第四話
大学三年、2月
「で、どうなったの?」
つっつーが寿司を食べながら、おれに箸を向ける。
短髪で高身長のイケメンなのに、行儀が悪いのが少し勿体無い。
「フラれたよ。告白したら、忙しいから、ってさ」
「マジか!」
少しぽっちゃりとした姿がかわいいかっちゃんが、サーモンを飲み込んで驚きの声を上げる。
「まあでも、好きだったら忙しくても会うからな」
かっちゃんは、核心をついてくる。
おれも、この時期忙しいんだ。
忙しい、はずなんだ。
11月
おれは、大学一年から剣道サークルで仲が良くて、ずっと大好きでいた菜月に告白しようと、おれは菜月を空き教室に誘った。
本当は、9月に一緒にライブに行く予定だった。
でも、その計画は、コロナウイルスで崩れ去った。
そして。
おれたちは。
いつの間にか就職活動の波に移っていったのだった。
おれは。
菜月を、デートに誘った。
デートに行かなければ、いきなり告白したら驚いてしまう。
友達が急に告白してきて、友達関係がなくなってしまうなんてことは、あってはならないのだ。
でも、菜月から来た返信はこうだった。
「ごめん、忙しいから、来週の木曜日の4時から15分しか、空いてない」
おれも、忙しい。
毎日、就活をしている。
でも。
おれは。
彼女が欲しかった。
だって。
おれの周りは、彼女を作れっておれに言ってくるから。
それが、単なるいじりだってわかっていても、自分が彼女を作らなければ、と思い込ませるのには十分な程に、言われていた。
そして。
「じゃあ、その4限の時間に、C205号室に来て!」
そう、呼び出したのだ。
菜月は、少し遅れてやってきた。
「いるー?」
久々に見る菜月は、おしゃれな黒のワンピースを着ていて、髪の毛は肩までかかり、ずっと茶髪だった髪は黒になっている。
「ライブ、悔しかったよねー、私、本当に行きたかった〜」
「そうだよね、行きたかった」
ふふ、と笑う菜月。
ああ。
菜月と話していると、なんか落ち着くっていうか。
「あの、菜月。おれ、菜月のことが好きです。付き合ってください」
夕陽に照らされた菜月は、当惑した表情で、おれに言った。
「ほ、ほんと?私、こういうの初めてだから、ちょっと考えたい!3日後にまた、連絡するから!じゃあね!」
そう言って、菜月は出て行った。
おれは、その場にポン、と尻餅をついた。
これで、おれの3年間の思いは終りを告げたんだ。
やっと、言ったんだ。
「最近流行りのアプリでもやって、彼女作りや!彼女作ると楽しいぞー! エロいこともできるし!」
つっつーがハハハと笑う。
つっつーは付き合って5年になる彼女がいる。だから、おれの中では尊敬な存在で、でも、少し嫉妬してしまうくらいの存在で。
「アプリ、か」
でも、おれは。
本当は。
今。
彼女は。
「おれも彼女作りてーけど告白までも行かねーもん、仲間だな、颯太」
ていうか。
「ていうか、2人も彼女とか言ってるけどさ、就活はどうなの?」
2人は、少し明るい顔をした。
最初に火蓋を切ったのは、つっつーだった。
「おれは、休学したから」
「休学!?」
「うん。コロナが怖いからさー、この一年でなんかスキルでも磨いて、就職しよかなーなんて思って」
「休学、か……え、かっちゃんは?」
かっちゃんは右上を見上げる。
「おれは……海外留学に行けなかったからさ、今年。また、一年いけるように、休学をするよ」
「そっか……」
そっか。
2月。
就活の波に飲まれているのは、大学のいつメンのみんなかと思っていた。
でも。
おれだけだった。
だから。
彼女を作れ、とか言ってくるんだ。
他にも、浪人している人とかにも、言われた。
でも。
菜月は、就活の波に飲まれている。
就活の恐ろしさを、2人は知らない。
もちろん、おれも。
「颯太、キャバクラとか行ってそうじゃね?」
また、剣道サークルの部室で、就活が終わってる先輩からのおれのいじりが始まった。
でも。
なんか。
フラれた後だからかな。
一つ一つの言葉が、ズキズキと。
胸に刺さる。
「レンタル彼女とかしてそう!」
メガネをかけていかにもモテなそうな竹内先輩がそんなことを言ってくる。
「こいつ、金がないからやらないだけで、金があったら風俗とかキャバクラとか行きまくるっすよ」
情報学部で頭のいい、大学院進学を決めた沼川が、またでっちあげた嘘を先輩たちにバラす。
もう、やめようかな。
このサークル。
左後ろから、小さな声が聞こえる。
茶髪にショートヘアの、愛衣ちゃんの声。
「そんな先輩、見たくないです」
恐れ入りますが、
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