表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/34

夏になると水中呼吸のスキルが取得可能になったので、すぐさま1ポイント払って取得した。

潜水が格段に楽になって、水泳も潜水もスキルが更に上がった。素潜り漁もだいぶ様になってきた。

水中歩行と水中行動の違いをよくわかっていなかったが、水中歩行は重りなしでも水中で地面を歩ける能力、水中行動は水の中で自由に体を動かせる能力、ということで異なるスキルとして扱われているらしい。水中行動の方が広い範囲をカバーし、水中歩行は歩行のみをサポートするようだ。

水中呼吸が出来るようになるとヤジラさんの指導の下、魚突き漁にも挑戦した。

銛がなんとか広義の槍の範疇でよかった。槍の心得のスキルアシストの恩恵を受けられたので漁はそれなりに成功した。湖神の祝福で水泳や水中呼吸に補正が入るのも大きい。

銛はヤジラさん自作の考え抜かれたつくりのものを1本譲ってもらえた。

対価を払おうとしたら、「ダッサイが獲ってくる魚介類の総額の方が高いさ」と言って受け取って貰えなかったので、ありがたく使わせてもらっている。

この頃になると水泳と言ってもただ遠泳するのではなく、水の中で如何に潜水しながら泳ぐか、如何に魚のスピードについていくか、魚の切り返しに対応するか、などを気にしながら泳ぐようになった。


夏のゲームイベントは、巨大クラーケンやヨルムンガンド、果てはクトゥルフなどのレイドボスを倒そう!という内容だった。クラン単位で船を出して船団を組んだり、船上攻撃と連携しながら水中から攻撃を入れる班があったりと、協力がより重要になってくるイベントだ。今までの訓練の成果を試す気持ちで初めてのレイドイベントに参加してみた。

もちろんティアーは1番難易度が低いやつを選んだ。レイドボスはサマージャイアントオクトパス、つまりは巨大なタコだった。

イベントリーダーが決まるのを眺め、リーダーの指示の下、それぞれ準備する。先ずは薬師として各耐性がつく薬湯を提供することによって貢献し、戦闘が始まると水中班の一人として戦った。

結局敵が大きすぎて銛はあんまり役に立たなくて、ひたすらタコの足にしがみついては防水・防錆機能を付与した剣鉈で足を切断する作業をし、船上のチームを支援するという動きをしていたのだが、水中だと属性魔法が全然使えず、唯一使える神聖魔法はアンデッド以外に効力を発揮しないので、火力としては下の下の下だった。光魔法はまだエリアライトとLv.2で覚えるフラッシュという目潰し技しか使えないので戦力外だ。

なんとか皆で巨大蛸を倒したが、2回も死に戻った。イベント中のデスペナルティはお金やアイテムのロストはなく、ステータス減少だけで済むのが不幸中の幸いだったけど、スタートエリアからダッシュしてまた戦場に戻るのは地味に辛かった。

微力もいいところだったけど、皆で倒した達成感は圧倒的だった。疲れ果ててたけど、皆いい笑顔をしていた。一番槍もラストアタックもMVPも取れなかったけど、MMOっていいなぁと思えた瞬間だった。

ほとんど貢献してなかったけど、イベントの参加賞として海に関連するスキルを支援するアクセサリーを1つ選ぶことが出来たので、水中行動をサポートする足輪を貰うことにした。

すると水中行動のスキルが取得可能になったので、1ポイントで取得した。

戦闘が終わって陸に上がると、打ち上げとばかりにBBQ大会が始まって皆思い思いに魚を焼き、肉を焼き、野菜を焼き、大いに楽しんだ。というか沢山のBBQグリルとか炭とかテーブルとかを用意しておいてくれた運営GJ。

