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地下水道ダンジョン

迷宮のような地下水道を辿ってギルドマスターから教えられたダンジョン地点に着くと、確かにスケルトンが2体、槍を持って入口を守るように扉の前に立っていた。

近づくと、

何人(なんぴと)もここに入ることは罷り成らん!」

と言って槍を突きつけてくる。勿論扉は開かない。

浄化をせずとも喋るスケルトンだ!

サラディ王国関連の保証はないが、とりあえずインベントリのアイテムバッグからサラディ王国の国璽を取り出し、

「我はユーリディア王女の代理人である!」

と声を張り上げてみた。

すると、スケルトンは頭を垂れ、膝を折り、畏まって

「失礼いたしました!どうぞお通りください!」

と言葉を発した。

長い年月閉まっていた様子の扉が鈍い音を立てて開いていく。

ここで浄化を使って2体のスケルトンを成仏させてもよかったが、ダンジョンに入っている間他のプレイヤーやNPCに邪魔されたくなかったので、そのままにしておく。

ユーリディア王女は、前回洞窟のダンジョンでラスボスとして戦ったカースドゴーストプリンセスのことだ。高貴な人の常か、王女は自分からは名乗らなかったものの、分析スキルが名前を表示してくれていたのがこんなところで役立った。


扉の中に入ると確かにダンジョンになっていた。しかし最早アンデッド無双が出来るビルドになっているので、このアンデッドばかりのダンジョンも敵ではない。

このダンジョンは外に瘴気を放出していないのが不思議だ。おかげでHPが削られなくていいけど。

全ての敵に浄化をかけていくと、以前と同様皆喋ってくれた。

どうやらここは王都に残された文官が多く、ハグルシド帝国に処刑された者や、帝国に仕えたものの憤懣遣る方ない者など、様々な官吏がいたが、それぞれに恨みつらみを語っていった。

中ボスはカースドゴーストシヴィルサーヴァントとカースドスケルトンキングスガードという、文官と近衛兵の2体だったが、少し時間はかかったものの、難なく浄化した。

それぞれの視点からの王国の最期は興味深かった。近衛兵の王を守れなかった忸怩たる思い、文官の冷静な分析と相反するアツい思い、滔々と語られるそれらは何かの叙事詩のようだった。

ラスボスはカースドスケルトンセクレタリーという、なんと大臣だった。

ここのダンジョンはハグルシド帝国に侵されないよう最期の最後に作ったダンジョンらしく、重要書類や国家機密を保存しておく為の場所らしい。書類は焼いてもよかったが、やがて亡命したユーリディア王女が戻ってくる時の為に保管することにしたようだ。

大臣は王が処刑された後、王城を引き渡し、国政が滞りなく軌道に乗るまでを見届けて王の後を追ったそうだ。

スケルトンの割に魔法攻撃中心で、こっちはぼかすかダメージを負いながらも浄化をしつつ、話を聞きつつ、回復するという忙しさだったが、話が大体終わると浄化を連発して圧勝した。

インベントリに数束入れておいたサラディ王国の国花の赤い花をお供えして、冥福を祈る。

ちょっと恥ずかしかったが、『我がサラディ』も歌ってみた。

ダンジョンコアが露出すると、「地下構造の強度を残して静かに自壊せよ」と唱えて終わらせる。一旦ダンジョンから出て扉の前で待っていると、ゴトン、とダンジョンがなくなった音がした。

もう一度扉の中に入ると、そこは広い書庫になっていた。


はっきり言って、インベントリが足りるとは思えない。

入口の警備をスケルトンに任せ、慌てて冒険者ギルドからお金を下ろして魔導具屋に駆け込み、収納量2倍のアイテムバッグを20個買ってきた。もう懐はスッカラカンだけど、背に腹はかえられない。

