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9、吉川良平、危機一髪!

「ふー……っ、ここまでくれば安全ね」


 額の汗を拭い、良平は寛太と共に、並んでベンチに腰をおろした。

 目の前には静かな湖が広がっており、手漕ぎボートが何艘か、のんびりと散歩している。


ここは木々に囲まれた、賑やかな人混みから隔絶された広場になっていた。時折鳥の鳴き声が聞こえ、時間の流れをゆったりしたものに変えてくれる、穏やかな空間になっている。繁った木々に阻まれ、辺りには不思議と誰もいなかった。


「良子さん、なぜ二人からわざとはぐれるんですか?」


 突然シリアスに迫ってきた寛太の顔に、良平は「え?」と見返した。


「良子さんは、もしかして、晃二さんと別れたいのではないですかっ? だから、こうやって僕に助けを求めてきたんじゃないですかっ?」


 勝手に進んでゆく寛太のメロドラマに、良平は頬を引きつらせた。

変なゴタゴタだけはこれ以上避けたいと考え、良平は慌てて否定した。


「あ、あの、そういうわけではないのよ。ただ、しのぶさんが晃二と二人で話したいことがあるって聞いてたから、ちょっとしばらくの間だけ二人っきりにさせてあげたいなと……」

「素晴らしいっ! 願いを叶えてあげるなんて、天使という言葉はあなたのためにあるんですよっ! 良子さんっ、どうかこの僕と、愛という名の蜃気楼に迷い込んでみませんかっ?」

「いっ、嫌よっ」

「嫌よ嫌よも好きのうちですよねっ! 二人で一緒にどこまでもいきましょうっ!」

「頼むから一人で行けっ!」


 もはや彼は、良平一人の手に負えそうにない。


「もう、あたしには構わないでっ! というよりも、あたしたち二人にちょっかいを出さないでちょうだいっ!」

「ちょっかい? 猪八戒だったら知ってますよっ!」

「あたしも知ってるけど、そうじゃないわっ!」


 いくら良平が男と言えども、寛太は良平よりも十㎝背が高く、おまけに筋肉も明らかに上だ。ずんずん迫ってくる寛太に、良平は恐怖と共に不安を感じ、慌ててベンチから立ち上がった。


 人のいる方へ走って逃げようとしたが、ワンピースが裾に擦れて走り辛いうえ、不運にも木々が邪魔をして逃場がなかなか開けない。


「良子さんっ!」


 あっという間に追い付かれ、良平は寛太に手を取られ、木の幹に押しつけられた。


「うわっ」

「良子さんっ! 僕と共に永遠の愛を築きましょうっ! 僕はあなたに愛というものを感じたんですっ! この燃えるような熱い感情を、一体どこにぶつければいいんでしょうっ! 嗚呼っ、良子さんっ、僕の良子さ~~んっ!」

「やっ、やめろっ! じゃなくて、やめてっ! ああっ、もうっ、誰か━━っ! えーん、晃二様━━っ! ごめーんっ、俺が悪かったーっ、だから助けてくれよ━━っ!」


 涙声で叫んだ良平に、


「大丈夫か?」


 ようやく居場所に辿り着いた晃二が、良平と寛太に駆け寄った。我に返った寛太が手を離した隙に、良平は涙目で晃二に駆け寄る。


「こっ、怖かったよ~~っ! うわ~~んっ!」


 まさに、少女漫画のヒロインのような絶好のポジションである。良平をいたわるように、晃二は良平の頭をよしよしと撫でてやった。


「ハイハイ、可哀そうにな」


 そう言って、立ち尽くしている寛太としのぶを振り返った。


「こういうことだ。池端、俺は良子を真剣に愛している。もう諦めてくれないか」

「分かったわ」

『ええっ!?』


 予想だにしなかった嬉しい発言に、良平と晃二の歓喜の声が混声合唱を披露した。


「二人の愛には敵わないわ」


 二人は心の中で、(やった━━━━っ!)という歓喜の雄叫びを上げる。

しかし、


「でも、後のことは知りませんよ」


 しのぶの視線によって促された先には、女装の良平の腰にしがみついている寛太がいた。


「良子さん、僕は諦めませんよっ! 例え火の中水の中、どこまでも追い掛けてゆきますっ!」


 二人は愕然となった。がっくりと肩が大きく沈む。

 今日これで一体何回目の溜息だろうと、二人は漠然と考えていた。

読んでくださって、ありがとうございました。

次回に続きます。

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