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準備

結論から言うと、マハンの学資資金は無事調達出来た。

去年より更に範囲を広げて月光草を探して採った上に、一人で採ったので、去年のようにオラスと山分けする必要がなかったからだ。

更に、今年は採取名人の称号もある。

黄金百合も、白鷺草もたっぷり採れたので、自分の装備品を買う余裕もある。

学資資金はユステフ神父の名前で商業ギルドに預けた。

ユステフ神父なら、横領なんかはしないだろう。


商業ギルドは、冒険者ギルドのようにどこでも引き出せるという利点はないが、冒険者ギルドよりも多額のお金を預け入れることが出来るし、ギルド登録も必要ない。


マハンは既に受験を終えて、今は合否の通知を待っているところだ。


いつものようにユニ樹に魔力を譲与していると、いきなりユニ樹が光り出し、著しく成長した。

「は?」

と思わず声に出して驚いていると、UIに通知が届く。

確認すると、

ヤズイのユニ樹に一定量魔力を譲与した為、ヤズイの町レベルが上昇しました。あなたの貢献率は74%です。あなたがMVPとなりました。SPが100ポイント付与されました。

と書いてある。

読めはするが、意味がわからない。

ポン、とまたUIが鳴って、称号が増えた。


ヤズイの住民の友:ヤズイの住民との友好の証。ヤズイの住民の好感度が上がりやすくなる。

SP+10


何がなんだかわからない。

慌てて神父様に相談しようとするが、ユステフ神父は既に仕事に出かけていた。

釈然としないまま、畑仕事や庭仕事のルーティンをこなし、薬師ギルドで夏から教えている、前任のおじいさんの孫と一緒に薬草園の世話をしていると、猫耳婆がやってきた。

「やっぱりアンタが、町を更に安定化させたんだね。ありがとう。」

「なんか、町レベルって出たんだけど、何なんだ?」

「ふぅん、旅人には町レベルって話になってるんだねぇ。町には確かにレベルのようなものがあって、商業が活性化したり、治安がよくなったりすると、町も大きくなっていくのさ。

お前さんの場合は、ユニ樹を成長させたことによる貢献が認められたんだね。

その称号は持っていても損はない称号だよ。」

「貢献、かぁ」

「ハハハ、もっと気張るんだね。旅に出る前に心配材料が減ってよかったじゃないか。」


NPCの好感度が上がるのは悪い話じゃない。

採取に出かけると、クランベリーをひたすら摘んだ。

すると、気配察知・気配遮断がカンストして、魔力感知・魔力遮断を取得出来るようになった。

気配察知・気配遮断はヤズイの外に出かける時はずっと使っているスキルだが、経験値がゆっくりとしか溜まらないスキルだった。ここにきてカンストしたのは嬉しい。

迷わずそれぞれ2ポイントずつ払って取得する。

魔力感知は気配のない、ウィル・オ・ウィスプやゴーストなどに有効らしい。


SPも大量にあることだし、旅に出るにあたって必要そうな耐性スキルも取ることにした。

耐暑・耐寒・魅了耐性・石化耐性・狂化耐性・麻痺耐性・睡眠耐性・沈黙耐性・混乱耐性を1ポイントずつで取る。合計で9ポイント。まあ、まだ228ポイントも残っている。

どれも低レベルのうちは各状態異常にかかってしまうが、かかりにくくなったり、解除が早くなる効果を持つ。

毒耐性と同じく育てばいずれ有用になるスキルだ。


町に戻ると、魔導具屋に寄ってみた。

遮蔽機能のあるマントと、簡易コンロ、コンロ用のくず魔石、テント、コット、寝袋、アイテムバッグを2つと、収納量2倍のアイテムバッグを1つ購入する。

すると店の主人がおまけだよ、と言って折りたたみローチェアをくれた。

これが称号の効果なんだろうか?

貰えるものは有り難く貰っておく。

遮蔽機能のあるマントはより気配遮断を容易にしてくれるだろう。まだ自分の付与術のレベルが低く、店売りの方が効果が高いので買ってみた。

帰ったら付与術で防水・撥水機能をつけよう。防水や撥水のような単純な機能なら自分でもつけられる。


道具屋にも寄り、包丁やまな板・フライパンなどの調理器具と、食器類・カトラリー、折りたたみのローテーブルを2つ買った。

ローテーブルは調理したり、料理を載せたり、調薬したり調合するのに便利そうだ。


旅の準備は着々と始まっている。

錬金術でポーションを大量作製して作り溜めておき、薬湯や傷薬も同じく大量に作った。

遂に上級HPポーションと上級MPポーションを作製出来るようになった。

スタック出来る限界の99個まで作ると、錬金術・調合・錬成スキルと調薬スキルが上がった。

市場で食料品や調味料も買い込んだ。

作り置きした料理もインベントリに突っ込んでおく。

手芸店で針や糸、布も買った。

弓を新調し、円盾と手斧、ピッケルとアイゼン、ツルハシも購入した。

AGI+5の新しい靴も買い、防水・撥水機能をつけた。


マハンの合格も決まった。

そしてなんと奨学生になることが決まった。

その日は皆で豪華な夕飯を食べて合格を祝った。


ある夜、寝かしつけの後に内職(サンダルは夏前に作り終えた)をしていると、ユステフ神父が訪ねてきた。

「ダッサイさん、神聖魔法に触媒が必要なのはご存知でいらっしゃいますか?」

「いえ、知りませんでした。」

「属性魔法は、触媒や杖があった方が効果は高いものの、触媒なしでも使えますからね。ですが、神聖魔法は触媒が必要です。ダッサイさんはお持ちではないでしょう?

