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契約結婚の終わりと…

最終回です!

 季節は流れ、半年後。


「……っ」

「リ、リディオ、泣きすぎよ。まだ始まってもいないのに」

「だって……、本当に夢みたいで……」


 そっと彼の目元をハンカチで拭っているうちに、私まで涙が込み上げてきてしまったけれど、終わるまでは泣いてはいけないとお義母様に口を酸っぱくして言われているため、グッと我慢して代わりに言葉を返す。


「そうね、本当に、夢みたい……」


 自身の純白のウェディングドレス姿と、彼の真っ白なスーツを見て、自然と笑みが溢れる。

 今日は私達の新たな節目の時を迎える大切な記念の日になる。


「アメリア」


 名前を呼ばれて顔を上げれば、リディオに両手を取られて。

 彼は微笑みを浮かべると言葉を発した。


「今日で俺達の契約結婚は終了だよ」

「……えぇ」

「そうして今度こそ、本物の結婚をする。だから今日から俺達は」

「「本物の夫婦になる」」


 続く言葉を私も紡げば、彼と言葉が重なって。二人で笑い合って言葉を交わす。


「世間では私達のこと、なんて呼ばれているか知っている?」

「もちろん。“呪いに打ち勝った運命の夫婦”って言われているんでしょう?」

「そう。なんだか騙しているようで申し訳ないけれど」

「気にすることないよ。王太子殿下が大袈裟に吹聴したのが原因だしね。

 それに、君の力は秘密のままの方が良い。俺もこの方が良いと思っているよ。

 だって、俺達二人だけの秘密だから」


 リディオの言葉に「そうね」と笑って返す。

 彼が幸せそうに笑う。そして、これからもその笑顔を隣で、一番近くで見られる。

 なんて贅沢で、幸せなことだろう。


「……アメリア」

「なに?」


 不意に真剣な表情になったリディオに向かって首を傾げると、彼は口を開く。


「君はいつも、俺に助けられてばかりだと言っていたけど……、俺の方こそ、君に助けられてばかりなんだよ」

「え……?」

「君は覚えていないかもしれないけど……、学園に入るずっと前、俺はプチ家出をしたことがあったんだ」

「……家出!?」

「ま、まあそんな大袈裟なことじゃないんだけどね。四男である自分にコンプレックスを感じていて、ちょっと広い世界が見てみたいなと思って風魔法で空を飛んでいたら、魔力切れを起こして帰れなくなったんだ」

「……あっ」


 遠い記憶の中で、そんなことを言って出会った男の子と彼が重なる。


「思い出した?」

「あ、あなただったの!? た、確かに面影はある、ような気もする……」


 それはまだ、婚約者が決まったばかりで両親が存命だった、当時7歳の頃。

 バルディ家の領内を散歩していた時に出会ったのが、同じ年頃の男の子で。

 上等そうな服を着ていたから貴族のご令息であることはなんとなく分かっていたけれど。


「あの時の姿はボロボロだったからまさかあなただとは思いもよらなかったわ……」

「あはは……、魔力切れでそのまま墜落したからね。

 落ちたのが木の上で助かったよ。危うく死ぬところだった」

「洒落にならない……」

「そうだね。でも、そのおかげで君と出会えた」


 リディオの私を見る目が柔らかい。

 きっと、以前の私を思い出しているのだろう。


「……あの時の私は、今とは違うと思うわ。

 だって、両親が存命で幸せな頃だったもの」

「んー……、確かによく笑っている印象はあったけれど、でも久しぶりに学園で再会した時も同じような感じだったから変わっていないなと思ったよ。

 だって俺、いつも開口一番君に怒られたし」

「…………」


 思い当たる節がありすぎて冷や汗が流れる。


(そうだわ、私、凄い偉そうにいつも彼を怒っていた気がする……)


 思わず頭を抱えそうになった私に気付いたリディオが慌てたように言った。


「お、思い悩む必要はないよ! だって君が俺の目を二度も覚ましてくれたおかげで、今があるんだから。

 ……俺はね、アメリア。君に二度も救われたんだよ。

 俺の人生ってなんなんだろうって思うたびに、君が俺の目の前に現れてくれた。

 いわば幸運の女神なんだ」

「こ、幸運の女神!?」

「そう。俺こそ君に救われている。

 だから君を今度こそ守りたいと思った。

 ……君には婚約者がいると知って諦めた自分に回ってきたチャンスを、今度こそ逃しては駄目だと思った。

 俺を選んでくれてありがとう、アメリア」

「っ、待って、泣いてはいけないのに……っ、泣かせに来ないで」

「あぁ、ごめん。でも、伝えたかったから。……それと、俺思ったんだけど」


 その後に続くリディオの言葉に、今度こそ涙が溢れてしまったのは、やっぱり不可抗力で。


『君のご両親は、まだどこかで生きていると思う。

 聖女の“守護の力”を持つ夫人と無敵な魔法使いと呼ばれていた伯爵がそう簡単に亡くなるとは思えない。

 その証拠に亡骸も見つかっていないと聞いた。

 だから、一緒に探そう。君の大切なご両親を』


 私はその言葉に力強く頷きを返す。

 そして、「ありがとう」と言葉を紡いだ。

 いつも私の欲しい言葉をくれる彼の側で、私も彼を支えたい。

 そう願いながら、彼の手を握り返して誓うように笑ってみせた。




 自ら没落することを選んだ私を迎えに来てくれた勇者様。

 そんな彼に契約結婚を持ちかけられ仮初の花嫁になった私は、二人で魔王を封印し、今度こそ本物の花嫁となる。

 彼といれば何も怖くない。

 そして、願えばなんでも叶えられてしまいそうな彼と、これからも助け合いながら生きていく。

 未来のことなんて誰にも分からないけれど、今日の空のように私達の未来は明るく輝いているのだと。確信を持って、私は一歩、未来へと続く大きな扉に足を踏み出した。




『自ら没落した令嬢ですが、勇者様が迎えに来て求婚されました。〜ただし、呪いが解けるまでの契約結婚です〜』 END


これにて物語は終了です!いかがでしたでしょうか?

この物語は互いを思い合うが故のすれ違いをテーマに、最後はどんでん返しハッピーエンドをお届けいたしました。

どんな困難も乗り越えられる(魔王をも本気になれば斃せる)、無敵で最強、強い絆で結ばれた二人として、あえて未来のことは描かず読者の皆様にお任せ、という形を取らせていただきました。

楽しんでお読みいただけていたら幸いです。

最後に、ここまでお読みくださった読者の皆様、ブクマ、評価、いいね等で応援してくださった皆様、ありがとうございました!

また作者の作品をどこかでお読みいただけたらとても嬉しいです。

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