カルディア前辺境伯夫妻②
「つっかれたーーーーーー……」
先ほどまで高い位置にあった太陽がもうすぐ地平線に沈む頃。
リディオ様は疲労困憊だろうからと、夫妻の計らいで用意して下さったカルディア家の馬車に乗り込むや否や、リディオ様はそう声を上げる。
「だ、大丈夫?」
心配になり尋ねた私に、リディオ様は細かい傷だらけの顔で笑って返す。
「あはは、大丈夫大丈夫。こんなの治癒魔法を使うまでもないくらい、いつも通りだから。
……それよりも、主に精神がすり減ったというか」
「リ、リディオ様のご家族は、あなたの言う通りとても……その、個性豊かな方々ばかり、だったものね」
「やっぱり引いたでしょう!? ごめんね!!」
リディオ様が全力で頭を下げたのを見て慌てて手を横に振る。
「そ、そんなことないわ! 顔を上げて!
私はむしろ、凄く嬉しかったの」
「えっ」
リディオ様が顔を上げ、目を見開き私を見る。
その視線を受け、笑みを浮かべて素直に口にした。
「リディオ様の温かなご家族に会えて。こんなに素敵な方々に囲まれて育ったのだとか、幼い頃のリディオ様のお話も沢山聞くことが出来て嬉しかった」
「……やめて、出来れば全部聞かなかったことにして……」
「それは無理よ」
私はクスクスと笑って言う。
「あなたのことを知ることが出来て嬉しいんだもの」
「……!」
「それに……、少し、羨ましかった」
私の両親は学園へ入る前に亡くなってしまった。
学園に入ってから話が出来る人は周りにはいなくて、婚約者様もあんな調子で身内も叔父家族だけだったから、学園で起きたことを話す相手は誰もいなかった。
楽しかったのはリディオ様と出会ってからくらいで。
「物心がついてからも長く両親といたはずなのに、今ではその記憶も薄れるばかりで。
今日リディオ様のご家族と会って、あぁ、私もこんなふうに両親に愛されていたんだわ、と懐かしい気持ちになって……」
と、そこまで口にしてハッとした。
(わ、私、何を余計なことを話しているの……!)
リディオ様が反応に困ることを行ってしまったと、案の定固まっているリディオ様を見て申し訳ない気持ちで慌てて言葉を繕おうとすると。
「……そうか、君はそんなふうに思っていたんだね」
「!」
リディオ様に両手を取られる。
そして、彼はギュッと私の手を握りしめて言った。
「でも君は、もう一人じゃない。俺もいるし、それに俺の家族もいる。
……ちょっと騒がしい、いや賑やかすぎるかもしれないけど。
それでも嫌でなければ、俺の家族はいつでも君を歓迎すると言っていた。
君も姓は違えどカルディア家の一員だと」
「……っ」
「ア、アメリアッ!?」
温かい言葉に涙が出てきてしまう私を見て、焦るリディオ様に向かって笑みを溢す。
「大丈夫、嬉しくてつい。ご家族様とお会いして改めてリディオ様の温かさは皆様譲りなのかもしれないな、と思って」
「……まあ、確かに過保護すぎるといえば過保護すぎるよね。両親はまだしも、まさか兄三人が揃うとは思わなかった……っ」
「ふふ、でもお兄様方三人とも素敵よね。それぞれ違う形でリディオ様を溺愛なさっていて」
「あれが、素敵……?」
リディオ様のげっそりとした表情にクスクスと笑ってしまう。
あの後……前辺境伯様と手合わせをしてボロボロになった後に、お兄様方三人と剣術で戦うことになり、リディオ様は悲鳴を上げつつも楽しそうだった。
「私は今日、リディオ様の色々な一面を見ることが出来て嬉しかったわ。
お兄様方の前で弟扱いされているリディオ様は新鮮だったし、家族の中にいる時は末っ子って感じで可愛かったし、あっ、でもリディオ様の剣術を初めて拝見したけれどお兄様方に勝ってしまう姿もとても格好良くて」
「アメリア」
「!」
そっと口を手で塞がれ瞬けば、リディオ様が真っ赤な顔で口にした。
「もう、その辺で」
「あっ……」
そこで初めて、興奮して色々と話してしまったことに気が付いて。
(わ、私、可愛いとか言ってしまったわ!)
「ご、ごめんなさい!」
「い、いや、違う、アメリアが、謝ることじゃない。……嬉しいけど、俺の心臓が持たない……」
「…………っ」
その表情に大きく鼓動が跳ねて、そのまま早鐘を打って。
リディオ様に聞こえてしまうんじゃないかというくらい跳ねる鼓動に、思わず顔を逸らして反射した窓越しにリディオ様を見やれば、リディオ様もまた反対の窓の外を見ていて。
どんな顔をしているかは分からないけれど、でも、そうして訪れた沈黙は嫌ではなくて。
(むしろ、心地が良い)
それはやっぱりリディオ様だからなんだわ、と思っていると。
「これでとりあえず両親との顔合わせも終わったし、後は夜会に向けて準備が必要だよね」
そう口にしたリディオ様に、私は口を開く。
「そのことなんだけど、夫人……お義母様からお話があって」
「……お義母様!?」
リディオ様が話の途中で驚いたように声を上げる。
私も指摘されると思っていたから、少し恥ずかしくなりながらも説明する。
「リ、リディオ様達が剣術をしている最中に、夫人から“これからはお義母様と呼んで”と仰っていただいたの」
「だ、大丈夫? アメリアはそう呼ぶの嫌じゃない!?
あぁ、やっぱり君を一人にするんじゃなかったな。母上は娘が欲しいと昔から言っている人だから、早く俺達に可愛いお嫁さんを探して来いって言ってたくらい楽しみにしていて、その上四人男子を育て上げているからか押しが強い傾向にあるから……って、アメリア?」
リディオ様の口から紡がれる言葉に思わずクスクスと笑ってしまいながら告げる。
「ふふ、ごめんなさい、つい。大丈夫よ、全然嫌じゃない。
むしろ、本当に家族の一員と認めていただけたような気がして嬉しかったから」
「……アメリア」
リディオ様が私を見て小さく笑う。
「そっか、君の笑顔を見るに俺の心配は杞憂だったんだね。良かった。
でも、嫌なことがあったら絶対に言うんだよ? 俺はアメリアの味方だから」
そう言ってリディオ様が微笑む。
その柔らかな表情を見て、たとえ契約期間限定の花嫁だったとしても大切にされていることが伝わってきて、心からリディオ様に選んでいただけて……、お嫁さんになれて良かったと思いながら、私も微笑みを返し礼を述べる。
そして、先ほどの話の続きをすべく口を開いたのだった。
3日に一話更新を目指して頑張ります!




