イザラ城
門をくぐり抜けると、カースドスケルトンロードが1体と、カースドゴーストバトラー1体が出迎えてくれた。
いきなり槍が体の横をかすめていくほど、やたら殺意の高いお迎えだ。
このダンジョン、水中じゃない!地上のように動けるダンジョンだ!
どうやってそうなっているのかは謎だが、久しぶりに自由に動けるのは嬉しい。
でも瘴気で体力を削ってくるのは健在だ。
回避しつつ浄化をかけると、スケルトンロードもゴーストバトラーも泡ではなくちゃんと音として発話した。彼らは言う。在りし日のイザラがいかに美しかったかを。イザラの都市としての成り立ちを。代々領主としてイザラを治めてきた誇りを。そして王子を戴きながら落城した恥辱を。
執事まで出てきたのはびっくりしたが、家宰のようなものだろうから、領主や領地への想いもひとしおなのだろう。
浄化とホーリーレイをかけてしまえば敵ではないのだが、水没した都市で在りし日のイザラ城を模したダンジョンを作るほどの強い想いを考えると、しんみりしてしまった。
彼らを成仏させると城のあちこちを見て回った。ダンジョンと言えどもイザラ城の隅々までその美しさを再現しているので、壁に掛かる絵画やタペストリーまでその威容を誇示している。スクショしつつ、浄化をかけながら進むのは、なんだか子供の頃の探検に似ていた。
今まで洞窟のダンジョンでも地下水道のダンジョンでも王国の晩鐘を聞きつつ滅びを嘆いていた悲嘆だったのが、ここイザラでは落城の嘆きはあっても王国が滅びるとまでは確定していなかったので、嘆き方がなんだか違うのが興味深い。
王都よりも美しいと謳われていたのも不思議ではないほど、イザラ城は美しかった。これがただのダンジョンで、コアを壊してしまえば水没した城が現れるだけだなんて勿体なさすぎる。
もうダンジョン探索というよりは観光気分で城を見て回っていると、如何にもな扉が現れ、この先にボスがいると確信出来た。
扉を開くと中は大広間になっており、カースドスケルトンプリンスとカースドスケルトンハイジェネラル2体の合計3体が待ち構えていた。しかもレベルが70!
回避しつつ、浄化しつつ、ハイジェネラルから倒していたら、なんとカースドスケルトンプリンスはハイジェネラルを復活召喚出来るらしく、王子から倒さないといけないらしい。王子の剣筋はかなり厳しく、3体同時に相手をするのはキツいものがある。それでもここまで来てホーリーレイで倒してしまっては勿体ないので、浄化をかけて相手の話を聞きつつパリィしたり、モロにくらったり、回避したりしながら王子から倒していくしかない。
ハイジェネラル達の連携は見事で、王子の守りは鉄壁だ。
結局いつものように時間をかけて倒すしかなかなった。
王子はここで斃れてしまった我が身の不孝を詫びながら消えていき、将軍達は王子を守れなかった至らなさを詫びながら消えていった。
彼らが消えた後には、王子が佩いていた剣が落ちていた。
この剣も博物館行きかなぁと思いながら『我がサラディ』を歌いつつインベントリにしまっていると、ダンジョンコアが露出した。手のひらをあてて「自壊せよ」と呟くと、美しかったイザラ城は消え、海水で満たされた水没城が現れた。
城の中を泳ぐと、ダンジョンがあったことなど一切わからないくらいフジツボだのがついた年季の入った城内で、今さっきまで見ていたイザラ城は幻のようだった。
海中を泳ぎながら少し上から俯瞰して見下ろすと、スケルトンもゴーストも海中モンスターもいない海底都市イザラは静謐な美しさを湛えていた。そっと心の中で別れを告げて、イザラを去り、またもや海底を歩いていく。
ゆっくりと歩いて港に戻ると、シナイナさん達は既に漁に出た後だった。
港に腰を下ろして、通知を確認する。
称号
鱏殺し:エイ型のモンスター・生き物にクリティカルが発生しやすくなる。
SP+10
ソロ討伐特典 SP+1
鱓殺し:ウツボ型のモンスター・生き物にクリティカルが発生しやすくなる。
