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まずはプロローグ。
※薬莢の説明に重大な誤字脱字がありました。訂正してお詫び申し上げます。
分厚い陶器の鉢に、乾いた木像の破片を投入する。鉢の中には、以前燃やした木像が灰になり、よくたまっている。破片の中には炭になっている物もあるので、これは取り出す。炭は大事だ。
次に7.62ミリライフル弾の薬莢から弾丸を抜く。
サラは、ここでふと微笑んだ。銃の弾が薬莢と弾丸に分かれるのを見た彼が、「わっ、壊した」と驚いていたのを思い出したのだ。
国境警備を王命とする辺境伯の自覚はあるらしい、と。見知らぬものであろうとも、武器を無駄に壊すは彼の想定にない。
弾の分解は壊しているわけではない。
弾とは、底の部分の薬莢が、弾丸と発射機構および発射薬を一体化させる働きと射撃する際に広がって発射ガスの漏れを防ぐ働きをしている。
簡単に説明すると、薬莢が先端に取り付けられた弾丸を発射させる装置、というわけでだ。
元々が別たれた存在なのだ。密着しているからといって、別つのは壊すに該当しない。
まあ、この世界で銃や弾丸を使うのはサラだけなのだから、勘違いして当然だ。
弾から取り出した火薬を、薄汚いドレスを裂いた布にふりかける。これはたきつけである。
たきつけは床の、じゅうたんが敷かれていないレンガがむき出しの、部屋のすみの床に置く。
そして、神殿発行の祈祷文書をちぎって、紙を薬莢のせんにする。
そして彼女は、小柄な体に背負っている、ライフル銃を抜いた。
L96A1ボルトアクション式スナイパーライフル。
紙でせんをした薬莢を、ライフルに装填し、彼女はライフルをたきつけよりわずか上に銃口を向け、引き金を引いた。
バシュン。銃声が響く。弾丸を受けてたきつけに火がつく。彼女はライフルをかたわらに置く。
火がついたたきつけの布を、陶器の鉢に入れた。
鉢にたまった灰の上に、缶詰の空き缶を置く。底を抜いて、平たい円形の筒型になっている。
さらに空き缶の上に、鉄兜を逆さにして置いた。空き缶の輪に鉄兜の底(本来は頭頂部)が、うまくはまり、固定される。兜の内側に、朝食のドレッシングの残りである、オリーブオイルをたらす。
パチパチと、焚き火のいい音がする。
オリーブオイルの上に、彼女はチーズの塊を置いて焼き始める。
チーズの隣に朝食の残りのソーセージと、ゆでブロッコリーも入れる。
軽く火が通ったところで、彼女は再びライフルを手に取り、窓の外に向けて、スコープをのぞき込んだ。
スコープ越しに彼の姿が、屋敷の中に入ってくるのが見えた。
想定通りの時間だ。
耳を澄ませ、レンガ造りの階段を上がってくる足音を聞く。
足音を聞きながら、コンバットナイフを手に取る。
鍵を開ける音。数秒後、部屋の扉が開いた。
遠慮がちなねだる声が発せられる。
「サラ、あの……、よければ……、何か食べ物をちょうだい」
扉の向こうから姿を現した青年に、サラはいつも通りの無表情で言った。
「いいですよ、レイ。ちょうど食べ頃です」
青年――レイの顔がぱっと明るくなる。小走りで鉄兜に駆け寄り、中をのぞきこんだ。
チーズが焼ける香ばしいにおいが、鉄兜からさかんに上がっている。
「これ、食べていいもの?」
サラは手の中の、黒いコンバットナイフを、片手で軽くあやつった。
「まだです」
コンバットナイフをチーズの表面にあて、薄く表面をスライスする。
チーズの塊の内部が、トロトロと溶けている。
「レイ、手袋をしていてください」
サラはレイにフォークを渡し、自分も皮の手袋をはめた。
レイは大型犬の子犬のように、そわそわと手袋をはめて、鉄兜の中をのぞいている。
貴族だというのに、床に座るのに躊躇がない男だ。
サラは手袋をはめた手でフォークを持ち、ソーセージをフォークで刺して、チーズの塊に浸した。
フォークをくるりと回すと、ソーセージに溶けたチーズがからみつき、フォークを引き上げると、トロトロとした状態のままにソーセージから垂れ下がった。
「こうして食べてください」
「うん!」
レイはサラの指示通り、チーズがからんだソーセージを口に運んだ。
「あつっ」
「やけどにお気をつけて」
くちびるをやけどしたらしいレイだったが、サラの注意にうれしげにうなずくと、ふーふーとソーセージをふいて、小さな口を大きく開き、ぱくりとほおばった。
「あふっ」
ふいたところであつかったようだが、もぐもぐとソーセージをそしゃくし、レイは飲みこむ。満面の笑みを浮かべる。
「サラ! すごくおいしいよ!」
サラは変化のない無表情で答える。
「それは何よりです」
レイのフォークは、今度はブロッコリーを刺す。
「すごくおいしい。サラ、どうしてこんな、見たこともない料理が作れるんだい?」
サラは自分のフォークから、ソーセージを口に入れる。
口内であついチーズがとろけ、ソーセージの脂分と混ざり合って、動物性タンパク質の濃厚な美味となる。
口の中の物を飲みこみ、サラはライフルを抱え寄せた。
「第一に、私は野営でしか料理が作れません。あなたが普通に見るような、当たり前の料理は作れません」
第二に、と彼女は続ける。
「その場にあるものでなんとかするのが、スナイパーだからです」
サラ・ラクール、18歳、スナイパー。元聖女候補。
現在、当代ギルマン家当主、ペトルシア伯、レイモンド・ギルマン、目の前でフォークを嬉々として口に運ぶ男によって。
監禁されている。
第1話も同時更新です。
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