急いで書庫にもどり、軒並み資料を収納していく。アイテムバッグを使ってはいるが、サラディ王国関連のアイテムでインベントリが大分圧迫されている。後は調薬素材とか錬金素材が多い。まだ自分のレベルでは使えない素材も山の中を歩きまくっていたら採取出来たので、結構パンパンなのだ。

収納スキルも経験値が溜まってきている。

書庫には沢山の種類の資料が詰まっていた。行政書類から歴史書まで様々だ。後でじっくり読むことにしよう。ダンジョン内で封印していたからか、紙やパピルスの劣化は一切ないのが助かった。

この書庫の存在を守る為にダンジョンから瘴気が漏れないようにしていたのかもしれない。

ありとあらゆる資料を回収し、書庫を空にすると扉の外に出る。

警備のスケルトン2体にお疲れ、と言いながら浄化をかける。

すると、『ユニークチェーンクエストを受けますか?』というウィンドウが表示された。もう、ほぼ受けているようなものでは?と思いながらも、はい、をタップする。今回は一応いいえ、があった。いや、それが当たり前なんだけど。

ユニーククエストということなので、サラディ王国関連だと踏んでいたが、チェーンクエストの内容は水没した都市を救おう!だった。都市名はイザラ。聞いたことがない。

大体水没したところにどうやって行くんだ。

一応クエストの目的地はマップに示されていたが、見事に海のど真ん中だった。


ここのラスボスはユニークボスだったし、サラディ王国関連のイベントだったが、チェーンクエストではなかったらしい。

終わり方に?マークを頭に浮かべながらも、チェーンクエスト自体は嬉しい。

地下水道から出ていつものように公衆浴場に寄ってから、冒険者ギルドで依頼達成の報告すると、やはりいつものようにギルド長室に案内された。

書庫があったことはぼかしながら、ダンジョンを踏破しコアを壊したことを報告する。

ギルドマスターは素直に感心してくれた。褒めて育てるタイプなのかもしれない。

水没した都市イザラについて尋ねると、ドゥーラさんは場所を知っていた。ダンジョン化していて、瘴気が海を汚染しているそうだ。幸い、海の中和作用で、ダンジョン近くの汚染だけで済んでいるようだが、凶暴化した海中のモンスターもいるらしい。トレジャーハンターが何度も返り討ちに遭っているんだとか。

イザラは古い都市名で、現在ではメトリオと呼ばれているとのこと。

「ちなみに水没した都市ってどうやって行くんですかね?やっぱり船でしょうか?」

と訊くと、

「あんた、知らないのか?水中行動や水中歩行っつースキルがあるだろうが。」

とのお答えだった。

ついでに水中呼吸のスキルもあるらしい。つまり船で近くまで行って潜水して、後は水中で歩けと?そういうことなのか?ヘルメット潜水のヘルメットなしみたいなものなの?

