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もし親友が「昼メシ一週間おごるから女装してカノジョ役をやってくれ」と言ったら  作者: 大崎真


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12/12

エピローグの続き

その時、不意にガサガサッと茂みの揺れる音がした。二人がほぼ同時にそちらへ目をやると、二つの頭が見えている。


「見ましたよ~っ、晃二さ~~んっ」

「どういうことですか~っ? 良子さ~~んっ?」


 声にならない驚きの表情をする二人に、その頭は徐々に茂みから姿を現した。

それがしのぶと寛太だと認めると、二人は揃って顔面蒼白になった。リトマス試験紙にアルカリ性の液をたらしたような、見事な染まりようだった。


「な、なんで出てきたんだ」


珍しく戸惑う晃二だが、気にも止めず、しのぶはつかつかと二人に近づいていく。

両手をグーにして、口元を隠しているブリッコポーズの良平に、しのぶはずかずかと無遠慮に近づくと、良平の口元を覆っていたものを勢いよくビリッと引き剥がした。


「いてっ!」


晃二がストアで買っていた、LLサイズの絆創膏だった。


「二人のキスを見て、そのまま諦めて帰ると思ったんですか? 甘いですよ、晃二さん。私って疑り深いタイプなんです」


そう言うと、隣の良平に目を向けた。


「良平さん、あなた美少女で良かったですよ」

「あ、ありがとうございます……」


 及び腰で良平はお礼を言った。


「晃二さん、良平さんが好きだと騙しましたね」

「晃二っ、お前、俺を騙したな!」


二人に同時に詰め寄られても、晃二は飄々と返した。


「騙してはいない。友達として好きだということだ」

「池端、気を付けろ。こいつ、平気で嘘つくぞ」


晃二を指差しながら、良平は憤慨した。


「お前、何も企んでないって言ってただろっ。仲間の俺には演技をするってちゃんと教えろよ!」

「嘘って、ちょっとの綻びからあっという間に破綻していくんだと教えてくれたのはお前だぞ」

「…………」

「だから、敵を騙すためには、まず味方を騙さないといけないなと」

「今、俺を騙したってあっさり認めましたよ~……」


晃二を指差している良平の手が、驚きでわなわなと震えた。


「お前、いい加減にしろよ! 嫌いになるぞ!」

「ちょっと待て。オレを嫌いにならないと約束しただろ」

「ふざけんな! マジで嫌いだ!」

「嫌いにならない約束だぞ! 約束を守らないなんて人として最低だぞ!」

「おかしいおかしいっ!」


あまりの理不尽な説教に、良平は笑いそうになるのをこらえながらツッコんだ。

嘘をついて騙し、男と男の約束をあっさり破った者の説教とはとても思えない。しかし、晃二の説教はまだ続いた。


「嫌いにならないっていう台詞は嘘だったんだな!? 嘘をつくっていうのはな、人が一番やっちゃいけないことなんだぞ!」

「いやいや、ずっとお前がおかしいおかしいっ! なんでお前が怒ってるんだよっ! ほんとだ、ごめんってなるかっ! 男と男の約束、よく平気で破れるなぁ!」

「オレはそういうことは割と平気でできるタイプなんだ」

「最低か、お前っ! あんなに堂々と『嘘じゃない』って大嘘こきやがってっ!」

「良平、お前を怒らせたくてこんなことを言うわけじゃないが、思いっきり嘘をつくって凄く楽しいもんだな」

「最低な奴だとは知ってたけど、ここまでとは想定外だったな……。清々しい顔して言う台詞じゃねーよ、このサイコパス野郎っ! 嫌いになるに決まってるだろっ!」

「まあまあ、カツカレーを一回おごってやるから」

「A定食二週間に戻せっ!」


言い合いをしている良平と晃二の間に、しのぶが横から入ってきた。


「あの~……じゃあ、良平さんを恋人にしたいとかは……」

「全くないな。女の子がいいな」


即答する晃二に、横から良平が付け足した。


「吉岡里帆のファンクラブに入ってる奴が、俺を好きなわけないだろ」

「吉岡里帆のファンクラブに入ってるんですか?」

「オレは将来、吉岡里帆と結婚するんだ」


困惑した表情で助けを求めるように良平を見やるしのぶに、


「可哀想に……。ボケじゃなくて本気なんだろうなぁ……」


と、良平は不憫に思いながら、困ったように相槌を打った。


「おい、良平。バカにしてるが、お前は将来、オレの結婚式で謝罪する羽目になるんだぞ」

「笑えないよ。心配になるよ。頭、大丈夫か? お前みたいなサイコパスを、吉岡里帆が好きになってくれるわけないだろ。向こうはお前の存在も知らないんだぞ」

「あの~……ということは良平さんに恋愛感情は……」


おずおずと質問するしのぶに、


「もちろんゼロだ」


と、晃二はキッパリと言い切った。


「そんなことだろうと思いました」


しのぶの思いがけない台詞に、晃二は驚いた。


「知っていたのか。なぜ分かった?」

「普通、好きな人の両目を突こうとしたり、おでこを血まみれにさせたりしませんから」

「しまった……! 確かにそうだ……!」

「ちょっと待て。友達にはやってもいいかとか、君たち、いろいろ間違えてるぞ?」


良平はまともな奴はいないのかと呆れる。


結局、真実は明るみになってしまった。もはや、なんの手の施しようもない。

作戦が失敗に終わって落胆している晃二に、しのぶはにっこりと笑いかけた。


「晃二さんっ、私、あなたのことがますます好きになりましたっ! どんな手段も使う怜悧狡猾ぶり! 痺れます! もう私、なにがなんでも、晃二さんについていきますねっ!」


 晃二がフリーと知り、またもやキラキラと瞳を輝かせているしのぶの隣では、寛太が号泣している。


「うお~~んっ! 良子さ~んっ! どこに行ったんだ~っ! 僕はホモだったのかーっ! 女装をといてもボーイッシュなところも好きだ~っ!」

「ヒィ━━━ッ!」


 泣きながら抱きしめてくる寛太に、良平は悲鳴を上げる。


「……事態は一つも好転しとらんじゃないか……」


 晃二は地獄絵図を見て、吐き捨てずにはいられなかった。


「晃二さ~んっ! 今日は一緒に帰りましょうねっ! 月曜日から覚悟してて下さいっ!」


 にこにこ満足そうに笑っているしのぶの後ろから、


「晃二~~っ! なんとかしてくれ~~っ!」


 涙を拭いながら、必死ですがってくる良平がいる。その良平の腰には、


「嗚呼っ! なんて悲しすぎる愛の結末っ! しかし、僕は諦めませ~んっ!」


 と、寛太がしっかりと抱き付いているではないか。

 晃二は大きな溜め息を吐くと、思わず、ぼそっと一人ごちた。


「ダメだこりゃ」

最後まで読んでくださって、本当にありがとうございました。

前回の恋愛小説も難しかったですが、コメディ小説も、とても難しかったです。笑いを生むというのは本当に難しい作業です。お笑い芸人の皆さんは、本当に凄いと思います。

また、無名の自分のために、時間を割いて読んでくださって、本当にありがとうございました。

心より感謝申し上げます。

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