現金が欲しい!
家庭菜園は充実の一途を辿っている。
孤児院のも、自分自身のものもだ。
野菜の種類も増えて、農家ギルドに卸すだけでなく、子供達の食卓に緑を添えられるようにもなってきている。
最初はハツカダイコンの売上を全部投入してスナップエンドウの種を買い、その売上からまた別の苗を買い、ちまちまと積み上げてきた甲斐があった。
自分自身の家庭菜園の為に耕したり、畝傍を作っているうちに、耕作というスキルが生えた。あとは野菜栽培っていうスキルも。
耕作は、レベルが上がると耕作にかかる時間が減り、エネルギー消費も抑えられるようになるらしい。
野菜栽培はその名の通り、野菜栽培が上手くなるスキルだ。
しかし馬鹿にしてはならない。
レベルが上がれば害虫や病気の発生を抑えられ、味もよくなるのだ!
今は虫との戦いなので、このスキルの向上は急務だ。
栽培のスキルもレベルが上がった。
堆肥を作ろうと町の落ち葉をかき集めているので町民の受けもいい。
ユニーククエストとかシークレットクエストとか憧れるけど、そんなものは一切発生しなかった。
まあ、なんにせよNPCの好感度が上がるのはいいことだ。
あとはブルーベリーの苗も植えたいんだよなぁ。
子供達がブルーベリーを摘み取るの、きっと楽しいと思うし。
実が生るには2系統の種類のブルーベリーを複数植えないといけないんだっけ。
上手くいけば株分けも簡単っていうから、来年の夢も広がる。
うん、やればやるほどハマってきてるし、教会や孤児院の建物の修復もしたいし、ガーデニングもしてみたいし、書類の整理もまだだし、来年くらいまでは孤児院にいてもいいかなぁという気持ちになってる。
ていうか、魔導具が欲しい。
スプリンクラーとか、温水の蛇口とか。
お風呂には水を温める魔導具が備わっているのだが、そもそも温水が出る仕組みにしたいし、台所でも温水を使いたい。
まあ今は水魔法の練習になるからいいけど、ずっとウォーターばっかりっていうのは流石に飽きそう。
水魔法はLv.2になると、ウォーターアローっていう単体の攻撃魔法を覚えた。
洗濯機もいずれ欲しい。
今は水魔法で水を出し、常温の水を盥に貯めて足でもみ洗いしているが、冬のことを考えたらそれまでには絶対欲しい。
生活魔法はレベルが上がっていくとそのうち乾燥を覚えるらしいので、乾燥習得が一つの目標となっている。
資料の整理の方は、まだあんまり進んでいない。
整理整頓するにもまずは中身を把握して分類しなくちゃいけないので、一通り目を通すところから始めている。
夜にやっているので、生活魔法のライトを使いまくっているけど、まだスキルレベルは上がっていない。
ザザザッとスピード重視で読んでいたら、速読のスキルも習得していた。
地味に嬉しい。
日曜日とか、暇な午後に図書館に通っているのだが、そこで活躍してくれている。
小説とかは一行一行噛み締めたい派だけど、歴史とか文化風俗、社会なんかについては速読あると便利だし。
ユニーククエストとかシークレットクエストとか心躍るようなイベントは発生していないが、称号は一個貰えている。
その名も、のんびり屋、だ。
ゲーム開始からゲーム内時間で3ヶ月以上初期スポーン地のセーフティーエリア外に出なかった証、とのこと。
エネルギーポイント消費軽減効果がついている。
これはユニークでもなんでもない、既出の称号だ。
あんまり狙って取ってる人は少ないイメージだが、スローライフ志向のプレイヤーは結構持っているらしい。
なにより嬉しいのは、スキルポイントが1ポイント付与されるとこだ。
これで今のところスキルポイントが78ポイントある。
しかし現金収入がほとんどないので、未だに冒険者ギルドに登録してないのをどうにかしないとな。
家庭菜園の売上は孤児院に還元するつもりだ。
土地を使わせてもらっているし、鍬だのなんだの道具も貸してもらっている。
家庭菜園の充実は孤児達の食生活にも直結しているし、ここを現金収入のあてにするのはなんか違う気がする。
そんなことを農家ギルドのおっちゃんにグダグダと話していたら、
「そういえば、薬師ギルドの方で栽培と鑑定のスキル持ちの募集をしてたと思うよ。」
という重要情報を得た!