ですので、ささやかな贈り物として、このメダイを差し上げたいと思うのです。

ダッサイさんがこの孤児院の為に努力してくださったお礼としては、あまりにもささやかですが、どうぞ受け取ってください。」

そう言って、チェーンにつけられたメダイを渡される。

「このメダイはどうやって…。」

「ふふふ、お金がないはずなのに、そう思うでしょう?

これは私が修業に出る際に師匠からいただいたメダイなのです。

全状態異常をかかりにくくする効果のついたメダイなんですよ。」

「そんな大切なもの、受け取れません!」

「受け取ってください、ダッサイさん。

私は叙任された時にいただいた指輪があります。今はこの指輪のみ身につけているのです。

メダイも、しまわれているより、誰かの役に立つ方が幸せでしょう。」

「で、でも。」

「これは感謝と親愛の印です。どうぞ受け取ってください。」

そう言われると固辞し続けることも出来ない。

「…ありがとうございます、ユステフ神父様。必ず大切にいたします。」

掌の中の重みに自然と涙がこぼれた。

ユステフ神父が抱きしめてくれる。

夜はそうやって更けていった。


旅立ちの前日、子供達がもじもじしながら寄ってきた。

「あのね、あのね、カフィと皆でこれ取ってきたの。」

そう言って、掌にコロン、とトップにバチカンのついた涙型の綺麗な碧い石を置く。

「取ってきた?取ってきたってどこから?」

「子供にしか行けない場所があるんだよ!」

「いや、いや、まさか、ヤズイの外に出たのか!?」

「ダッサイ、違うんだ、そこは安全なんだ。それに皆で行ったんだよ。」

とグリフが弁明する。

「でも、そこに行くまではどうなんだ?危険なんだろう?」

「そ、そうだけど。」

「でも、でも、皆で行ったんだもん!」

「うん、わかった。わかった。嬉しいよ。でもたとえ誰の為でも、黙ってヤズイの外に出ちゃダメだ。わかった?」

「わかりました。これからはしない」

とハルが答える。

「でも聞いて。私達は皆ダッサイに感謝してる。だから、何かお返ししたかったの。」

「…うん。」

涙腺がどうかしてる。

「これは精霊石っていうの!精霊が宿る石なの!」

とリンカが主張する。

「大事にしてね。」とホーヤー。

「…うん、ありがとう。」

涙が流れ落ちるのを止められない。

「僕に可能性をくださって、ありがとうございます。僕は必ず出世して、いつか勉強を続けたい子が現れたら、僕がその子の学費を出せるよう、頑張るよ。」

とマハンが言う。

「うん、うん。」

と泣きながら返事をする。その後は言葉にならなかった。

カフィもヤナハも泣く。

それでも、誰も行かないで、とは言わなかった。そのいじらしさが愛しい。


その姿を見ながらシスターアンナも涙ぐむ。

皆が一通り落ち着いてから、

「これは私のお母さんから教わったレシピ集なの。写しだから、安心してね。私からはこれを差し上げるわ。」

とレシピ集を渡してくれた。

「古い古いレシピも沢山入っているのよ。」

「ありがとうございます、シスターアンナ。」


その後は皆で、珍しく夜遅くまで起きて、色々な話をした。


自室に戻って明日の最終確認をしていると、ふわっと部屋の中に気配が増えた。

びっくりしていると、茶色いスカートに薄茶のエプロン姿の手の大きさくらいの妖精がいた。

家妖精(ブラウニー)だ!

そっと静かにしていると、その妖精はお辞儀をして、そして消えていった。

彼らが姿を見せるのはとても珍しいと聞く。

最後の夜に出てきてくれて、嬉しかった。


称号も貰えた。


家妖精(ブラウニー)の友:家妖精(ブラウニー)との友好の証。家妖精(ブラウニー)の好感度が上がりやすくなる。DEX成長率増加。友好な家妖精(ブラウニー)が増える毎に成長率上昇。

SP+10


最後まで花妖精の称号を貰えなかったけど、それも自分らしい。


翌日、旅立ちの挨拶をしていると、オラスがやって来てくれた。猟師ギルドには既に挨拶しているのに、わざわざやって来てくれるのが嬉しい。

こーゆー時は消えものがいいんだよ、と言いながらサルナシ酒の瓶をくれた。

そして、なんと、猫耳婆も来てくれた。

渡してくれたのは、毒薬のレシピだった。

「必要になる時がくるかもしれないからね。滅多に使っちゃダメだよ。」

と言いながら、そっぽを向く。やっぱりツンデレだ。

でも信頼の証のようで嬉しかった。

花妖精は、最後に種をくれた。

「これは、花妖精の種っていう、特別な種なんだからね、アンタは方々に花を咲かせていって、美を広げるのよ!いいわね!」

と相変わらずの上から目線だったが、最後だと思えば可愛いものだ。


子供達とユステフ神父、シスターアンナ、オラスは町の出口まで着いて来てくれた。

最後に「今までありがとうございました。」とお辞儀をし、手を振って町を出て行く。


なんだか、正しい別れ方をしているようで、涙が出てきた。

現実でもこんな美しい別れはしたことがなかった。

子供達は見えなくなるまで手を振ってくれていた。


SP の数字を訂正しました。

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― 新着の感想 ―
この作品は俺をどれだけ泣かせるんや...
[一言] 丁寧につくられていたためかVR系ではじめてうるうるしました。
[良い点] 子供たちも寂しいのに引き止めないのがまたいいですね。 [一言] 別れがあれば出会いがある 主人公がどんな方々と縁結ぶのか楽しみにしてます
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