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もし親友が「昼メシ一週間おごるから女装してカノジョ役をやってくれ」と言ったら  作者: 大崎真


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エピローグ

西の空には、すでに赤い夕焼けが綺麗に輝いていた。日も暮れ始め、パーク内の人混みも少しずつひき始めている。


 フランスの街並みをモチーフにしたメインとなる広場で、しのぶはふと立ち止まった。すぐ横には、大きな噴水が涼しげなしぶきを作っている。

同じように立ち止まった三人に、しのぶは残念そうに切り出した。


「じゃあ、私と寛太はここから二人で帰ります。晃二さんと恋人になれなかったら、私、現地解散って決めてたんです」


 小さく笑うしのぶに、晃二はかすかに頷いた。


「……そうか。じゃあ、オレは良子に伝えたいことがあるから、さっきの広場に戻るよ」


晃二の言葉に、良平は首を傾げた。


「伝えたいこと? なんだそれ?」


不思議がる良平と違って、しのぶは僅かに驚き、


「もしかして……」


と、晃二を見上げて反応を見た。

意を決したように微かに頷く晃二に、


「そうですか……。頑張ってくださいね」


と、しのぶは切なそうに小さく笑った。

 手を振って離れていくしのぶと寛太に、晃二と良平も手を振って応える。

良平は少なからず良心が疼いた。


(なんか、可哀そうなことしたな……)


 遠ざかるしのぶと寛太の後ろ姿に、罪悪感が沸き上がる。

 しかし、実際、晃二にその気がないことは明らかであり、どうしてやることもできない。

今の良平にできることと言えば、


(こんなモラハラ気質な奴じゃなくて、もっとちゃんとした、いい奴を見付けろよ……)


 と、胸中元気づけてやることだけだった。

小さくなる二人の背中を見送りながら、晃二は言った。


「良平」

「なんだよ?」

「さっきの広場に戻ろう。話したいことがある」

「ここじゃダメなのか?」

「人がいないところがいいんだ」

「ふ~ん、別にどこでもいいけどな」

「良平」

「なんだよ?」

「オレがなにを言っても驚くなよ」

「なんなんだよ、一体」

「いいから、驚くな」


急に声色が変わった晃二に、良平は戸惑った。いつもとは違った真剣な顔つきに、良平は気圧され、いろいろ聞きたかったが思わず言葉を飲み込んだ。


「……分かったよ」

「それと、オレがなにを言っても嫌いになるなよ」

「さっきからなんなんだよ、一体」

「いいから、オレのことを嫌いになるな」

「……分かったよ、嫌いにならないよ」

「約束だぞ」

「分かったよ」

「絶対だぞ」

「分かったよ。お前のこと嫌いにならないよ」

「それなら良かった」

「広場で何が始まんの?」

「……別に、お前に伝えたいことがあるだけだ」

「なんか企んでんのか?」


晃二はすぐに首を横へ振った。


「企んでない」

「本当か?」

「本当だ」

「本当の本当か?」

「本当の本当だ」

「怪しいなぁ~」

「怪しくない。オレは嘘はつかない」

「…………」

「オレを信じてほしい」

「男と男の約束だぞ?」

「ああ、男と男の約束だ。なにも企んでない。嘘もついてない。ただ、お前にオレの気持ちを知っておいてほしいだけなんだ」

「ふ~ん。分かったよ」


何を言われるか全く想像もできていない良平は、簡単に承諾した。

とりあえず第一段階はクリアしたと、晃二はホッとしたように息を吐いた。






「いや~っ、終わった終わった~」

「長い一日だったな」


 人々が三々五々行き交う道から離れ、パーク内の死角となっている小さな広場の芝生で、良平と晃二はくつろいでいた。


誰も来ない一角となっているため、晃二は寝転び、良平に至ってはカツラをはずして、ワンピースを内輪替わりにバタバタとあおいで、あぐらを組んでいる。

 木々に囲まれた空間でしばらく癒されていたが、思い出したかのように、良平は愚痴をこぼし始めた。


「ったく、俺は今日一日、一体何のために女装なんかやったんだよ……」

「まあまあ、そんなに落ち込むなよ」

「二週間分のA定食が~~……」


 がっくりと深くうなだれる。

その時、微かに茂みが揺れた気がして目をやったが、どうやら風だったようだ。

誰もいないと判断したのか、晃二は良平に向き直った。


「ありがとう。良平は頑張ったな。お陰で池端は諦めてくれたよ」

「まあ、それはいいけど……。それにしても、よく池端があんなにあっさり諦めてくれたな」

「そうだな」

「なんか言ったのか?」

「……まあ、そうだな」

「えっ、どうやって説得したんだよ。なに言ったんだ?」

「まあ、なんでもいいだろ」


珍しく言葉を濁す晃二に、良平は不思議だった。


「気になるなぁ~」

「なんでもいいじゃないか」

「気になるなぁ~!」

「まあまあ、なんでもいいだろ」

「気~に~な~る~なぁ~~っ!!」

「分かった分かったっ!」


珍しく声を張って宥めると、晃二は良平のすぐそばまできて座り直した。そして、改まって口を開いた。


「じゃあ……教える。もともと、これを伝えるつもりだったしな」


言った後、すぐに口を開かない晃二に、良平はもどかしくなって思わず急かした。


「教えて教えてっ、なになにっ?」

「…………」

「早く早く、なになにっ?」

「…………」

「なにもったいぶってんだよ。早く言えよ、もどかしいなぁっ」


急かす良平に、晃二を意を決して口を開いた。


「『オレは良平が好きなんだ』と言った」

「へ?」

「実は、オレはお前が好きなんだ」

「へ?」

「今日も、お前とデートしたかったんだ」

「へ?」

「池端を諦めさせるなんて口実だ。オレはお前とデートしてみたかったんだ」

「へ……?」

「良平、落ち着いて聞いてくれ。オレはお前が好きなんだ」


落ち着けと言われても、良平はどういう反応をすればよいのか分からなかった。ただただ、呆けた顔で呆然とするだけだった。思わず言葉が漏れる。


「嘘だろ……?」

「嘘じゃない」

「絶対に嘘だ。俺は騙されない」

「嘘じゃない。さっき男と男の約束をしただろ。オレは嘘はつかない」

「俺は信じない。絶対に嘘だ」

「嘘じゃない。オレを信じてほしい」

「嘘だ。嘘って言え」

「嘘じゃない」

「嘘って言え!」

「嘘じゃない」


良平の頬を、晃二は両手で優しく包み込んだ。


「ずっとお前のことが好きだった」

「…………」

「嫌なら言ってくれ。ここでやめる」

「…………」


良平は嫌と言えなかった。言葉を出すことができなかった。ただ黙って、晃二を見つめ返すことしかできなかった。

『オレのことを嫌いになるな』と言った晃二の必死な顔を思い出す。そういうことかと、良平はようやく全てが分かった。


嫌と言わない良平に、晃二はそっと顔を近づけた。

辺りの空気が、時が止まったように静まり返った。

お互いの鼓動が大きく高鳴っていることが手に取るように分かる。

そして、そのまま、二人の顔が優しく重なりあった。

芝生に延びた二人の影が、寄り添うように一つになった――

読んでくださって、ありがとうございました。

遅くなって、すいませんでした。

次回で最終回です。

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