早春
冬の誕生日がやってくる季節になった。
まずは写字生として20人全員に誕生日カードを贈る。もちろん装飾つきだ。
しかし、個々のプレゼントが難問だ。
申し訳ないけど、皆で楽しめるのがいいと思い、製菓を1PTで取得してみた。
製菓は無理なことを狙わず、材料をきちんと計って手順を順守さえすればそれなりに仕上がるのでなかなかいい。
一応練習として先日実験してみたが、レベル1でも普通に美味しそうに出来上がったので手応えはある。
20人分を週一回ずつ誕生日の日として20週毎週祝うつもり。
砂糖やチョコレート・生クリームなどは金の力で解決する。
誕生日くらいはケーキが必要だろう。
ご飯もその子の好物を揃える算段だ。
没個性的ではあるが、真面目に写字生をやっていると人数分のプレゼントを用意するなんてことは難しいのだ。
それでもちゃんと一人一人の子が楽しめるように考えているので許してほしい。
と自分の中の神様仏様に祈っておく。言い訳ともいう。
実際に昼食に食事と干し杏のケーキを作ってみると子供達は目を爛々と輝かせながらご馳走と見たことのないケーキを見つめて、礼儀正しく自分にお礼を言ってから神様へお祈りし、やっと口に運んだ。
皆一様に幸せそうにごはんを食べるので、こっちも気持ちよくなる。
誕生日は一緒だが、これが毎週あと19回やってくるのだというと大歓声が上がった。
個々のプレゼントは用意できなかったが、皆が嬉しそうにしてくれているので安心した。
冬の間、基本的には筆写を頑張り、具体的には本草書と植物図鑑を作っていた。
夜は調薬・裁縫・刺繍・記録の修復および写本に充て、薬は薬師ギルドには卸さずにすべて教会および孤児院で使用する用にのみ作った。
刺繍や裁縫は一番夜のやっさんとの作業通話に適しているので、これを欠かすなんてとんでもない。
しかも刺繍・裁縫のスキルも伸びてきて、普通に売り物の作品を作れるようになっていた。
刺繍は売って、裁縫は孤児院の子供および神父様用の衣服を縫っている。
子供達の衣服にはワンポイント刺繍を入れている。こだわりみたいなものだ。
本草書や植物図鑑はまずは教会内の本を新しい本に入れ替え(修復したり写本したりしたものは閉架に入れていった)、美しく装飾した植物図鑑を園芸家ギルドへ納品し、街の図書館にも納めたところ、ジューノ神父からそろそろオークションを利用してみてはいかがですか、と言われた。
オークション。
興味はいっぱいあるけど、自分が出品する側だとは考えたことがなかった。
こう本が優美で素晴らしくなってくると教会で売るには勿体ないと言われ、オークションの方が高値がつく、とまで言われてしまえばこちらにも否やはない。
問題はどこのオークションで出すかですねえ、と言われ、そんなにオークションって種類があるのか聞いてみれば、商業ギルドのオークション以外にも画家や音楽家ギルド、工芸家ギルドのオークションがありそこは規模は小さいものの、狭い範囲ながらも多くの品がオークションにかけられ活気があるそう。
その中で商業ギルドのオークションはより大金が見込まれるもののオークションで、街を代表するものだという。
うーん、迷うけど、こういう時の為に商業ギルドに加入したんだし、とりあえず商業ギルドに相談してみる、ということでジューノ神父とは話がまとまった。
その週の日曜日ティルファの商業ギルドへ行ってみた。
ティルファは大きいので、あまり商業地区に行ったことはなかったがこちらも相当楽しい。
お店を外から眺めているだけでも楽しかった。
商業ギルドへ入って、受付カウンターを覗いてみると受付にも色々と種類があるらしい。
オークション総合窓口という受付があったのでそこへ並んでみた。
ちゃんと窓口に並んだというのに、自分の順番になってギルドカードを差し出したらすぐさまこちらへ、と誘導されて何故か応接室のような一室に通された。
「こんにちは、ダッサイ様。私はトモムという者で、このギルドの副ギルド長をしている者です。」
「こんにちは。ご丁寧にどうも。というかあの、副ギルド長に応対していただかなくてもなんとかなる議題だと思うのですが…。」
「なにをおっしゃるんですか!
