第三話
そんな時に。
昨日。
見つけてしまったんだ。
ある、「求人」を。
日本の3代大手出版社、翔陽社、淑徳社そして黎明社。
その中でも一番の売り上げを誇る翔陽社のエントリーが、今日までだったんだ。
昨日の昼、見つけたんだ。
それは。
「ライツ事業部」
編集部でも、営業部でもない、特殊な部署。
自社で出版している小説、漫画の、アニメ化、ドラマ化、映画化を進めるという部署だ。
自分が動かしたい小説やマンガが、アニメになる。映画になる。ドラマになる。
それを、自分の力で進められる。
おれは、あの日の感動を思い出した。
自分の大好きな漫画が、アニメになった瞬間。
忘れられなかった。
そう。
ライツ事業部なら、それができる!
おれの中に、今までなにもなかったおれの中に、一つの小さな光が現れた気がした。
おれは、エントリーシートを昨日書き上げようと思ったのだが、いかんせんこれが長いんだ。
それで、途中で寝てしまって、気づけば朝の9時半。バイトに遅れてしまう。でも、エントリーシートがまだ残っている!
そんな展開でも、おれは。
オーナーに最後のチャンスをもらった!
昨日書いた紙を、スキャンする!
コンビニに行って、スキャンする!
あ、バイト先がコンビニだった!
サングラスをしてマスクをしたらバレないだろう。
サングラスとマスクと、USBと車のキーをカバンに詰めて、おれは玄関を速攻で出た。
それで、再びコンビニに向かい、スキャンをして、速攻で家に戻った。
「応募が完了しました」
ほっ。
終わった。
あ。
バイト、戻らなきゃ!
おれは、すぐに着替え、車を出した。
「オーナー、本当にありがとうございました! あなたは恩人です!」
「今回だけだからな。ほら、レジ並んでるから次からお前が対応しろ」
「はい、いらっしゃいませ、温めはどうされますか?」
助かった。
でも。
ライツ事業部なんて部署があるなんで全然知らなかった。
自分が大好きな漫画や小説をアニメに変えられる。
そんな部署があるなんて。
営業先は、アニメ制作会社とか、配給会社とか。
映画化とかも自分で決めて進められる。
まるで夢のような職業だ。
夢のような……
いや。
これは。
夢。
今までずっと探し続けていた、将来の、夢。
おれが、羽ばたくべき世界。
おれが、見るべき世界。
それが、ここにあるんだ。
おれは、やっと見つけたんだ。
そして、エントリーシートを出した。
おれは、一歩を踏み出したんだ!
バイトが終わったら、他の会社も調べてみよう。
いや。
でも。
3月1日から就活が解禁される。
でも、その前から内定をもらってる人はたくさんいる。
将来の仕事を、探さなければならない。
そんな状況の中で。
おれは。
やっと、夢を見つけた。
遅すぎたのかもしれない。
これから、たくさんの企業を受けていかなければならない。
おれは、まだ就活の本質を知らない。
就活がどんなものか知らないし、内定が出なくて泣いているようなイメージしかない。
そんな世界で。
多分、何百倍もの倍率だよな、出版社って。
そんなところを、目指してしまっていいのか……?
おれは、そんな疑問が湧いてくる。
「はい、成田くん今日は上がりね」
「ほんと、ご迷惑おかけしました」
「ほんとだよー、これからは気をつけてね」
先輩はウインクをしてくれた。
本当に、優しい人たちに囲まれてよかった。心のうちはわからないけど。
恐れ入りますが、
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