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亡き王女のための

ログインしたらまず楽譜を調べてみることにした。

鑑定すると、

古い古い歌の楽譜。サラディ王国の国歌のような扱いになっていた。

という内容だった。

自分は音楽家じゃないので楽譜を読めないが、歌詞がついているので、歌詞だけでも読んでみるか、と楽譜に目を落とすと、何故かメロディーつきで歌が頭の中で流れ出す。

混乱して花妖精に話すと、「だって歌唱スキルがあるじゃないですか。スキルアシストですよ。」と事もなげに言われてしまった。

確かに歌唱スキル持ってたな-。子供達と歌ってただけだったけど。

ゴブリンの一件でしか役に立ってないと思ってたけど、こんなところで役立つのか。

……ヤズイの皆は元気だろうか。


今度は第5層のカースドスケルトンジェネラルのボス部屋に向かう。

浄化をかけると案の定、滔々と語り出した。

風土病にかかった部下を為す術なく目の前で失う辛さ、足りない物資、伝え聞く故国が完全に他国に掌握されてしまった悲哀、自らも病に斃れた悲運、それらをブツブツと怨念を込めて明かしてくれるのだが、こっちはパリィしたりなんだりで忙しい。

この浄化で聞き出してみよう作戦は、相手の話が終わるまで逃げ回ったり防御したりで耐えなきゃいけないところが大変だ。

粗方聞き終わって話がループしてきたところで、浄化を連発すると、カースドスケルトンジェネラルも同じように消えていった。

そしてやっぱり突然部屋の奥に宝箱が現れた。

開けてみると、中には種が入っていた。


まさか種が入っているとは思わなかったので、またもやダンジョンを出て、花妖精に相談する。

「種ですかー。このダンジョンにしては不思議なものが入っていますね。前例がないわけではありませんが。

ダンジョンで貴重な植物の種が出てくるのはごく稀にあるんですよ。育てた植物は高値で売れるんですが、育てるまで何の種かわからないんですよね。」

確かに鑑定しても、植物の種、としか出てこない。

「でも前回の楽譜もサラディ王国に関連してたし、この種も関係があると思うんだよね。育ててみようと思うんだけど。」

「確かに国花とかの可能性もありますね。幸いダンジョンからの瘴気もかなり薄くなってきたことですし、ここで育ててみましょうか。」

「セーフティーエリアで育てるのじゃ駄目なのか?」

「何が起こるかわかりませんし、セーフティーエリア外で育てた方がいいと思うんですよね。このダンジョンに関係しているなら、ダンジョンの傍で育てば何か化学反応があるかもしれないですし。」

「なるほど。」


ということでダンジョンの周りに種を蒔いてみた。ここで秋に蒔いて無事に育つかわからないが栽培スキルと成長促進スキルがサポートしてくれることを願おう。

植物が育つまでは暫くダンジョン攻略を中断することにした。

やっぱり生活に潤いは必要だ。狩りをしたり料理したり調薬したり調合したりして過ごすのは楽しかった。


冬になる前に雪が降ってきたので、ダンジョン攻略を再開する。

第6層のボスは2体同時だ。とても今の状態で話を聞きながら防御したり回復したりするのは難しいので、出てくるモンスターには浄化を使わず、トレーニングに役立ってもらった。

レベルも18に上がったので、遂に中ボスと対戦することにした。保険として、第6層のモンスターにはまだ浄化をかけていない。

結果として、死に戻った。

まあ2体のボスのレベル30だからな。

そして何度も死に戻りをしながら少しずつ話を聞いていくに、ハグルシド帝国に侵攻されて王都が陥落したこと、王太子はその前の第2の都市の防衛戦で戦死したこと、ハグルシド帝国の要求は王の首だったこと、王が王都の安全と引き換えに自ら命を差し出したこと、王女だけは何とか王都から脱出させるのに成功したこと、隣国へ亡命しようにも主要な幹線道路や関所は既に押さえられていたことからこの無謀とも言える道なき道を進む山越えを決心したこと、山越えしながら段々と風土病に罹る兵士が増えて遂にこの洞窟で身を休めることにしたこと、補給物資の足りない中まさに野戦病院と化し地獄の様相を呈していたこと、遂に希望の星であった王女も病に斃れたこと、残った将軍・兵士達は志半ばで自害したことなどがわかった。

とどめの浄化をかけると、やはり同じようにボスが1体消えていった。残った1体の攻撃パターンが変わり、カースドスケルトンジェネラルが暴れ出す。力任せの攻撃を躱しながら最後の浄化を唱えると、カースドスケルトンジェネラルも又消えていった。

