第二十四話
1月6日
おれは、東京に来ていた。
テレビ・マーガレットの面接の日。
「次の方、どうぞー」
「はい。失礼致します。愛知公立大学、成田颯太と申します」
三十代半ばの男性が2人、座っている。
1対2の面接。
「生まれ変わったら、何になりたいですか?」
生まれ変わったら、何になりたい……?
やばい、想定した質問と全然違う……
「僕は……生まれ変わったら、もう一度僕自身になりたいです。もう一度僕自身になって、人生をやり直したいです」
「はい、ありがとうございます」
これで……これで、いいのか?
「好きなアニメは何ですか?」
「はい、イレブン・ブレードです。イレブン・ブレードは……」
よし、この話題はよく話せた。
「無人島に何か一つ持って行けるなら、何を持っていきたいですか?」
やっぱり……!
想定していない質問!
どうしよう……。
「はい、無人島に、ボートを持って行きたいです。それで、無人島から脱出して、有人島に……」
「船舶免許は持っているんですか?」
もう1人の面接官が、ププッと笑う。
「それは……」
「それでは、以上で面接を終了いたします」
「ありがとうございました」
こんなんでよかったのだろうか。
いや、ダメだ。
多分、アウトだ。
船舶免許なんて持っていないのに、ボートを持っていきたいとか言っちゃったし。
そもそも、あの質問の正解って何なんだ。
生まれ変わったら何になりたいとか。
ぜんっぜんわからん。
おれは、そんなことを思いながら、テレビ局を出た。
1月12日。
卒論の提出日。
おれは、昨日徹夜した。
それで、卒論を仕上げた。
提出をしにいくと、サークルのメンバーが何人かいた。
挨拶をして、卒論を提出した。
その後、キャリア支援室に行った。
「テレビ・マーガレット、受かってますかね……」
「うーん、想定できない質問をして、学生を惑わして、本音を揺さぶるっていう面接のパターンだったかもしれないね」
「じゃあ……」
「こればっかりは、結果が来ないとわからない。とりあえず、2次面接の対策をしよう」
おれは、眠いながらに話した。
そして、6時。
講義棟を出た。
空は夜空でキラキラしていた。
歩いていると、愛衣ちゃんをみつけた。
「愛衣ちゃん!」
「先輩!」
「愛衣ちゃん、また一緒に帰れて嬉しいよ」
「私も、嬉しいです」
「おれね、卒論出し終えたんだよ!」
「わあ! おめでとうございます!これで、一安心ですね!」
「うん!」
夜空が、おれたちを包み込む。
「ねえ、愛衣ちゃん」
「……何ですか?」
「おれ、愛衣ちゃんのことが……」
ブー、と、スマートフォンが鳴った。
おれは、スマホが気になったのか、告白から逃げようとしたのか、わからないけど、スマートフォンを開いた。
「テレビ・マーガレット 選考結果のご連絡」
おれは、そのまま、それを開いた。
「厳正なる審査の結果、貴殿の希望に添えない結果となりました。いい企業に出会えることを、お祈りしています」
おれの目から、水がつーっと、零れた。
そして、震える声で。
「ごめん、今日はやっぱ、1人で帰る」
そう言って、おれは、早歩きを開始した。
すると。
愛衣ちゃんが、おれの手を掴んだ。
「どうしたんですか? 私に説明してください!」
「なんで!?」
「だって、先輩の悲しみ、1人で悲しんでるんじゃなくて、私も一緒に悲しみたいです!」
「愛衣ちゃん……」
「私、先輩のことが好きです!何かに向けて頑張る先輩のことが!大好きです!だから、話してください!何があったんですか!」
「……出版社とテレビ局、全落ちした」
「……そう、だったんですか」
「うん……悲しいよ。めっちゃ、頑張ったんだもん」
空を見上げる。
夜空が滲む。
『私、先輩のことが好きです!』
「愛衣ちゃん、おれも、愛衣ちゃんのことが好き。悲しみを分けてくれる、愛衣ちゃんのことが好き。ありがとう、愛衣ちゃん」
「いえいえ」
「このまま、手を繋いで帰ろ」
「はい、帰りましょ」
夜空に包み込まれたまま、おれたちは、駅まで一緒に帰った。
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