SP+10
ソロ討伐特典 SP+1
称号は2つ増えていた。カースドスケルトンプリンスとハイジェネラルのソロ討伐特典はSP50だった。
そして、チェーンクエストの内容が水没した都市を救おう!から忘れられた村を蘇らせよう、に変わっていた。
クエストの目的地もイザラから、海岸線から遠い後背地の小さな点を指している。
特に何をする予定もなかったので、その小さな点を目指して歩いてみる。
健脚も10レベルともなれば平地での移動など何ほどのこともない。
着いてみると、小さな廃村だった。
だが、別に瘴気が立ち込めているわけでもなく、ダンジョンがあるわけでもない。単純に人がいなくなって廃村になった、そんな印象がする場所だ。立地はカアウの後背地なので悪くはないと思うんだけど。
村落の跡をぶらぶらしながら確認していると、村の奥の方に小さなお墓が立っていた。
村の人のお墓かなーと思って短くお祈りをし、通り過ぎようとしたところ、鑑定が教えてくれたのは、なんとこの小さなお墓こそがサラディ王国最後の王のお墓だということだった。
思わず鑑定結果を二度見してしまったが、どうやら間違いではないらしい。
理由を求めて村長宅らしき大きな家の跡地を探ってみると、物入れの中に紙束が入っていて、サラディ王国の霊廟がハグルシド帝国により壊されたこと、王の遺体はカアウの広場で晒されていたこと、夜陰に紛れて遺体を運び、バレないようにこの地に埋葬したことなどが村史として綴られていた。
やがてサラディ人は強制的に引っ越しをさせられ、この村には誰もいなくなったらしい。
改めて小さなお墓にお参りする。
赤い花、王子の剣、王女のティアラ、玉璽を墓前に並べ、『我がサラディ』を歌う。
すると、お墓がぼうっと光って、王子の剣と王女のティアラは忽然と姿を消した。
残ったのは赤い花と玉璽のみ。
まあ、博物館の学芸員も家族の形見であれば無理を言わないであろう。
玉璽はまたもやインベントリにしまい、村を一望する。
するとユニ樹らしき木が見えたので行ってみると、確かにユニ樹だった。
魔力を譲与するとぐんぐんと吸い取っていき、ユニ樹が一瞬光り輝いた。
通知がポンっと鳴り、『廃村サラディのユニ樹に魔力を一定量譲与した為、サラディ村が解放されました。あなたの貢献率は100%です。あなたがMVPです。SP200が付与されます。』というウィンドウが開く。
どうやらここはこれから人が住めるようになるらしい。
ちゃんとした村になるまでは復興が必要だけど、カアウで住居に困ってる人の移住にはちょうどいいかもしれない。
その他の通知も確認すると、ユニークチェーンクエストはこれにて終了したらしく、水没した都市を救おう!の評価は良、忘れられた村を蘇らせようの評価は優++だった。報酬アイテムはないが、達成報酬としてそれぞれSP100と200を貰えた。
レベルは25に上がっていた。HP上昇・HP自然回復・MP上昇・MP自然回復・EP上昇・EP自然回復・MND上昇・詠唱短縮が(中)→(大)に進化可能だったが、全部を取得出来るほどSPに余裕はないので、1番使いそうなMP自然回復・MP上昇をそれぞれ256ポイントで、詠唱短縮を100ポイントで進化させた。
残りは271SP。
これで暫くサラディ王国関連のイベントは起こらなそうなので一安心だ。あとは博物館に収めるだけだな。
村の中をマッピングし終わると、カアウへ戻ることにした。
その日の内にカアウに戻り、冒険者ギルドに寄ると、まだ何も言っていないのにギルド長室に通されてしまった。
「今日はどうした?」
「いや、なんで顔パスかのようにここに通されてるんでしょうか…。」
「はっはっは、お前さんは特別だからな。で、何か用があったんだろ?」
「海底都市イザラ、今はメトリオでしたっけ、あのダンジョン、浄化してきましたよ。エリアボスのエイとウツボも倒してきました。」
「本当か!?でかした!!これであの水没都市は一大漁場になる。漁師ギルドにも連絡しなきゃならんな。」