宝箱が出てくるかな、と思ったら宝箱は出てこなかった。


一旦セーフティーエリアまで戻る。花妖精はセーフティーエリアの木の虚の中で雪をやり過ごしているからだ。

雪の中で簡易コンロでスープを作る。耐寒スキルがあってよかったが、やはり火が欲しい。今度町に着いたら焚き火台も買おう。


ヤズイの図書館で読んだ本に載っていたので、ハグルシド帝国の名は聞いたことがあった。

その帝国も既にない。

ハグルシド帝国の覇権の一つとしてサラディ王国は記憶されているだろうが、サラディ王国自体の歴史はヤズイの図書館にはなかった。

平家物語ではないが、諸行無常の響きあり、という感じだ。

まさにここは落武者達が死んでいったところなのだ。

彼らがハグルシド帝国を、運命を、呪いながらこの世を去っていった事情はわかる。だが、何故カースド、呪われた、と付くのだろう。呪っている主体のような感じなのに。

花妖精に疑問を話すと、

「人を呪わば穴二つっていうじゃないですか。呪い返しにあったか、あるいは対象であるハグルシド帝国が瓦解したことによって我が身も呪われたか、わかんないですけどね。長い年月呪っていると、自分自身も呪われるようになるんじゃないかなと思いますよ。」

となかなか深い話をされてしまった。


2人で次の作戦を相談する。第6層のボスは2体で、2体ともレベル30だった。第7層のラスボスも複数いてレベルももっと上の可能性が高い。

仕方ないので、第6層で特訓することになった。不意打ちはやめて、パリィや体幹・STR・AGIのスキルを鍛える。

リポップの時間まで暇になるので、瘴気のない第6層で剣の素振りをして過ごす。

完全に漫画の主人公の修行編みたいな感じだ。

そんなこと望んでないのに。


花妖精はダンジョンには入れないので、一人でダンジョンにこもって話し相手がいないのはなかなか辛い。

ログアウトする時はセーフティーエリアに戻るから会えるけれど、3日間はダンジョンに必ずこもるので孤独感は薄れない。

そんな生活を続けていると自棄になってくるので、もう第7層に突っ込むことにした。


第6層のモンスターを軒並み浄化する。

遂にラスボスだ!

第7層のボス部屋の扉をゆっくり開くと、辺りに凄まじい瘴気が広がった。

中に入ると待っていたのはカースドスケルトンハイジェネラルと、カースドゴーストプリンセスの2体だった。

うわぁ、王女様まで出てきてしまったかー。

などと呑気なことを考えている暇もなく、ハイジェネラルの鋭い剣が襲ってくる。

パリィしようとしても力押しでやられてしまうので、盾はしまって剣鉈一本で回避していく方針に切り替える。

カースドスケルトンハイジェネラルのレベルはなんと50だった!

いくらヤズイから距離があるとは言え、50はやり過ぎだろ!

死に戻りや逃走を覚悟したが、逃走不可避と分析スキルが教えてくれる。しかもユニークボスなので一期一会らしい。

カースドゴーストプリンセスはレベル40だった。

しかも王女の方は完全な支援型らしく、さっきからこっちに次々とデバフをかけてくるはハイジェネラルにバフをかけまくるはで凶悪である。

幸いながら状態異常はユステフ神父様のメダイと、高いであろうMNDと、各耐性スキルと、事前に飲んでおいた薬湯のおかげでなんとかなっているが、一時的に攻撃力や防御力を下げるデバフまで使ってくるのでうっとうしいことこの上ない。

