静になるとかわいい。
膝の上で寝息を立て続けるレイの顔を見下ろして、サラは真顔になった。
ふっさりと長いまつげが、まぶたの境目を多い隠し、濃いクマに影を落としている。
頬がピンクに色づいたままなのも相まって、今のレイの姿は――。
なんだコレかわいい。かわいい上に何かグッとくるものがある。なるほどこれがアレか。よいこはおとなになるまでまちましょう的なアレか。冷静になると抱いてはまずい感情ではないのか。いや感情はきれいな表現ではないのか。率直に言って劣情ではないかのか。初めての感情だからよくわからん。わからんがかわいい。とにかくかわいい。いや、かわいいだけではない。意外と重い。手や喉仏がしっかりと男だ。ゴツゴツしてる。なんだ、オスはレイ本人ではないのか。男の色気もあるじゃないか。それでもかわいい。冷静になるとかわいすぎる。
いや待て私は。
冷静ではない!
サラが気づいた瞬間、レイのまつげがゆっくりと動いた。
「サラ、わた、し……、いつの間に寝て……」
レイの声は少し、しっとりとしている。
サラは真顔のままビクっとしたが、冷静を装って返答した。
「人間の自然な身体反応です。お気になさらず」
「ん……」
膝の上に、レイの飼い主に対する大型犬のようにすり寄る感触を覚えて、サラはまたビクッとしてしまった。
「あっ、あ、ごめん……。またうとうとしちゃって」
レイが慌てて体を起こす。
「ごめんね、嫌だったよね、男にべったりくっつかれるなんて」
「あ、いえ、お気になさらず……」
もっと寝てていいですよ、と言いそうになって、倫理的にまずいとサラは質問を切り替えた。
「レイ、次は何が食べたいですか?」
レイはうれしげに即答した。
「今日食べたもの!」
あまりにキラキラとした笑顔に、サラの胸がわずかに痛む。
「これはいつでも作れますから、とりあえず、レイの好きな食べ物を教えてください」
「今日食べたものが好きだよ?」
ああ、これは、ほめているだけではない。
レイは、おいしいという感覚を、今日まで知らずに生きてきたのだ。
「今日食べたもの、すごくおいしかったよ。また食べたい。毎日食べたい、ってほしがりすぎだね、ごめん」
キラキラと笑っているレイは、自分が哀しい人間であることに気づいていない。
「サラ、どうしたの? 何か悲しいことがあった?」
「いえ、なんでもありません。それより、ちゃんとベッドで寝てください」
「あ、うん。ごめんね?」
まだ、安心した顔なんかしてしまって。
「明日、また何か作りますから、昼頃いらしてくださいね」
「明日も作ってくれるの!? ありがとう! じゃ、ちょっと昼寝してくるね」
部屋を出て行くレイの背中を見て、サラは再度強く思った。
「食べさせたい。お腹いっぱい食べさせてあげたいです」
現在時刻PM1時。作戦開始。
美青年がおなかいっぱいになってうたた寝しているだけの健全なシーンですが、ヒロインにはグッとくるものがありました。
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