イベントリーダーと宴会奉行は違うプレイヤーなのが面白かった。

生産職の人達は飲み食いしながらも巨大蛸から素材を剥ぎ取ることに余念がない。

一方で、農家や漁師、醸造家の人達は直売所を砂浜で出して、追加食材を売っていたりする。

カオスだったけど、楽しいイベントだった。

これで難易度マックスのクトゥルフなんかはどういう次元の戦いをしていたのか気になったけど、多分脳が理解しきれないと思うから考えるのを止めておいた。

参加賞については、釣りスキルを支援するアクセサリーをゲットしている人達が多いようだった。素潜り漁ばっかりして釣りに手を出してなかったけど、釣りもロマンだよね。

イベントスペースはイベント専用で、他のゲームエリアからは独立しているので多分漁業権は問題ないだろうと思い、黒鮑なんかを獲ってBBQ用に提供すると、一緒にテーブルを囲んでいる仲間にすごく喜ばれた。

潜水を取る人はダイビング目的が多くて、素潜り漁にまで発展する人は少ないらしい。

なんかイザラのチェーンクエストのことで効率的に水中スキルを伸ばすことばかり考えていたが、ダイビングしながらゆっくりとするのもいいな。

こっちはユニーククエストのこととかユニ樹のこととかは話せないけど、BBQで色んな人の話を聞けて情報交換出来るのが楽しかった。

アンケートに回答するといつも通りSPを1ポイント貰えた。


そんな感じでイベントをエンジョイし、いつもの午後の潜水訓練を、訓練と考えるのを止めてダイビングの時間と決めてからしばらくすると、ようやく水中歩行スキルを取得出来た。これも1ポイント。

水中歩行出来るようになったことをヤジラさんやシナイナさん達海士さんに報告すると、皆喜んでくれた。やっと一人前になれたようで嬉しい。


2、3日後どこから聞きつけたのか冒険者ギルドマスターが港にやってきて、おめでとう、と声を掛けてきた。

「よう、ダッサイ。水中歩行のスキルも取れたんだってな。なあ、1つ頼まれてくれないか。」

…嫌な予感しかしない。

でも断りきれなくて、結局依頼の内容を尋ねてしまった。

なんでも以前客船が沈没してしまったらしく、大勢の乗客が被害に遭ったらしい。沈没した船は海底で瘴気を放っている為、遺骨回収が進んでいないそう。遺族の為に遺骨と遺品を集めてきてくれないかと頼まれると嫌とは言えなかった。

依頼を受諾すると、その場で沈没船を示す地図と、乗客名簿、そして収納量6倍のアイテムバッグを二つ渡された。

シナイナさんからも頼んだよ、と言われてしまうと頑張るしかない。

翌朝漁を休んで、スキルレベルを上げがてらダイビングで目を楽しませつつ目的地へと泳いだ。

沈没船に辿り着くと、ダンジョン化はしていないものの、確かに瘴気を放っていた。

浄化をかけながら沈没船の中に慎重に入っていく。

幸い沈没船は潰れておらず、中を歩けるようになっていた。

客室を1つずつまわり、持ち物に鑑定をかけて誰の遺品かわかるようにする。UIのメモ機能を使って、乗客名簿と照らし合わせながら誰の品か書き込んでリストを作っていく。

沈没船は小魚達の格好のねぐらなので、稚魚の大群と戯れながら先を進む。

人々は大広間と甲板に集まっていたらしく遺骨はそこに集中していた。

同じように鑑定で誰の遺骨か確かめながら回収する。船の外にも遺骨があったので、それも回収した。

乗客のリストの中で、どうしても見当たらない人もいた。もしかしたら泳いで流されていった人かもしれない。

周囲を何度も探したが、見つからなかったので仕方なく諦めて帰路につくことにした。


港に戻ってから公衆浴場に入り、冒険者ギルドを訪ねると、やはりというかすぐさまギルド長室に通された。

どうしても見つからない遺骨があったことを話すと、ドゥーラさんも理解を示してくれた。

遺骨や遺品は明日教会で遺族に渡すことになった。

教会に戻ると、沢山の神父が遺骨を容れ物に納めるのを手伝ってくれ、遺骨と遺品をリスト順にまとめることができた。

翌日、神父様がミサをあげてくださる中で遺骨・遺品を遺族に受け渡すと、遺族の方は涙を流しながら愛しげに受け取っていった。

ミサが終わった後、それぞれの遺族同士や神父様と遺族が話し合っている中を抜け出して、孤児院の庭でしんみりとしていると、音もなくドゥーラさんが隣に立った。

ありがとな、と言いながら報酬を渡してくれた。昨日冒険者ギルドの職員から聞いた話によると、今回の依頼はギルドマスター個人の依頼で、報酬はドゥーラさんのポケットマネーから支払うことになっているらしい。

