ダンジョンの謎
そこは小さな隠し部屋だった。
どうして気がついたのかはわからない。
ただ、なんとなく気になっただけだ。多分発見スキルが仕事したんだろう。
あれ?と思ってそっと壁を押すと、ぐぐぐっと壁が動いて小部屋が出現した。
生活魔法のライトであたりを照らしてみたが、手元しか明るくならないので、思い切って光魔法を10ポイントで取得してみた。照明の為に光魔法を取得するのもコスパ的にどうなんだと思わないでもないが、早く全体像を見てみたい気持ちが勝った。
光魔法のLv.1で使えるエリアライトを使ってみると、小部屋全体が明るくなった。
そこは雑然とした部屋だったが、ライティングビューローの上には沢山のパピルスが置かれていた。
ただかなりの年代物なので、どうにかボロボロにしないように読まないといけない。
今まで積み上げてきたDEXと修復スキルが真価を発揮する時だ。
なんとか解読していくと、どうやら輜重部隊の隊長の手記らしい。
几帳面に目録をつけていたのが、急に字体が崩れ出す。
混乱しているのがわかる筆跡だ。
とにかく急いで準備した様子が窺える。
どうやらサラディ王国の軍人の手記で間違いないようだ。
王都からここまでやってきたらしい。
何かの作戦だったんだろうか?
それにしては準備期間が足りないと書かれているが。
そして段々と文章が崩れていき、病気の患者に十分な物資を渡せないことを嘆いている。
でも王女だけは…と書いてある。
王女?お姫様が同道していたのか…。
全体像がわからないが、急いで王都から出発し、王女がいて、病気になった人が多かったのはわかった。
他にも何かないかな、と調べると沢山の錆びた武器があった。
それから大分古くて壊れかけた竪琴が一つ。
興味を惹かれて竪琴はその場で軽く修復してみた。
ダンジョンに戻ってマラソンするより、竪琴を修復している方がマシなので、時間をたっぷりかけて修復した。
弦は持ち合わせがなかったので直しきれていないが、木製の部分はしっかり直せた。
満足して部屋を見渡す。
その他に目新しいものがなかったので、竪琴をインベントリにしまって小部屋の外に出る。
謎は深まったが、どうやらこのダンジョンがサラディ王国と関係があることがわかっただけでも収穫だ。
再びマラソンが始まるわけだが、好奇心のおかげでちょびっとやる気が湧いてきた。
マラソン生活を始めて何日経ったか、もうわからない。
日々スケルトンとゴーストを相手にしていたら、スケルトンキラーとゴーストキラーの称号を手に入れてしまった。
どっちもスケルトン、ゴーストにクリティカルが出やすくなる称号だ。SPは1ポイントずつ貰えた。
まあ、クリティカルと言われても神聖魔法はアンデッドに特効なので、あってもなくてもあんまり変わらないが。
パリィと不意打ちという、嬉しいスキルも生えた。
第4層のボスはカースドゴーストミンストレルという吟遊詩人のゴーストだった。
第5層はカースドスケルトンジェネラル、第6層はカースドゴーストジェネラルとカースドスケルトンジェネラルの2体を同時に相手にするタイプのボス部屋だった。
第6層までをひたすらマラソンすることによって、遂に、遂に、神聖魔法がLv.5になった!!