どんどん疑問は出てくるが取得可能スキル一覧を見ると、水泳と潜水があったが、水中呼吸や水中歩行はなかった。

とりあえずその場で水泳と潜水のスキルを1ポイントずつで取る。

「なあ、ところであんた、瘴気が汚染してると聞いても動揺してないが、もしかして浄化を使えるのか?」

「はい、使えますよ。」

「ほ、ホントに?じゃあ浄化を頼みたい依頼があるんだ。明日また冒険者ギルドに寄ってくれないか?」

「?いいですよ。」

浄化くらいなら問題ないだろう。

「質問なんですが、水泳や潜水スキルってどうやったら上がるんでしょうか?」

「そりゃあ、実践あるのみ、だ。そうだ、漁師ギルドに掛け合ってみたらどうだ?現金も稼げるぞ。」

「漁師ギルド、ですか?」

「ああ。そうだ!俺が話を通しておいてやるよ。また明日来た時に調整しよう。依頼達成の確認もしなきゃならんから、報酬も明日でもいいか?」

「はい、勿論です。」

そんなわけで明日も冒険者ギルドに行くことになった。


孤児院に戻って、夕食の準備を手伝った。今後は夕食の準備は毎日手伝うことを神父様とシスターに伝えると喜んでくれた。

食事後、ユニ樹に魔力を譲与すると、自室で諸々の通知を確認する。


先ずはレベルが22になった。

それからエリアボスの討伐称号、鼠殺しを得て、SPを10ポイント、ソロ討伐特典で更に1ポイント貰えた。

ダンジョンのボスのソロ討伐特典は10ポイントだった。


その日はひたすらダンジョンの書庫にあった書類や読み漁った。どうやら、イザラはサラディ王国の第2の都市だったらしい。

ということは、ユーリディア王女の兄である、王子が戦死したところか?

同じく海岸沿いにある水上交易都市だったが、長い年月をかけて海に浸食され、水没していったらしい。


翌日冒険者ギルドを訪れると、何も言わない内にギルドマスターの元へと案内された。

ドゥーラさんは満面の笑みを浮かべて迎えてくれたが、ちょっと怖い。

「これが、浄化してもらいたい品々だ。」と手で指し示した先には、ローテーブルの上にこんもりと山になってアイテムが溢れている。まさかこんなに数が多いとは、誤算だった。

「俺は仕事してるから、そこで浄化しててくれないか。漁師ギルドの奴は午後からやってくるからな。」

と言われ、後は黙々と浄化を使う。うう、範囲浄化が欲しい。でも範囲浄化は神聖魔法Lv.8にならないと使えないのだ。

アイテムは呪われた剣やらコンパスやら財宝やら様々だった。

地道に浄化を続け、終わらせるとギルドマスターは大いに驚いたようだった。

「参ったな、こんなに早いとは思わなかった。ダッサイ、流石だな。

いやー、助かった。トレジャーハンターや冒険者達が時々呪われた品を持ち込んできて、長年ギルドの保管庫で箪笥の肥やしになっていたんだが、誰も浄化を使えなくてなぁ。こんなにスッキリするとは思わなかったぜ。」

これが地下水道ダンジョンと合わせての報酬だ、と渡された小袋には結構な金額が入っていた。それは冒険者ギルドの口座に入れて貰うよう頼む。

午後まで暇なので、一旦図書館に行こうかな、と考えていたら、

「なあ、報酬ははずむから、1件依頼を頼まれてくれないか?なーに、昼までにチョチョイって終わるって。」

と上手く丸め込められ、ギルド職員に連れられ、何故か今、一軒家の前に佇んでいる。

目の前にあるのはどう考えてもお化け屋敷だ。

誰も住んでなさそうなのが一発でわかる。

どうやら良いように使われているらしい。良心的とか考えていた自分が馬鹿だった。ギルドマスターはどこに行ってもギルドマスターなのだ。

しょうがなく、不動産を浄化することにする。なんかデロデロのゴーストが出てきた気がするが、無視だ、無視!

まとめて浄化してやる!と色々なことを見なかった振りして神聖魔法を行使する。

本当に昼までに終わらせてしまった自分が憎い。

ギルド職員は

「いやー、事故物件で冒険者ギルド預かりになってて困ってたんですよ、これで売れます!ありがとうございます!」

と爽やかな笑顔で礼を言ってくるが、騙されないぞ、こっちはお祓い師じゃないんだからな。

冒険者ギルドに戻ると冒険者ギルドランクも勝手にGからFに上げられていた。このやり手ギルドめ!