ダッサイさんのその神聖魔法の腕前!もちろん私が対応させていただきますとも。」
ああ、神聖魔法の話ね。
そうだよね、その為に囲いこんだんだもんね。
「何やら本日はオークションについてお尋ねと伺いましたが。」
「そうなんです。オークションに出したい品がいくつかあるんですが、どのギルドのオークションに出せばいいかわからなかったので、そういうことに詳しい方に相談しようと思いまして。」
「ふむふむ。そのお品を拝見しても?」
「あ、どうぞ。」
本草書や植物図鑑を取り出して並べると、トモムさんは熱心に一つ一つ矯めつ眇めつして眺めていく。
数分間待った後、トモムさんが切り出す。
「これは商業ギルドオークションで出しましょう。」
「え、でも商業ギルドのオークションは大金が見込まれるものって…。」
「これは、大金が見込まれる商品です!」
異論を差し挟みたいところだが、トモムさんは異論は一切認めません!という顔をしている。
「まず、オークションの立地がいいですね。」
「立地?」
「この芸術都市ティルファで売るにはこの上なく見合ったお品です。
それに見てください、この表紙の豪華さ。
それも色々な種類の表紙です。
刺繍や絵の具で彩った生気溢れる表紙の迫力にまず圧倒されます。
そしてこの中身のよく描けている細密画!
これだけのお品であれば、もちろん高額なオークションに掛ける価値はございますとも。」
そうなのか?あんまり実感がないのだが、こうして力強く自分の作品を推してくれているのは嬉しい。
「今まで教会の範囲で販売していたので商業ギルドが出る幕がなかったのですが、これはダッサイ様がおつくりになっている?」
「ええそうです。」
「なんと!素晴らしい!
それではお品物はこちらでお預かりし、きちんとこちら側の手数料をダッサイ様ですので割引してお代金をお支払いします。
つきましてはこちらの書類にサインを…。」
「なんか流れるようにお話が進んでいますが、本当に大丈夫でしょうか?」
「工芸家ギルドや画家ギルドもいいんですが、ダッサイ様がまずこちらにいらしたということは分類に困られたんでしょう?
こういった品物は普通祈祷書や聖書の扱いでなかなか私どもの世界で売ったり買ったりする話とは違いますからね。」
「ええ。」
「工芸家ギルドや画家ギルドに持っていっても相手側もどう分類したものか困ってしまうと思います。
園芸家ギルドは完全に趣味に生きていてオークション機能を持っておりませんし。
その点私どもでしたら最初から手広く商売をしておりますからどういった分類のお品物でも売り買いできますし、オークションで名を揚げるにはまたとない機会となります。」
「うーん、評判は欲しいけれども、自分自身の名前は広がって欲しくはないのですが。」
「ではそのように致しましょう。
仮名というかペンネームをつけるというのは?」
ふむ。
まあ安易だけど、カワウソとすることにした。
そして書類にサインし、商業ギルドと契約し腰を浮かせたところでトモムさんが口を開いた。
「それでですね、ダッサイ様。あのー」
「ああ、神聖魔法の話ですね。いつ来ればいいですか?自分は大体日曜日なら空いています。」
「話が早くて助かります!では一か月後にいらしてください。近隣にも告知しておきますから。」
さすが副ギルド長、抜かりがない。
それからギルドの人に牛革を扱っている商人をいくつか教えてもらい、ギルドを後にした。
牛革は表紙に使うつもりだ。
もちろん一か月後には浄化マシーンとなりましたとも。
半年に1回、ティルファに滞在している間は浄化を担うことにもなった。
冬の土木工事もなんとか間に合い(死にそうになった)、早春の気配が近づいてきた。
ソイルで作った腐葉土を漉き込み、土を均しながらそういえば、そろそろ使う時かなーと思い立ち、自分のMPを確認する。
ということで、精霊を初めて召喚したいと思います。
ドライアドが正直どういった働きをするのか未だにはっきりとはわかっていないけれど、とりあえずこの果樹園を育ててもらいたいのでこのあたりでいいか、と果樹園(仮)の前でドライアドを呼んでみる。
頭の中でしか発音できない名前で。
すると目の前にドライアドがうっすらと光を纏って現れた。
「こんにちは。」
「こんにちは。…あの、お名前をどうやってお呼びすればいいんでしょうか?」
「ああ、真名は貴方達は発音できないんでしたね。
お好きに呼んでいただいて構わないわ。」
「それってつまり好きに名前をつけてもいいってことでしょうか?」
「ええ、どうぞ。」
「グロウさんとお呼びしても?」
「グロウで構いません。」
「ところでこの果樹園のあんずの成長を助けていただけないかと思ってお呼びしたのですが、精霊召喚の仕組みがわかっていないので、ひとつ説明していただいてもいいでしょうか?」
「敬語はいらないわ。貴方が精霊をよくわからない存在だと思いながらも敬意を抱いていることはわかります。
それで精霊召喚の説明ね。
精霊召喚の時間はMP依存ということはご存知なのね。
基本的に任意の時間を割り当てることが出来ます。
貴方だとそうね、約18時間召喚することが出来るわ。
でも日常でもMPを使うことはあるでしょう?
