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スローライフを問い直してみる

あの戦いで半ば燃え尽きてしまったので、今はゆっくり休むことにしている。

普段は採取に出かける午後の時間も、自室でまったりすることにした。


グラッジホーンラビットと戦った翌日、冒険者ギルドに解体を依頼したら二重の意味で驚かれてしまった。

グラッジホーンラビットと戦ったことと、その最大の特徴である美しい毛皮をズタズタのボロボロにしてしまったことにだ。


もっと綺麗に仕留めろと言われたが、そんな余裕はなかったんだから仕方ない。


もふもふは好きだ。

犬も猫も好きだし、狼なんかかっこいいと思うし、兎はかわいいと思う。


なのになんか戦っているのが悲しい。

別のゲームプレイもあるというのに。


きっとグラッジホーンラビットとのエンカウントもネットにあるんだろうなぁと調べたら、確かにあった。

ホーンラビットを一定数以上狩り続けていると出てくるボスモンスターがグラッジホーンラビットらしい。

華麗な攻略動画と、グラッジホーンラビットをテイムするテイマーの人の動画があった。

そのどちらにも魅せられてしまう。

スタイリッシュなアクションも、もふもふパラダイスも。

どっちもいいなぁと思ってしまうが、ないものねだりをしても仕方がない。

テイマーではなくストライダーを選んだのだ。

受け入れなくては。


グラッジホーンラビットの毛皮は使いものにならなかったが、魔石と肉、角はお金になった。

冒険者ギルドは銀行の役割も果たしているらしく、どこの支店でも預け入れ出来てどこでも引き出せるらしい。

これも魔導具のお力のおかげだ。

そんなわけでグラッジホーンラビットの代金は全額入金しておいた。

今何かに換える気力がないのだ。

冬までにお金が貯まらなかったら、この代金から温水魔導具を買うつもりではいるけど。


あの戦闘で、レベルは9に上がった。

カウンターというスキルも習得していた。

土魔法はLv.2になり、ストーンアローが使えるようになった。


風魔法はまだまだ鍛える必要があるようだ。

子供達と紙飛行機で遊ぶ際にウィンドを使ったりする以外に画期的なウィンド活用法も見つけた。

繊細なコントロールが必要だが、花の受粉にも使えるのだ。

しかもこの方法だと、魔力操作の経験値にもなるらしいことが発覚した。

ただ、一つの花を受粉させるのに異様に時間がかかるので、あんまり効率がいいとは言えない。

虫の方がよほど効率的だろう。

そのうち養蜂も検討したい。


ボスモンスターを倒した称号として、兎殺しという無粋な称号も得た。

兎型の動物・モンスターに対してクリティカル発生率が上昇する効果があるらしい。

最大の利点はスキルポイントが10ポイントも貰えるところだ。

更にソロ討伐特典として、追加でもう5ポイント貰えた。

一時期0にまでなっていたスキルポイントはようやく今26ポイントまで貯まってきた。

これこそ大切に使おう。


ネットの情報を見る限り、グラッジホーンラビットを倒すかテイムして仲間にすると、アクセサリー装備が手に入るらしいけど、レアドロップ扱いになるのか、自分は入手出来なかった。

まあウサギモチーフのかわいらしいデザインのようなので、渋いキャラクターにはどうせ似合わないだろうからあまり気にしていない。


ゲーム内の季節はゆっくりと夏に向かおうとしている。

夏は黄金百合が咲く季節。

初夏の間に山を踏破して黄金百合の生育地域を調べなくてはいけない。

山を歩いたら、このウサギを倒した重い気持ちも晴れるかもしれない。


レベル上げも採取も全然進めていないが、資料整理の方は順調に進んでいる。

活字の海に飛び込むのは無心になれていい。

戸籍台帳や土地台帳を書写するだけなのだが、何故だか写経をしているような敬虔な気持ちになる。

これはお経や聖書ではないが、確かに人々が受け継ぎ、生きて、託してきた記録なのだ。

ゲームだとわかっていても感動してしまう。

一つの家族から、複数の家族に分かれ、土地を分割し、その土地を誰かに売却し、あるいは先祖代々の土地を引き継ぎ、パッチワークのように暮らしている。

昔の小川は今は暗渠で、でも道の曲がりくねった形に未だに川を感じることは出来る。

この資料は沢山の家系図の集合体だ。

ゲームでさえこんなに心を動かされるのだから、リアルだったらさぞ、と思ったが、リアルで台帳を管理する人にとっては仕事だろう。

勿論仕事であっても感動を覚える人はいると思うけれど、個人情報だの責任だのを考えるに、気楽でいられるゲームの方がいいかもしれない。


書写した資料を束ねて表紙をつけて縫って製本していたら、製本・装幀のスキルも勝手に生えてきた。

これは生えてきてくれないと困る案件だったので、スキルを習得出来てよかった。

製本の仕方を調べていたら、この現代でも手製製本の書籍やノートを作成している人達がいることを初めて知った。

思わずノートや書籍をポチッてしまったくらいだ。

手製製本のワークショップなんて、今までアンテナを張ったことのない方面のイベントにも参加し、自分の不器用さを改めて実感したけれど、ゲームでは仕上がりが綺麗にいっている。


ゲームで変わっていく意識・リアルな生活が、嫌いじゃない。

何か世の中の、知らなかった見方を教えてくれているみたいだ。


そんなことをつらつらと考えていたら、外から大きな声が聞こえてきた。

子供達だろう。

今日は何をして遊ぶつもりだろうか。


リアルでは小さい子供と触れ合う機会なんて一切無いのに、ゲーム内でこんなに遊んでいるなんて不思議だ。

大したコミュニケーション能力なんて持っていないが、児童福祉施設のボランティアとか、あるいは最初は寄付からとか、始めてみるのもいいかもしれない。


たかが兎のボスと戦ったからといって、こんなにおセンチな気分になるのもおかしな話だ。

多分リアルでの緊張と、ゲームでの緊張がリンクしてしまって気持ちがいっぱいいっぱいになってしまったんだと思う。

しばらく仕事が忙しいので、ゲームの中では金策に走らず、ゆったりと構えてプレイするのがいいだろう。

もうすぐ夏だ。


夏野菜は何を植えよう?

2023.8.27 グラッジホーンラビットの討伐特典を追記しました。

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