表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/25

第八話

 2月28日。

 TOEIC試験当日。

 ザァザァぶりの雨。

「まさか、おんなじ日にTOEICとはな」

「ああ。頑張ろう」

 おれとかっちゃんは、名古屋駅を出て、裏の方に向かった。

 名古屋駅の裏の建物で、TOEICが開催されるらしいから。

 結構並んでいた。

 みんな、就活前だから、焦っているのかもしれない。

 試験会場に、時間になると案内された。

 コロナ禍だったからだろうか。

 こんなに人が一つの部屋に集まっているところ、久々に見た気がする。

「始めてください」

 おれは、問題用紙を開いた。

 まずはリスニング試験。


 まずまず、できた気がする。

 次に筆記試験に移る。

 文法問題がたくさん並んでいる。

 周りから、カッカッと鉛筆でマークする音が聞こえてくる。

 文法は、大事だけど時間勝負だから、サーっと解いていかないといけない。

 でも、この日のために文法の参考書を一冊終わらせておいたから、ここは楽勝・・・・・・

 一問、わからない問題があった。

 そこは飛ばせば、大丈夫。

 ザーッと解いていった。


 ふう。

 全部。

 全部、解き終わった!

 TOEIC全部解き終わるの、初めてだから。

 めっちゃ、嬉しかった。


「なあ、かっちゃん、おれ、全部解けたよ!」

「は、まじ?今回むずくなかった?お前すげえな!マジでライツ事業部受かっちゃうんじゃないか?」

「そう、だといいけどな。おれ、今夜、新しい剣道サークルの部長に、引き継ぎ事項を伝えないといけなくて」

 そう。

 今日の夜。

 おれは。

 愛衣ちゃんと、夕食に行く。

 愛衣ちゃんは、剣道サークルの次期部長だから、現部長のおれが、引き継ぎをしないといけない。

「ああ、そうなんだ。とりあえず、飯いこうぜ」

 おれとかっちゃんは、昼飯に向かった。

「は、女?」

「うん、女の子」

「それ、デートじゃん」

「かっちゃん、おれ、恋愛もうしないって……」

 かっちゃんは、席を乗り出しそうになって言った。

「お前、おれなんて出会い無いんだぞ!一つ一つ、大切にしていかなきゃ!」

 そんなこと、言われても。

 おれには、時間がない。

 忙しいから、とフラれたのが頭をよぎる。

 でも。

 かっちゃんの、忙しくても会うからな、好きなら、って言う言葉も、頭をよぎった。

 それでも。

 本当に。

 忙しいから、フッたんだと思う。

 おれは。

 そう思う。

「なあ、かっちゃん。就活、大変なんだよ。本当に、大変なんだよ」

「そっか。そうだったよな。ごめん、おれとしたことが」


 その夜。

 名古屋駅の金時計からエスカレーターを上がったところに、愛衣ちゃんは立っていた。

「愛衣ちゃん!」

「先輩! ご飯食べに行きましょ!」

 愛衣ちゃんは、おれと肩が触れるか触れないかくらいの距離感で、歩き始める。

「どこに行きましょうね、私、今日ステーキが食べたいです!」

「いいね、ステーキ!」


「コロナウイルスで、時間が止まっていたので……先輩は、どこの会社受けるんですか?」

「漫画とか、小説とかを、アニメ化とか、映画化、ドラマ化する部署受けようかな、なんて思って」

 ステーキを食べながら、うー!と、目を丸くしながら音を発すると、愛衣ちゃんは、口の中のステーキを飲み込み、話し出した。

「いいじゃないですか! 私、ドラマとかアニメとかめちゃくちゃ好きです!」

 そういう時の仕草が、可愛いって思ってしまう。

 やっぱり。

 大学生で。


 

 恋愛。したいよ。



 本当の本当は、恋愛したいよ。

 もしかしたら、菜月もそう言う思いだったのかもしれない。

 だから、少し悩ませて欲しいって、言ったのかもしれない。


 本当に。

 それだけ、目指す価値があるものなのかな。

 ライツ事業部。

 恋愛しながら、両立とか、できないのかな。


「先輩、ステーキ冷めちゃいますよ」

「あ、ああ」


 食べ終わると、名古屋駅の夜景がとても綺麗なスポットに偶然出た。

「先輩、夜景綺麗ですね」

「うん、綺麗だね」

「ちょっと、一緒に眺めません?」

「うん」


 沈黙が走る。


 おれは、多分ここで告白をするべきなんだろう。

 でも。

 できない。

 前、フラれた経験と。

 そして。

 就職活動が忙しいってことで。


 そのまま、会話がないまま、5分くらいが経った。

 

「帰りましょうか」


 言われてしまった。


「……帰ろ」


 2人で、階段を降りて、改札をくぐった。


「じゃあ、先輩、ありがとうございました」


「ありがとう」


 ああ。

 もう。


 遊んでくれないんだろうな。

 そんなことを思いながら。

 おれは。

 電車に、乗った。

恐れ入りますが、


・ブックマーク

・下段の⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎


いただけると幸いです!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