だから普通は最大時間ではなく、余裕をもって召喚するの。
あと陽光があるときに呼び出す方が効率がいいわ。
貴方の精霊石に入っているのは水の精霊と樹の精霊だから、私とは非常に相性がいいの。
だから私の能力を底上げしてくれるはず。
水と火みたいな相性が悪い組み合わせだと、本来の8割くらいしか効果を発揮できない場合もあるけれど。
最終的には精霊石に満遍なく色んな精霊が入って、どんな精霊を召喚してもちゃんと働いてくれるのが一番ってことになるわね。ただ、石が小さいからもういっぱいなの。
この石は私専用にして、後々もっと大きい精霊石を身につけるのをおすすめします。
あと貴方の称号のいくつかが私と相性がよくて、生態系の守護者や花妖精の友とはとっても相性がいいわ。
樹の精霊は戦闘では搦め手攻撃が得意ね。一定時間拘束する、とか花粉でくしゃみが止まらなくする、とか。
今は大体こんな感じかしら?
何か質問はある?」
「いや、今のところは大丈夫かな。
それで稼働時間はどれくらいがいい?
6、7時間くらい働かせても大丈夫?」
「問題ないわ。」
「じゃあ、7時間でお願いします。
範囲はこの果樹園と孤児院側の庭で。あともし余力があるならばユニ樹の世話も。
それでもし、もしも更に余力があるなら、教会の薬草園や菜園もお願いします。」
「はい、かしこまりました。」
「毎日こんな感じでも大丈夫?」
「まったく問題ありません。」
よし、そんなわけで我が社の社員が増えました。
「まずはこのあんずの苗木を植えていきます。」
と、あんずの苗木を手分けして植えていく。
なんだかグロウの周りを緑色だとか水色だとかの小さな光が舞い踊っていて、植えた後の水やりもしてくれた。
自分も成長促進だの果樹栽培だののスキルがあるので、なんとかなるだろう。
果樹園の後ろの方の区画にはブリーベリーを植えていく。
「ブラックベリーとかさー、この最後の区画に植えようかと思うんだけど、どう思う?」
「大きい鉢植えで育てるのをおすすめしますね。
私の能力とあなたのスキルですぐさまジャングルになるのが目に見えています。」
「じゃあここはラズベリーにして、その横にブラックベリーの鉢植えを置くことにする。」
こうして段々と夢の果樹園計画が形になっていくのは嬉しい。
あんずはこの地方の名産だというので作ることにした。
ベリー類はジャムにして冬の間に活躍してくれるはずだ。
グロウを召喚している間は固定でガコッとMPが取られていく感覚はあるが、苦しいほどではないのでこのままでいいだろう。
MPの成長はMNDとかINTも参照するっていうけど、なんかすくすくと育っているんだよなあ。
まあMND様のおかげだとは思うので、有難くMPを使わせていただく。
最近ユニ樹に譲与してもMP回復のスキルが伸びにくくなっていた(スキルレベルが上がったのもある)ので、MPを使う機会はウェルカムである。
果樹園が一段落したら、次は庭だ。
庭をどんなのにしようかなーと考え中だ。
最近オフラインでは育て方の雑誌とかイギリスのガーデン本とかに惹かれるようになった。
なかなか素敵な本とも出会って購入してしまったりしているので、多分ガーデニングも沼だ。
ゲーム内のメモに植えたい花やアイディアなどを書き込んでいる。
ちょっと長いリストになりそうなのはご愛嬌だ。