だが、王女から先に倒そうとすると、ことごとくハイジェネラルが庇うので、まずは将軍の方を倒さないといけないらしい。

そう、バフ盛りまくりのハイジェネラルを。

しかもハイジェネラルのHPが低くなるとプリンセスが回復をかけてしまうのだ。

誰だこんな戦闘バランス設計したのは。

とにかく浄化とホーリーレイを撃ち込み続けるしかない。

浄化をかけるとハイジェネラルもプリンセスも、ハグルシド帝国への恨みつらみを語り出す。

だが、将軍の攻撃の手は休まない。

次々に襲いかかってくる攻撃を受けたり躱したりしながら浄化とホーリーレイをハイジェネラルに連発する。

HPとMPを回復しながらの持久戦になった。

グラッジホーンラビットといい、ボス戦になると火力がないので持久戦になりがちだ。

今回は神聖魔法の火力は十分なのだが、レベル差が大きすぎてお話にならない。

バフやデバフをかけてくる敵も初めてなら、回復してしまう敵を相手にするのも初めてだ。

ちなみに瘴気による体力削りはこのダンジョンにいる間はずっと発生し続けているので、HP管理もなかなか大変だ。


王女様も将軍も如何にサラディ王国が素晴らしい国だったかを語り、その歴史が埋もれていることを嘆く。

ハグルシド帝国へ憎悪を燃やしながら、サラディ王国を記憶しないこの世の全てに対して憤っている。

どれくらい戦っただろうか?現実だとそれほどの時間ではないだろうが、ゲーム内ではかなりの時間をかけている気がする。

遂にカースドゴーストプリンセスのMPも尽きたのか、回復も妨害も支援もしなくなった。

ここぞとばかりにホーリーレイと浄化をハイジェネラルに叩き込む。

あまりにもレベル差があるため相手のHP残量がわからないが、将軍の攻撃パターンが変わったので、残り少なくなってきたことを知る。

せっかくの一期一会のラスボスだ、特殊イベントは逃したくないので、魔石は諦めてホーリーレイを封印する。

ひたすら浄化をかけまくっていると、ガクッとカースドスケルトンハイジェネラルが膝を折った。

「姫様、御身を残して逝く我が身をお許しください。」

と王女に頭を下げる。

王女は

「なんということ!ベルオデヨ将軍!!お前の忠誠は届きましたよ!」

と嘆いているが、こちらを攻撃してこない敵に対してどうアクションしたらいいかがわからない。

置いてけぼりである。

ミンストレルみたいに対応するアイテムでもあればイベントも変わるのだろうか。

考えても何も出てこないので、仕方なく宝箱から出てきた『我がサラディを』を歌ってみると、将軍は

「おお、なんと懐かしい響きだ。久しぶりに聞いたぞ、若者よ。」

とこちらを向いた。

すると王女様もこちらを向いて

「約束してくださいますか?その歌やサラディ王国の歴史を広めることこそが、お前の役目です。

必ずサラディ王国の歴史を後世に伝えるというのであれば、お前に託したいものがあるのです。」

と話す。

後世に伝える、というのがどういう手段か、今は皆目見当もつかないが、これが念願の特殊イベントだということはわかる。

「微力ながら尽力するのでよろしければ、サラディ王国の歴史を伝えていくことをお約束いたします。」

すると、

「よい。こんなところに来るのはお前くらいだけであろう。約束してくれるならば、我が国の秘宝をそなたに預けよう。」

と王女が言って、腕を振るとボス部屋の奥に扉が現れた。

「それはお前の財宝ではないぞ、後世の民の宝なのだ。秘匿や横領なぞしてはならぬ。約束出来るか?」

と将軍が問う。

こんなところにある財宝を自分のものにしたらどんな呪いがあるかわからない。

頼まれたって奪取はしない。

「お約束いたします。」

と答えると奥の扉がゴゴゴと開いていった。

おそるおそる扉の中に入るとそこも小部屋になっていて、王冠やら首飾りやら杯やらが年月をものともせず光り輝いていた。

とりわけ豪奢な箱を開くと、なんと玉璽が入っていた。

この財宝の重みに恐れおののいてしまうが、後世に伝えろとは、これらを博物館なんかに寄贈すればよいのだろう。

自分はそれまでの運搬係なのだ、と思えばちょっとは怖くなくなるかもしれない。

鑑定すると、呪われた宝物、と出てきたので、すべての財宝に浄化をかけていく。

デスペナルティでロストすると怖いので、収納量2倍のアイテムバッグにサラディ王国のお宝を詰め込んだ。

一通り収納し終わると小部屋を出て、将軍と王女に、「これらは博物館に納めさせていただきます」と頭を下げる。

「うむ。」

「頼みましたよ。」

そう言い置いて2人は消えていった。

なんだか不思議な終わり方だったな、とぼーっとしていたが、そういえばダンジョンコアがまだだったと慌てて気づく。

辺りを見回すと、戦闘の時は何もなかった場所に、球体のダンジョンコアがあった。

以前ネットで調べてみたが、ダンジョンコアは高値で売れるらしい。ダンジョンがあれば街も潤うというわけでNPCの権力者層も購入するし、プレイヤーもダンジョンメイクをしたくて買ったり交換したりするらしいのだ。

ただ、それは通常のモンスターが出てくるダンジョンの話である。

不人気である神聖魔法が必須のアンデッドだらけのダンジョンなんて需要がないだろうし、何よりここは死者の怨念で出来たダンジョンなので、このままにしておくつもりはない。


ダンジョンコアに手の平を置くと、

「自壊せよ」

と呟く。

するとダンジョンコアはみるみる溶けて形を失い、最後には蒸発するように消えていった。


崩壊していくダンジョンから、ダッシュで出口を目指す。

ダンジョンの外に出ると、ドオン、ドオン、とものすごい音が響き、そして静かになった。

洞窟の中をエリアライトで照らすと、今まであった第2層への入り口がなくなっている。

普通の洞窟に戻ったのだろう。


セーフティーエリアまで戻ると、花妖精に事の顛末を話す。

こうして地獄のダンジョン攻略は終わったのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ストーリーが濃くてとても読み応えがありました。 読んでいてとても楽しかったです。
[良い点] 面白くて一気に読んじゃいました。 最初の街編も楽しかったですが(別れのシーンで泣きました)ダンジョン編も楽しかったです!
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