3、いざ出陣!
昨年オープンしたばかりのためか、園内は多くの人混みで賑わっていた。
新緑の五月という過ごしやすい気候に加え、快晴の今日は絶好のパーク日和だったようで、辺りは、親子連れや若いグループ、恋人同士でひしめきあっていた。
軽快な音楽が流れ、楽しげな笑い声が溢れ、ジェットコースターの豪快な音が頭上を幾度も通り過ぎていく。
至るところに設置されたキッチンカーからは、食欲をそそるおいしそうな匂いや甘い匂いが立ち込めていた。
誰もがみんな、楽しく過ごしている中、良平は言葉になりそうな溜め息を吐いた。
(せっかくの貴重な休みの日に女装をして、俺は一体なにをやってるんだろう……)
隣では、
「長い一日になりそうだな」
と、晃二が関ヶ原の戦いに出陣するかのような、侍の顔つきになっていた。
「あら? お二人とも、なんだか楽しくなさそうね」
刑事の如くギラリと鋭い眼光を放ち、しのぶは疑わしそうに、そんな二人を交互に見やる。
(やべっ!)
良平と同様、晃二も心の中で叫んだらしく、途端、晃二はわざとらしいまでのワクワクした口調で語りだした。
「おおっ! あれは話題の絶叫マシーン、〈ドラゴン・ジェットコースターX〉ではないかっ! よしっ、一発目はあれに乗ろうっ!」
アトラクションを指差すと、「さあっ!」と良平に手を差し伸べる。
「まあっ、あたしも絶叫系は大好きなのっ! 二人で度胸試しねっ!? 晃二っ、あのアトラクションまで競争よっ!」
同じく、良平も手に手を取ってそれに習う。「うふふ」「アハハ」と笑いながら軽やかに駆け出す二人に、
「ああっ、良子さ~んっ。僕とも度胸試しをやりましょうっ!」
慌てて寛太も後ろからついていく。
ミュージカル調の仲良し小好し振りに、しのぶは訝しげに後へ続くのだった。
〈ドラゴン・ジェットコースターX〉なるものを楽しんだお次ぎは、〈スペースシップ2120〉というスリリングな宇宙旅行を体験できるという屋内型のジェットコースターに飛び乗った。
その後は休む間もなく、〈バトルビーム・シューティング〉で襲いかかるエイリアンをレーザー銃で撃滅させ、その足で〈ローラーコースター〉の列に並び、最高速度時速八〇㎞で、水上を疾走してギャーギャーと四人で喚いた。
あんなにブルーだった良平と晃二だが、テーマパークの魔法にかかると、あっさり遊びに集中できてしまうところが単純である。
結局、なんやかんやで時間はあっという間に過ぎてゆき、あまりに騒がしいアトラクションばかりが続いたため、四人は最終的に〈サイドクルーズ〉なる乗り物に乗った。
これは、園内にひかれている海水上をゆっくりと移動する遊覧船だった。
正面玄関の右横にある乗り場地点から園内を半周し、最終的にレストランやキッチンカーが密集しているフードエリアへ到着するらしい。
このまま遊覧船に揺られて水面の散歩を楽しめば、十分後には、ちょうど十二時のおいしい昼食にありつけるという嬉しい流れなのである。
「晃二さん、晴れて良かったですね!」
「そうだな。天気がいいと遊覧船も気持ちがいいな」
「晃二、お昼はなに食べるの?」
「良子さ~んっ! ぜひ僕におごらせて下さいっ!」
他愛ない会話をしながら、遊覧船はのんびりと水面に波紋を描きながら進んでいく。
四百人乗りの大きな遊覧船は、二階建ての構造になっていた。四人は一階の座席ではなく、階段を上がり、甲板で爽やかな風に当たりながら、園内の風景をスマホで撮りあっていた。
他愛のない会話で穏やかな空気は順調に続いていたが、しかし、その空気もここまでだった。
「そういえば、お二人はどういうきっかけで付き合い始めたんですか?」
スマホで撮りあっていた良平と晃二の動きがピタリと止まる。しかし、すぐに晃二が語り始めた。
「出会ったのは半年前で、場所は市立図書館だ。高い場所の本をオレがとってあげて、その本を話題に喋るようになって、その日のうちにLINE交換して、図書館で何度か会うことにして、外でデートするようになって、オレから付き合ってくださいって言って付き合うことになったんだ」
早口でまくし立てる晃二に、
「そ、そうなの」
と、良平は後に続くことにした。設定を共有していなかったので、片方がまくし立て、残りは肯定するだけという作戦に出たらしい。
「そうなんですか。ちなみに、最初のデートは……」
「図書館だ」
「そうなの」
「じゃあ、図書館以外のデートは……」
「オレの近所の公園だ」
「そうなの」
「じゃあ、付き合ってくださいのセリフを言った場所は……」
「オレの近所の公園だ」
「そうなの」
「じゃあ、初めてのキスは……」
「オレの近所の公園だ」
「そうなの」
解答不一致で不審がられるのを避けるため、なんでもかんでも先に答えを言ってしまう作戦である。
ある程度の質問はやり過ごせたと安心したのも束の間、しのぶからの厳しい指摘に、一気に空気はピシリとなった。
「それにしても、良子さんって、晃二さんの友達の良平さんにそっくりですね」
「えっ! え、ええ。あたし、実は良平さんのハトコなのっ。親戚にもよく似てるって言われるのよ。エヘッ」
人差し指を頬に当てて、小首を傾げて見せた良平に、しのぶは淡々と返した。
「ですよね。いくら親友だからって、女装してカノジョ役を引き受けるわけないですよね」
ドスドスッ!と良平の心臓に矢が突き刺さった。
「こいつ……俺の正体に気付いてんじゃねーかぁ……? ……しくしく……」
心の中で男泣きに泣く良平に、晃二はすかさず他人事のように適当に耳打ちをした。
「いや~~……? 大丈夫だろ?」
「お前、恥をかくのは自分じゃないからって適当なこと言うなよ?」
「今日の昼食もおごってやろう」
「キャッ、嬉しいっ! だから晃二、好・きっ!」
あっさり機嫌が直って女言葉に戻った良平に、晃二はこっそりと額の汗を拭う。
その時、ちょうど遊覧船は目的地に到着したのだった。
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次回に続きます。