勿論、神聖魔法がレベル5になってやることと言えば、娑婆での休憩である。
もう毎日ダンジョン内を走り回らなくて済む。
快適なキャンプ生活の為にもあのカースドジャイアントベアをやってしまおうということで、再戦となった。
遠距離からホーリーレイを2発撃ち込むと、寄られる前に倒すことが出来た。
これもマラソンの成果だが、今は考えたくない。
カースドジャイアントベアの死骸を前に浄化を唱える。
すると、ジャイアントベアを覆っていた瘴気が消え、大熊が横たわるのみとなった。
畏敬の念すら覚えるその姿に、思わずオラスから教わった祝詞を上げてしまった。
呪われていた熊の肉を食べるのもアレだったので、肉は森に捧げることにしたが、皮は解体していただくことにした。それが自分なりの供養の仕方だと思ったからだ。
解体だけで半日以上の時間がかかった。
それから肉を切り分けて、ウィンドで地面を掘り、その中に肉を入れて、ソイルで埋めて処理した。
その間花妖精は空気を読んで黙っていてくれた。
その日はセーフティーエリアに戻るとサッサとログアウトして、現実で開放感と達成感を味わうことにした。
次の日ログインして、UIの通知を確認するといくつか称号が増えていた。
熊殺し:熊型のモンスター・動物に対してクリティカルが発生しやすくなる。
SP+10
ソロ討伐特典SP+5
ジャイアントキリング:レベル差5以上の敵に勝利した証。格上の相手と対戦する際にクリティカルが発生しやすくなる。
SP+5
MND上昇と詠唱短縮が(小)から(中)に進化出来るようになっていたので、それぞれ16ポイントと50ポイントで進化させた。
レベル自体は17に上がっていた。
気づけば大分寒くなってきて、既に晩秋になっていた。
花妖精に尋ねると、遠くの森にいる鹿なら狩っていいとのことだったので、久しぶりに狩りに出掛けた。
冷たい空気が心地よかった。
遠目を使うのも久しぶりだ。
運良く鹿の痕跡を発見したので長い時間をかけて追跡し、弓で仕留めた。
その日はセーフティーエリアで鹿肉ステーキのクランベリーソース添えを食べて大満足だった。
数日間採取したり狩りをしたりして、英気を養い、またダンジョンに戻ってきた。
今度はダンジョン踏破がかかっているが、それよりもサラディ王国の謎を解き明かしたい気持ちの方が大きい。
花妖精によると、カースドジャイアントベアを生きている内に浄化してしまうと単なるジャイアントベアになってしまい、神聖魔法が効かなくなってしまうが、カースドスケルトンやらカースドゴーストやらは浄化してもアンデッドには変わりないので、浄化の魔法を戦闘中に使っていいとのこと。
これでようやく多重詠唱のスキルを上げられる。
浄化は基本的にアンデッド以外には効かない非攻撃魔法なので、クールタイムもめちゃくちゃ短いのがいい。
ダンジョン第1層のスケルトンに対して早速ホーリーレイと浄化を使って何体か倒していたら、いきなりスケルトンが喋った!
「これで、ようやく家族の元に帰れる。」
そう言って、スケルトンは微かな光を放ち、やがてその肉体である骨はサラサラと砕け散り、後には何もない空間だけが残った。
しばらく呆然としてしまい、思考が戻ってくると怖くなって一旦ダンジョンの外に出て、花妖精に報告する。
「な、なんかスケルトンが喋ったんだけど、スケルトンって喋るものなの?」
「え、喋ったんですか!?どうでしょう、聞いたことがないですね。
ボス周りなら、そういう設定もあるんじゃないかな。」
「雑魚モンスターだったんだけど…。というか、ゲームに精通してるんじゃなかったのか?」
「う、し、知らないこともありますよ!……何か変わったことでもしたんですか?」
「いや?普通に倒してただけだよ。」
「じゃあ、倒し方とか!いつもと違ったんじゃないですか?」
「うーん…。」
第1層のスケルトンくらいなら今やホーリーレイ1発で倒せるからなぁ。
あ、もしかしたら…。
「浄化で倒したかも。」
「浄化で倒すと特殊なシナリオになるんでしょうか…?」
「さあ?」
「じゃ、検証してきてください!ほら!」
とせき立てられて、またもやダンジョンへ。
まず1体目をホーリーレイで倒してみる。
ふむ、普通だ。
骨は砕けて地面に散乱し、魔石が落ちている。
何度も見てきた光景だ。
2体目を今度は浄化で倒すと、またもやスケルトンが喋った!
「ああ、ああ、サラディ王国万歳!!」
そう言い残して、スケルトンはまたもや消えていった。
後には何も残らない。魔石すらもない。
3体目も浄化で倒す。同じように
「悔しい、悔しい、我が国が何故…。」
と喋って消えていく。
これではっきりした。倒し方によってスケルトンの反応が変わるんだ!