冒険者ギルドのお金は遺族を助ける一時金として既に遣われていたそうだ。

そんな話を聞いてしまったので、報酬は半分だけ貰うことにした。



遂に、遂に、イザラの海底都市へ赴く準備が整ったので、ムワン神父とシナイナさんに数日戻らないことを伝え、イザラへ旅立つ。

アイテムロストが怖いので、孤児院の自室に置いておいても問題なさそうなキャンプギアなどは置いてきた。

イザラまでは経験値を稼ぐ為に水中歩行で進むことにした。

水中歩行だと健脚スキルが効果を発揮するので、かなり移動スピードは速い。

そして、最も恐れていたことが起きた。

エリアボスとの遭遇である。

頑張って気配遮断とか魔力遮断をかけてはいたが、水中での索敵能力は海中モンスターの方が残念ながら上なのだ。

相手はジャイアントレイ、巨大エイだ。

毒や麻痺の攻撃はこっちには大して効かないので助かったが、なんせ火力が低いので、銛で応戦するもあっさりやられて死に戻ってしまった。

きっちり錬金素材とお金が没収され、ステータスが減少してる。そういえば、デスペナのある死に戻りはイベント以外では初めてだ。

ムワン神父は数日戻らないと言っていたのが急に孤児院にいることに気がついて、思わずといった様子で笑っている。

笑えばいいさ。

自分でもちょっと面白いとは思うし。

デスペナが解けるまで畑仕事をした後、夕方イザラへ出発した。


夜、再度巨大エイに対峙する。前回で攻撃パターンは覚えたので、なんとか回避しつつ、銛を急所へ撃ち込む。

銛を立て続けに急所へ何度も撃ち込んだ後、エイが海底にダウンしてきたので斧でダメージを与え、エイがまた泳ぎ出すと銛で狙うという作戦で時間をかけて戦うと、なんとか巨大エイを倒すことが出来た。

イザラへ移動を続けていると、ようやく海底都市に辿り着いた。

ここにも海中モンスターがいるとのことだったが、呪われているなら問題ない。

一旦浮上し、海に浮かびながら食事をとったりポーションを飲んだりして準備を整える。

海底に戻り、エリアライトを使って辺りを照らしながら散策すると、カースドモーレイイールというウツボに出会った。

先程とは一転、神聖魔法で圧勝して再びイザラの調査を続ける。スケルトンやゴーストが海底にいるのはなんだか違和感があったが、浄化をかけると、死に際に水の泡のようなものを出す。漂う泡を手のひらでキャッチしてみたところ、それぞれの思念が頭の中に直接入ってくるような、不思議な体験をした。以降積極的に泡をキャッチするようにしたところ、どうやらスケルトンやゴーストはやはりイザラ防衛戦をしたサラディ王国民が多いようだったが、それ以外にも攻城戦で死んでいったハグルシド帝国兵士や、珍しいところだと水没した都市から商人が撤退した後に借金を抱えて自殺した町人なんかもいた。

朝になると、光が水没都市に差し込んできて、幻想的な光景を生み出していた。

廃墟萌えというか水没萌えというか、美しい景色をスクショしまくった。

都市自体が一応ダンジョンになっていたが、本丸はイザラ城で、そこからが本格的なダンジョンになっているようだ。

イザラ城の門は海底で閉まっており、どうやって開けるのかと思っていたが、城の前に立っていたスケルトンの衛士8体をまとめて浄化すると、閉じていた門がギギギギギギと軋む音を立てて開いていった。


さて、中には何があるだろうか?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