遂にキタ!
冒険者ギルドでよく見る薬師ギルドの依頼といえば(そう、登録してもいないのに時々依頼をチェックしに行ってる)、薬草採取やポーションの納入とかだが、栽培っていうのは見たことなかったな。
ワクワクしながら薬師ギルドに赴くと、猫耳のついたおばあちゃんがカウンターの中にいた。
「栽培と鑑定スキル持ちを募集してるって聞いてきたんですけど。」
「ほう、アンタ教会のとこの旅人だね。
確かに鑑定と栽培スキルを持ってるようだね。
でもアンタ、調薬持ってないのかい?
そうだねー、調薬スキルを取得するなら考えてやるよ。」
このおばあさんも看破持ちなのか。
個人情報ダダ漏れじゃないか。
調薬、ねえ?
1ポイントだからそれ程負担でもないが、なんか足元を見られているようでちょっとムカつく。
でも現金収入は魅力的だ。
「わかりました。今調薬取りましたよ。」
「素直なのはいいことだよ。」
昼ごはんを食べてから子供達が学校から帰ってくるまでの時間が薬師ギルドで働く時間に充てられる時間だ。
前半は薬草栽培の手伝いで、後半は調薬の講習を受けることになった。
試用期間中は給金は出ないが、調薬の講習はタダで受けられるらしい。
調薬の講習が終了したら賃金を払ってくれるようになるそうだ。
日曜日は休み。
なんというか、とことん現金収入までの道が長いな。
なんでも今まで薬師ギルドの薬草園で働いていたおじいさんが遂に引退を決めたので、栽培スキル持ちの人材を探していたらしい。
これも中期の仕事なので冒険者ギルドには依頼していなかったそうだ。
鑑定スキルは薬草の状態を確認したり、薬草を選り分けるのに必須だったらしい。
薬草栽培は野菜栽培よりもデリケートらしく、おじいさんから細かく指導を受けられるのは助かった。
引き継ぎなしとかじゃなくて本当に良かった。
調薬の講習はポーションかと思ったら丸薬と湿布薬、軟膏の講習だった。
ポーションは錬金術師も作れるけど、丸薬とかは薬師でないと作れないらしい。
そこら辺の調薬と錬金術の違いはよくわからないが、ポーションは冒険者用なのに対して、丸薬・湿布薬・軟膏はヤズイの町民向けらしい。
講師は猫耳のおばあさんだった。
かなりスパルタだったが、薬づくりの仕事は丁寧だし、失敗しても根気よく教えてくれた。
でもなんか、ゲームの薬と言えばポーションを想定していた身としては、薬研でゴリゴリしてる状況はシュールといえばシュールだった。
講習が終わると初心者調薬セットを贈られた。
押し付けられたともいう。
タダだからいいけどさー。
そして流れるように薬師ギルドに登録させられていた。
問答無用だった。
解熱剤、咳止め、便秘薬、胃腸薬の丸薬と、湿布薬、肌荒れと傷薬の軟膏を薬師ギルドに卸すよう強引に依頼を受けさせられた。
まあ、ポーションと違ってこれらの丸薬などは町民向けだけあって需要にそう波がない。底堅いのが魅力だ。
しかも孤児院用の薬はギルドを通さず寄付という形で融通してもいいことにしてもらった。
子供はしょっちゅう風邪を移し合うものなので、薬代が浮くのは助かる。
その他の薬はすべて薬師ギルドに卸さなくてはいけない。
もともと丸薬や湿布薬、軟膏を作っていたのは猫耳婆だったそうなので、単に楽したかっただけなのでは?と睨んでいるが、きっと婆はそうだが?と言って悪びれずに認めそうだ。
講習が終わると、前半は薬草栽培、後半は冒険者ギルドから集められた薬草の選定が仕事内容となった。
どうせログインしてる間は寝る必要がないので、丸薬作成などは夜に行っている。
資料整理の時間が削られるが、毎日調薬してるわけではないのでいいだろう。
これでようやく現金収入の目処が立った。
そんなわけで、まず魔導具屋にスプリンクラーを買いに行こう!