再び外に出て、花妖精に検証結果を話すと、花妖精も興奮している。
「すごいじゃないですか!大発見ですよ!アンデッド全体がそうなのか、このダンジョンだけがそうなのか気になりますね!」
それも気になるが、今最も気になっているのは意味深なスケルトン達の言葉の内容だ。
全員違う話を喋るんだろうか?このゲームだったらありそうだ。
マラソンしていたから魔石はインベントリに山ほど入っている状態なので、今更大して必要ない。
今後は浄化一本で倒して、真相を突き止めてみたい。
というわけでさっきから浄化でとどめを刺しまくっている。
皆一言二言喋った。
キャプテンスケルトンだと長めに喋る。ゴーストも喋った。
一様に魔石を残さないのも面白い。
元々はモンスターじゃなかったという設定なんだろうか。
喋る内容をまとめてみると、内戦なのか他国との争いなのかわからないが、他の軍隊と戦って王都からここまで逃げ延びてきた人達のなれの果てがこのダンジョンらしい。
第4層のボス部屋でカースドゴーストミンストレルと対峙し浄化をかけると、なんとゴーストが歌い出した。
しかも、歌うことで瘴気が増し、奴にバフがかかるという凶悪さ。
だけど歌の内容も気になる、ということで逃げまくりながら分析するが、長い長い叙事詩で、サラディ王国の建国から始まるので、興味深いものの、逃げるのも大変である。
建国当時の苦難や続く歴史を割愛すると、どうやら他国に攻められて王都が陥落したらしい。
そして王女と共に逃げ延びてきた、と。
そこからは恨みつらみのオンパレードになり、ますますバフがかかるので、慌てて浄化を3発入れるとカースドゴーストミンストレル周りの瘴気が消えていった。
「ああ、口惜しや。せめて姫様の無聊を慰めて差し上げられればよいのに、我が竪琴も手元になく、この身はただこの場に縛られるのみとは。」
そう言いながらこちらに魔法を放ってくる。回避しながらふと思いつき、インベントリから竪琴を出してみた。
「そ、それは我が竪琴!寄越せ、寄越せ、寄越せ、寄越せ、ヨコセェェェェェェ!!!!」
竪琴を出すと一気に攻撃パターンが変わった!
これ以上逃げ回るのも難しいので、竪琴をカースドゴーストミンストレルに投げつけつつ、浄化を唱える。
「アアアァァァ、我が竪琴ォォォオオオ!!!」
そう叫びながらミンストレルが竪琴をキャッチする。
キャッチする!?ゴーストだろ!?
驚きながら、もう一発浄化をかけると第4層のボスは静かに消えていった。
竪琴と共に。
実体のないゴーストが竪琴をキャッチ出来たこと、そして竪琴ごと消えていったことに呆気にとられていると、ボス部屋に突然宝箱が現れた。
歩いて行ってそっと宝箱を調べてみる。
ミミックや罠などの仕掛けはないようだ。
宝箱を開けるとそこには楽譜が入っていた。
楽譜に書かれている題名には『我がサラディ』とあるのが読める。
今さっきの出来事が強烈過ぎて、正直楽譜が突然出てきたことの分析も出来ない気持ちだったので、その楽譜をインベントリにしまい、来た道を戻る。
すると驚いたことにゴーストもスケルトンもリポップしておらず、ダンジョンの出口まで1度もモンスターに出会わずに移動出来てしまった。
呆然としたまま、花妖精に今見てきたことを話すと、花妖精もまた驚いているようだった。
「ダンジョンコアを壊していないのに、ダンジョンモンスターがリポップしないなんて初めて聞きました。楽譜が出てきた意味も気になります。
気づいてますか?ダンジョンから外に漏れ出る瘴気の量も少し減っているんですよ。
ここは慎重に行った方がいいかもしれませんね。」
「その方がいいだろうな、この楽譜のことも知りたいし。」
そうして2人でセーフティーエリアまで戻ってくると、花妖精に暫しの別れを言って、ログアウトした。
詠唱短縮の取得ポイントを16から50ポイントに変更しました。
熊殺しのSP の数字を訂正しました。