怒るに怒れないじゃないか。家に清掃もかけてやったので、報酬に色をつけてくれた為、文句も言えなかった。

アイテムバッグ20個の出費が痛かったな…。

こっちの報酬は口座に入れず、当座の資金とすることにした。

何故かギルドマスターに冒険者ギルドの酒場で昼飯を奢って貰い、昼食後ギルド長室に戻ると、漁師ギルド員らしきおじさんとおばさんが来ていた。

「あんたがダッサイね!水中呼吸・水中行動・水中歩行を習いたいんですって?あたしが海士の統括をしてるシナイナだよ。素潜り漁はみっちり鍛えてあげるからね!」

「俺は漁師ギルド長のヤジラってもんだ。よろしくな!」

「だ、ダッサイと申します。よろしくお願いいたします。」

漁師パワーに負けていると勝手に話が進んでいくが、シナイナさんが素潜り漁を教えてくれることになった。

漁で獲れた魚介類は漁師ギルドに納め、代わりに市場に出回らない小魚を譲ってくれることで話はまとまった。

これで孤児院でも粗汁やらブイヤベースやら南蛮漬けやらが作れるだろう。

悪い話じゃない。

水泳と潜水のレベルが上がると水中呼吸などのスキルを取得可能になるのだと言う。

気づいたら、翌朝6時半に港に集合ということになっていた。

冒険者ギルドを去る頃にはすっかり疲れていたが、防具屋で防水の服を上下買った。

これがこの世界のウエットスーツらしい。


翌朝港に行くと、シナイナさんはじめ海女さん達と、背の高い男性の海士さんがいた。それぞれを紹介してもらい、自己紹介する。のっぽの男性は、ガトさんというそうだ。

パワフルな海女さんに囲まれていると、頑張ろうね、とガトさんに声をかけて貰った。

それから海神の神殿に全員でお参りし、自分を神様に紹介して貰い、漁の安全を祈った。


先ずは泳ぎながら海士さん達の漁を観察する。遠目のスキルがこんなところで役に立った。

1艘の舟に比較的浅瀬に移動して貰い、重りを付けて潜水の真似事をしてみる。

発見のスキルがある為か、貝を見つけるのは結構出来たので、見つけるまでにひと潜りかふた潜りし、採取にひと潜り、と何度も潜りながら見様見真似で頑張る。スキルは多分アシストしてくれている筈だ。


ゲーム内時間で正午になると、漁は終了し、午後は浅瀬で1人で水泳と潜水の練習をする。

夕方海から上がると、夕食の準備をし、食後ユニ樹に魔力譲与を行う。夜は古い台帳の修復・書写と、サラディ王国の書類を読み、朝起きてユニ樹に魔力を与え、漁に出る、というルーティンが出来上がった。

漁に不向きな天気の時には、図書館で読書をし、治癒院のヒフォ樹にも魔力譲与を行い、夕方子供達と遊ぶことにしている。浮遊スキルは子供達に大人気で、子供を抱えて浮遊しては子供達に何度ももう一回、もう一回とせがまれ、無限浮遊ループ状態になる。

ルーティンを繰り返し、慣れた頃にはすっかり孤児院に馴染んできていて、またもや情が湧いてきてしまったが、台帳を整理し、水中呼吸などが身についたら居なくなることは神父様やシスター達には告げていた。

ユニークチェーンクエストが時間制限があるタイプじゃなくて本当に良かった。


どこから聞きつけたのか、商業ギルドからも浄化の依頼を受け、それぞれ浄化すると、冒険者ギルドよりもかなり払いがよかった。

実績を積むと、なんと近隣の都市からも呪われて使い物にならない商品を掻き集めては定期的に浄化を頼むので、現金に惑わされて毎回浄化をしてやっている。運搬はインベントリ持ちのプレイヤーに依頼しているらしい。

商業ギルドからはギルドに登録しないかと誘われた。

特に商売する予定もなかったので断ろうと思っていたら、商売しなくてもオークションの取引に何かと便利ですよと勧誘され、オークションの魅力に抗えずにギルドメンバーになってしまった。

登録料はタダにしてくれた上に年会費は永年不要にしてギルドランクをいきなりGからEにしてくれた。そんなに呪われたアイテムを浄化する要員って珍しいのか、全力で囲い込まれた。

商業ギルド怖い。


ルーティンをこなし、春から夏にかけてはそんな風にして過ごした。

SP の数字を訂正しました。

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