「それと、サラディ村っていう小さな廃村を復活させました。まだ復興が必要ですけど、カアウに結構近いので、便利じゃないかと思います。」
「何?どこだ?」
「紙とペンくれたら地図作成しますよ。」
「わかった、俺は漁師ギルドと商業ギルドに行ってくるからその間に地図作っといてくれ。」
と言い置いてドゥーラさんが行ってしまったので、執務机を借りて地図を作成する。地図・分析・測量スキルのおかげで正確な地図をUI見ながらなぞるだけで作れるのってやっぱり便利だ。
戻ってきたドゥーラさんは、今度は商業ギルドのギルドマスターを連れてきていた。
2人で地図を見ながらあーだこーだと話し合っている。どうやら復興は上手く進みそうだ。
冒険者ギルドからはエリアボス退治とメトリオ浄化の礼金を、商業ギルドからはサラディ村解放の礼金をそれぞれ貰い、冒険者ギルドを後にする。
孤児院に戻ると、ムワン神父がニコニコ笑いながら、ご用事はお済みになりましたか?と訊いてくるので、はい、全部終わりました、と言う。
お疲れ様でした、と労をいたわって貰った。
サラディ村のユニ樹のことを話すと、それは後から冒険者ギルドや商業ギルドと話す必要がありますね、ご報告ありがとうございますと礼を言われてしまった。
夕食を食べながらも、そろそろこのカアウ滞在も終わりに近づいていることに思いを馳せる。
翌朝シナイナさんからメトリオ浄化についてお礼を言われた。やっぱりあの規模の水没都市だと大きな漁場になるらしい。
旅の準備に入るので、漁に参加するのは今日までと伝えると、今日は宴会だ!と海士さん皆が盛り上がり、ものすごい豪華な宴会用の魚介類が集まってしまった。
お昼からは浜で大宴会が始まって、孤児院の子供達や神父様やシスターまでかき集められていて恐縮してしまうが、皆で食べる浜焼きは美味しかった。
最近イベントのBBQといいこんなことばっかりしてるけど、皆が笑顔で食卓を囲んでいるのを見るのは嬉しい。
宴会が終わると海神の神殿で漁の安全に感謝して祈り、買い物をして孤児院に戻る。
称号が増えていたので確認してみると、漁師の友、という称号だった。
漁師の友:漁師ギルドの会員との友好の証。漁師の好感度が上がりやすくなる。DEXとLUKの成長率増加。友好な漁師が増える毎に成長率上昇。
SP+10
猟師の友の時もそうだったが、こういった称号は単純に嬉しい。人の好意を数字にしてしまうのは流石ゲームといった感じだが、普段目に見えないマスクデータとなっているのが、称号として可視化されると嬉しくなってしまう。
子供達や何故かムワン神父がいる中で自室で荷造りしていると、話が対岸への移動方法になった。船で渡ろうと思っていることを話すと、子供達やムワン神父から大ブーイングをくらってしまった。
曰く、そんな誰でも出来る移動手段ではなく、ダッサイだからこそ出来る移動手段で移動してこそロマンがある、とのこと。
時空魔法を持っていることを知っている子供達は、いつか転移が使えるようになったらまた戻ってきてね、と可愛くお願いしてくる。ついでにお土産話は多彩な方がいいとばかりに水中歩行を勧めてくるし、ムワン神父も何故か笑顔で水中歩行を推してくる。
根負けして、海底を歩いて海を渡ることになってしまった。
大人しそうなタガ神父に家妖精へのミルクやりの日課を引き継いで、その日はログアウトしようとすると、視界の端で茶色い小さな手のひらサイズの妖精がお辞儀をするのが見えた気がした。
翌朝は子供達、シスター、神父様、漁師ギルドの皆さん、そしてドゥーラさんに見送られ、カアウを出発した。
でも船と違って歩いていくだけだから、船よりちょっと間抜けな別れなのは否めない。
だけど、皆が真剣にお別れを言ってくれるものだから、感動してしまった。
大きく手を振りながら皆に別れを告げる。
目指す芸術都市ティルファまで、もう少しだ。
SPを訂正しました。