答え合わせ①
「私の名前はアメリア。初代聖女の末裔よ」
そう静かに告げた私に驚いたのは、動けないでいる魔王だけではなくて。
「えっ……!? アッ、アメリアが初代聖女の末裔!? ど、どういうこと!?」
不謹慎だけど、動転しているリディオ様の姿を見て思わず笑ってしまう。
「ごめんなさい、私が聖女だってことを黙っていて。
これは我が家のトップシークレットなの。
だから、あなたにも話せなかった。本当にごめんなさい」
そう謝った私に、リディオ様は慌てたように首を横に振ってから言った。
「だ、大丈夫、だけど……、待って、アメリアが聖女の末裔?
ということは、君が俺にかけてくれた“魔法”も」
「そう。私が数少ない限定的にかけられる“守護魔法”……、聖女の魔法よ」
「守護魔法って……、それは伝説の魔法じゃなかった!?
え、じゃ、じゃあひょっとしなくても俺って」
「おのれぇぇぇえええ!!」
魔王が魔力を弱らせる鎖に縛られてもなお、抵抗しようと魔法で攻撃してくる。
けれど、私は無論、リディオ様にも効かない。なぜなら。
「良いことを教えてあげるわ。あなたの攻撃は私達には効かない。
だって私は聖女であり、隣にいる彼は私にとっても大切な人だから。
だから彼に祝福という名の守護を授けた。つまり」
無敵なの。
そう笑みを浮かべて口にしたのと同時に、攻撃の合間をぬって魔王の背後に回ったリディオ様が、火属性魔法を纏った剣で斬りかかったことで、魔王は断末魔の叫び声を上げその場に倒れ込む。
そしてピクリとも動かなくなったことを確認して、私はリディオ様の元へ走り寄る。
「大丈夫!?」
「うん、俺は全然。……魔王も気絶しているみたいだけど、どうする? とどめを刺す?」
そう尋ねられた私は首を横に振って言う。
「いいえ、やめておきましょう。あなた方勇者パーティーのおかげで被害は少なかったから、これくらいで大丈夫でしょう。
それに、本当に斃してしまうとまた新しい魔王が復活する。次の勇者パーティーも聖女も隙だらけのこの人の方が封印しやすいでしょうし」
「……君はいつも冷静だと思っていたけれど、今も冷静なのが凄い。さすがアメリア、まさか君が聖女だったなんて……」
恐れ慄くように私を見上げるリディオ様に向かって苦笑いし、肩をすくめる。
「とりあえず魔王を魔界へ送り返して封印しましょう。封印までが私達聖女の仕事なの。
リディオ様も勇者として協力していただけるかしら?」
そう言って手を差し出せば、リディオ様は瞠目してから小さく笑って口にした。
「もちろん。仰せのままに」
「まさか君が聖女だったなんて……」
人間界と魔界を繋ぐ扉を封印し、無事に屋敷へと戻った後も彼の口から繰り返される言葉に対して謝る。
「黙っていてごめんなさい」
「いや、良いんだ。確かに君は、俺にかけた魔法を“秘密”だと言わなかった。
それに俺が気が付かなかっただけで……、本当阿呆すぎる……」
「無理もないわ、誰も気が付かないと思うもの。まさか無敵なあなたにかけられた魔法が“守護魔法”なんて」
我ながら地味な魔法だわ、なんて笑ってしまうと、リディオ様は全力で首を横に振る。
「地味なわけがないよ!? 守護魔法だよ!?
聖女自体が幻の存在であり失われた希望だと言われていたのに君はその末裔だよ!? まさかこんな身近にいるとは誰も思わないよ!?」
「お、落ち着いて。一から説明するから」
その言葉にリディオ様がピタリと静止し、なぜか椅子の上で正座する。
そして頭を下げた。
「よろしくお願いします」
(は、話しづらい)
思わずそんなことを思ってしまうけれど、無理もないかととりあえず話を切り出す。
「かつての聖女には、悪しき魔法から他者を守る“守護魔法”と対魔王討伐限定の“攻撃魔法”、それから“封印魔法”の三種類が使えていた。
そのために勇者パーティーの一員として遺憾無く力を使ったことは多分有名だと思う。
けれど、その存在が“幻”と言われる所以は、初代聖女は魔界を封印した後忽然と姿を消したからなの」
「え……!?」
驚くリディオ様に向かって言葉を続ける。
「考えてみて。リディオ様にならきっと分かるでしょう?
勇者としてずっと崇められ続けることが嫌だと言っていたあなたなら」
「……あー」
一瞬で遠い目になったことでわかっていただけたようだと、私は苦笑いで続ける。
「初代聖女も同じように、平民の出でありながら一気に名声を集めてしまい、聖女の力が欲しい貴族から狂ったようにしつこく言い寄られた。
だけど聖女には既に同じ平民の想い人がいたし、あまりにも王族や貴族から力を欲されるものだから、身の危険を感じて想い人と共に姿を消した。
そして次に生まれた子もまた、聖女と同じ魔力を宿した」
「……そうして、巡り巡って君が生まれたんだね?」
リディオ様の言葉に小さく頷き、口にする。
「この力は、お母様から受け継いだものなの。
お父様は魔法使いであり伯爵家の出だったけど、平民であるお母様に一目惚れして、周囲の大反対を押し切って結婚した。
だから伯爵家となったけれど、それまで聖女の血筋は全員平民であり、力がバレないようずっと隠れて過ごしていた。
それでも二百年に一度、勇者パーティー一行が魔物を封印したと情報を得る度、その時生きている聖女がきちんと封印出来ているか、神殿に確認に行っていた」
「そうだったんだね」
「えぇ。……この魔力や初代聖女については、物心がついた時からお母様に言い聞かされていたわ。
『この力は特別なもので、あなたは特段魔力が強いから、いずれ魔界だけでなく魔王をも封印しなければいけなくなるかもしれない』と。
初代聖女から受け継がれていった魔力は今では尽きかけるほどに弱くなっていたはずだけど、私の場合、お母様がお腹の中にいる私の魔力を感じるほど強かったらしくて。丁度魔界封印が起こると言われている二百年の時に生きている私は、魔物だけでなく魔王が現れても封印出来るようにと、魔法をコントロールすべく学園に入学した。
まあ、微力ながら宿っていた魔法に頼りきって、隠していた聖女の力は実際に教わることなどできなかったから、あまり意味はなかったかもしれないけれど」
そう言って笑う私に、リディオ様は尋ねた。
「そんな中で俺にかけてくれた“守護魔法”というのは」
その言葉に、私は逡巡した後意を決して口を開いた。
「聖女の力を公に出来ない私の、あなたへの最初で最後の告白のつもりだったの。
初恋と、さようならをするためのね」
私の言葉にリディオ様は、大きく目を見開いた。
最終回まで執筆完了いたしましたので、残りは一時間ごとに投稿いたします!
本日18時、完結予定です。