3.1
「なるほど。状況はわかりました。が、少々信じがたい状況なので、もう一度確認させてください」
「うん」
テーブルに向かい合って座ったレイモンドは、ウキウキした様子でうなずく。
サラはレイモンドに聞いた話を、一つ一つ確認していった。
「国王陛下が、ペトルシア領の近くまで御幸されるので、ちょっとついでにお忍びで、こちらのお屋敷まで来られるんですね」
「うん」
「その際の護衛として、聖女であるメアリが着いてくるわけですね」
「うん」
「陛下の訪問は一昨日、あなたが陛下にお願いして、即日了承されたんですね。それで、大慌てで護衛を命じられたメアリが、仲の良い姉妹を装うために、贈り物を送ってきたんですね」
装えると思っているだけで、どの面下げてと言いたくなる発想だ。
「うん。陛下にお姉さんがうちにいるんだから、妹さんに会わせてあげてくださいって、お願いしたんだ。あ、もちろん、こんな砕けた口調じゃないけどね。だって、普通の姉妹だったら自然でしょ」
「まあ……、メアリとしては私を殺そうとしたのを隠したいでしょうから、引き受けざるを得ないですね」
「でしょー。サラに喜んでほしかったから、陛下にはちょっと悪いけどね」
「いやおかしいですよ」
「どこが?」
「私に喜んで云々を、あなたが言ったのも一昨日なんですよ? 一国の国王が急ぎでも何でもない要件で、頼まれてすぐ来てくれるなど、普通に考えてありえません」
「陛下って面倒見がいいからー」
サラは思わず頭を抱えた。
「コミュ強が……」
レイモンドは、長身のくせに身をかがめて、上目遣いでサラを見た。
「ごめん、勝手に決めて嫌だったら、今からでもとりやめに」
「できるわけありませんが」
国王陛下をお招きしておいてドタキャンなど、失脚一直線である。
「で、結論として、国王陛下がおいでになるのは、今夜なわけですね」
「うん。隣の領地の晩餐会を、抜け出してきてくれるんだって」
「ハードスケジュールを推して来てくれる国王……」
サラはしばらく頭を抱えていたが、確認せねば、とレイモンドに向き直る。
「私はいわゆる宮廷作法が一切できませんし、当たり障りのない世間話もできませんが」
「国王陛下はやさしいから大丈夫だよ、私も初めて会ったときはできなかったし」
「いつ、初めて会われたのですか?」
「伯爵に任ぜられたときだから11歳のときかな」
「11歳の子どもだったからでは……」
「だいじょうぶだいじょうぶ。今までずっとやさしいよ」
「ああ……はい……。では、国王陛下との会話はおまかせしてもよろしいですか?」
「うん。まかせて!」
輝く笑顔で引き受けてくれたが……、挨拶ぐらいはしないとダメだろうなあ……。
挨拶、苦手分野だ。
「ええと、それで、服装は妹が送ってきたものを着ればよいのでしょうか?」
レイモンドの表情が、少し曇った。
「サラは着たい?」
少しいじわるな気持ちになり、サラはレイモンドに問い返す。
「あなたは着てほしいですか?」
レイモンドは、曇った表情のままで言う。
「できれば、着てほしくないかな」
「なぜ?」
「だって、似合わないのばかりわざと選んで贈ってくる人のドレスなんて、着てほしくないよ」
似合わないのばっかりだったのか、気づかなかった。
ドレスをよく見れば、胸元が大きく開いたドレスばかりだ。
似合わない、は遠回しな言い方で、サラのようなド貧乳が着ればこぼれない乳房がこぼれるだろう。
だが、メアリの悪意が変わらないのが、自分の思い過ごしだと言われなかったことで、サラは少し安心した。
「すみません、すねさせてみたかったもので」
サラはレイモンドを正面から見た。
「この格好でお出迎えいたしましょう」
今の言い方から察するに、レイモンドは国王陛下に頼んだ通り、姉妹仲良く再会させたいわけでも、ましてや和解させたいわけでもないようだ。
なら、レイモンドの思惑はなんだ?
辺境伯のおねだり「国王陛下ー♡ 婚約者を妹さんに会わせてあげてくださーい♡(姉を謀殺しかけた妹なのはナイショナイショ♡)」
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