第1節プロローグ3
「魔王・・・・・・何を怒っている?」
ソフィはムスっとした、カイルの様子を伺うように話し掛けた。相変わらず奇妙な目で見られたりするのだが、長時間こういった視線を浴びつづけると慣れてくるものだなぁ。と、カイルは芸能人もこういった感じなのかな? と若干溜息を吐きながら思う。
「怒ってないよ」
カイルは口ではそういうものの、実際は機嫌が悪かった。それを見透かしたのか、ソフィは
「機嫌なおしてくれないと」
「?」
「キャー痴漢です。て、大声で叫ぶ」
と、感情のこもってない声で凄い事を口走ったソフィにカイルは、ごばぁっと吹き出し、軽くソフィに詰め寄った。今の言葉を聞かれれば、治安部隊に追い掛け回されるはめになってしまう。
「おい、コラ。どこで覚えてくるそういう言葉」
「私の知識を甘く見ない事だ」
「絶対偏ってる! その知識絶対あらぬ方向に偏ってるよね!?」
こういった、変な知識は本当に一体どこで仕入れて来るのだろうか、カイルは教育方針を誤ったかもしれないと自分を責め始めて、ふと気づいた事があった。
「今気づいたけど、軽く脅したよね?」
「・・・・・・何を言うの。脅したのでない」
それを聞いてカイルはホッと胸を撫で下ろしてソフィから離れ
「脅迫した」
ドンッと地面にめり込むぐらい勢い良く地面に倒れて、すぐさまソフィに詰め寄った。
「一緒じゃねぇか!」
「若干ニュアンスが違う」
「細かい! 大雑把に見えて案外細かいよソフィさん!」
ギャ―と叫ぶカイルに対して冷静に言葉を紡ぐソフィ。そんな時だった。
「あの、すみません」
「「?」」
急に話し掛けられてカイルとソフィの会話が止まる。その声の主は後ろに居た。黒のスーツをピチッと着こなす、背の高い男だ。20代後半ぐらいだろうか、髪はその身長を更に上へと伸ばそうとするみたいに逆立てるという特徴的な髪型をしている。
その男は薄っすらと目が見えるサングラスを掛けながら人当たりの良い笑みでこちらを見ている。カッコいい男とはこういう事を言うんだとカイルは思う。それが証拠に、通りすぎる女子高校生、OL、はたまた奥様方、チラチラと頬を染めてその男を見ている。
(なるほど、女の人はこういった人が好みなのか)
納得しながらカイルは口を開く。
「何か御用で?」
さっきのソフィとの会話から一変、カイルも人当たりの良い笑みでその男に答える。
すると、何故かその男はカイルを観察するように自分の顎に手を持って行き、上から下までじっくりとカイルを見ている。
背筋に走るこの悪寒は何だろう? カイルは必死に身震いを抑えながら、再び問い掛ける。
「あの・・・・・・」
「あ? あぁ、ごめんごめん。余りに可愛いから見惚れちゃって」
「・・・・・・」
ニコッその男は笑う。見惚れる・・・・・・? 可愛い・・・・・・? その言葉がソフィではなくカイルに向けられている言葉だと理解した時、カイルはズサッと大きく退いた。いや、引いた。大きな拒否反応と共にカイルは感じた。
(いけない、大事な何かがこのままだと奪われる気がする・・・・・・ッ!)
カイルが制御不能だと理解したソフィはカイルに変わって口を開く。
「それで何の用?」
「おうっ!? 君も可愛いなぁ、人形さんみたいだぐふぉっ!?」
ソフィに気づいた男は、感激したのか満面の笑みで手を広げて喜び、頭に怒りマークを浮かべたソフィが長身男の言葉を遮るように質問に答えろと言わんばかりに腹部へ膝を入れた。それはもう流れる様な仕草で思いっきり。
力無く倒れこむ男、そこにはイケメンのナンパ男を華麗に蹴散らしそれを見下ろすゴスロリ娘という奇妙な構図が存在した。
「「・・・・・・」」
「おいぃぃいッ!? ソフィちゃん! 少しうざいからって膝は駄目だっつうに! ていうか暴力で解決しようとする癖何とかしなさい! 今後のボクの身の安全のためにもッ!」
「魔王何を言っているの?」
「?」
「魔王への暴力は私のストレス発散方法、無くなるわけがない」
「家来がボクをサンドバックとしか見ていない!?」
もはやナンパ男など気にせず、カイルはショックを受ける、それを見たソフィはいつもと違うやさしい声で
「違うそうじゃない、魔王は私に取って大切な・・・・・・」
「ソフィ・・・・・・」
「給仕係」
「ソフィ・・・・・・ありが――って違うじゃん! 今いい雰囲気で騙されかけたけど、給仕係って何!? ボクはいつからソフィの専属シェフになったの!?」
更なる追い討ちを繰り出してきた。
「何を今更・・・・・・」
「怖い! この子怖いよ!」
そんな問答を繰り返しているうちにカイルは人込みに囲まれている事に気づいた。人の輪の中には、ナンパ男を暴力で黙らせるゴスロリ娘、それと言い争う二人。
治安部隊を呼ぶには十分な素材が揃っていた。そして、唐突に聞こえてくる、明らかにこっちに向かって走ってくる複数の足音、青ざめていく表情、そして
「逃げるよ! ソフィ!」
「走るのイヤ」
「チョコが買えなくてもいいのか!?」
「私逃げる」
「あっコラッ!! 待ちなさい!!」
「うあぁぁぁっぁ!? 来たァァア!!」
「うぁー」
「もっと緊張感もって逃げてくんない!?」
買い物をしに来ただけなのに、カイルは治安部隊に2時間近く追いかけられる羽目になった。