物語の行方
レアボスを引き寄せるトリガーをひいた覚えたはないのだが、間違いなくレアボス表記だ。
しかもHPバーが3本もある!
慌てて中級MPポーションと低級EPポーションを続け様に飲み、臨戦態勢に入る。
敵は上空にいる。どう戦おうか。
いきなりビックイーグルから風の魔法が放たれる。
ストーンウォールで防いだ後、ウォーターアローとストーンアローでやり返す。
と、次は急降下攻撃がやってきた。
すんでのところで躱したが、カウンターを行う暇もなく敵は上空へUターンしていく。
時折爪での攻撃が挟み込まれる。
躱したつもりでも浅い攻撃が入り、ダメージを負ってしまう。
素早く空中を動き回るので弓が当たるかわからないが、こうなったら弓と魔法でとことんやってやろうじゃないか。
躱す、弓で狙って射る、魔法を放つ、攻撃をくらう、回復する、また躱す。
その繰り返しだが、じりじりと相手のHPを削っていく。
大分攻撃パターンにも慣れてきて躱せるようになってきたけど、かっこいい回避ではなく、無様に転がるとか這いつくばるとかしか出来ない。
弓を射る数回に1回、矢が当たり、相手がもがき苦しんでいるところに威力を高めた魔法を2発打ち込むと、一気にHPが減っていく。
弓が弱点らしい。
相手は風属性のようなので風魔法は使えないのが残念だ。
時間をかけながら、ようやくビックイーグルのHPバーを1本削りきると、ダウンが取れた。
すかさず走り寄り、斧に換装して鷹の脚の1つを切断し、ファイヤーとファイヤーアローを至近距離で叩き込む。
すると火に包まれたビックイーグルは闇雲に転げ回りながら火を消そうともがく。
距離を取って矢を射込むと激しくのたうちまわるが、それでも火が消えると、また上空へと戻っていく。
鷹の物理攻撃のキレが増してきた。急降下のスピードが更に早くなる。
目つきに憎悪が混じり、殺意を感じられる。
羽が焼け焦げているので、魔法攻撃の威力は低くなった。
しかし、急降下攻撃をくらってしまうと、なんとHPを1まで減らされた!
大慌てで中級HPポーションを自分にかける。
お互い大分消耗していたが、諦めるつもりがないのが相手の目からわかる。
ついにビックイーグルのHPバーが1本になり、鳥の周囲に竜巻が発生する。
ひたすら円を描くように逃げ回り、なんとか竜巻をやり過ごすことが出来た。
また相手がダウンしたので、弓から斧に持ち替え、もう片方の脚も切断する。これで爪攻撃は出来まい。
再び火魔法を2発打ち込むと、大暴れしだしたので急いで距離を取る。
逃げながらストーンアローとファイヤーアローを連発すると、火を消し去った後も鷹はもう飛び立てないようだった。
暴れる巨体を躱しながら槍で鷹の喉元を突き刺し、剣鉈で斬り、ストーンアローを放ち、矢を射込むと、ついにビックイーグルは動かなくなった。
慌てて時間を確認すると昼過ぎになっている。急いでビックイーグルの死骸を回収し、コボルト村へと急ぐ。
コボルト村に辿り着くと、門番が
「フン、約束ヲ違エタノカト思ッタゾ。」
と言いながら村長の家らしきところまで案内してくれた。
立派な家に入ると、村長が座って待っていた。
「遅カッタデハナイカ。」
「ヤハリコボルトノ方々ニオ渡シスルモノデスカラ、確カナ物デハナイトイケマセン。
時間ガ必要デシタノデ、遅クナッテシマイマシタ。」
「フム、シテソナタ、大分消耗シテイルヨウダガ、何ガアッタノダ?」
「ハッ、ビックイーグルト戦ッテマイリマシタ。」
「ナニ、ビックイーグルダト!?証拠ヲ見セテミロ。」
仕方なく広場に場所を移し、インベントリからビックイーグルを出すと、周囲から感心したような声が漏れる。
「ホウ、オヌシ、ヤルデハナイカ。」
「ソシテ、コレガ献上品デゴザイマス。ドウゾオ収メクダサイ。」
そう言って水晶を取り出すと、周りのコボルト達の目つきが変わったのが肌でわかった。
「コ、コレハ、幻ノ水晶デハナイカ!!!」
「ハ、左様デゴザイマス。」
震える手で村長が水晶を受け取る。
おおー、というどよめきが起こった。
「ナント、ナントイウコトダ。
気高イ戦士、ダッサイヨ。感謝イタス。
コノ村ノ大切ナ宝トシテ大事ニシ、代々オヌシノコトヲ讃エヨウ。」
すると男性のコボルトが近づいてきた。
「俺ガ、アルバノ父親ダ。
ダッサイ殿、貴方ノ言葉ヲ受ケ入レテ、ゴブリントノ調停ヲ進メヨウ。
ツイテハ先ズ、娘ニ会イタイノダガ。」
コボルトの娘、アルバさんの父親だったらしい。
自分が彼らの意見を聞いて確認してから父親を連れて行く段取りにし、先ずは武装解除をしてコボルトと和平を結んで欲しいことを伝えると、村長も父親も納得してくれた。
5日以内にまた訪れることを約束して別れ、今度はゴブリンの集落へ急ぐ。
ゴブリンの長に今日の報告をし、明日若者の父親と一緒に彼らの元へ出かける約束をし、その日はヤズイに戻り、ギルドマスターにも報告した。
夜、大分疲れながらも、明日から通常通りに子供達との時間を取れるようになったとユステフ神父とシスターアンナに話し、自室へ戻ってログアウトする。
再びログインし、ステータスを確認すると、Lv.12になっていた。これでSP2ポイントが入ってくる。
称号も2つ獲得していた。
鷹殺し:鷹のボスモンスターを殺した証。鷹型のモンスターにクリティカルが発生しやすくなる。
SP+10
ソロ討伐特典 SP+5
コボルトの友:コボルトとの友好の証。コボルトの好感度が上がりやすくなる。AGI成長率増加。友好なコボルトの数が増える毎に成長率上昇。
SP+10
スキルも、根性というスキルが生えていた。
これは致命的な一撃を受けてもHP1を残して生き残るスキルだ。
発動にはLUK値が関係する。
但し、HPが1の場合に攻撃を受けると効果を発揮しない。
きっとビックイーグルの急降下攻撃を受けた際に発動して覚えたんだろう。
戦闘系のスキルは、回数をこなして習得する以外に、火事場の馬鹿力で習得する場合がある。今回はまさにこれだったのだろう。
そういえばLUK上昇(微)のスキルレベルも上がっていた。
革靴も10足作り終わった。すべての靴に防水機能をつけ、服や靴下・革足袋に耐久性向上の機能をつけていたら、付与術のレベルも上がった。
今度はサンダルも作りたい。
次の日、いつも通りに戻った薬師ギルドでの薬草の選定を済ますと、ゴブリンの集落を訪れた。
ヤヤヤが既に待っていて、一緒に若者たちの住処に向かった。
そして、ゴブリンの若者、ウガと、コボルトの娘、アルバの2人に出会った。
2人は、人間の存在に驚きながらも招き入れてくれた。
ヤヤヤが怪我を負って、ゴブリンとコボルトが一触即発状態になったこと、しかしこうして人間が関わり、和平交渉が上手くいっていること、アルバの父親が会いたがっていることを話す。
すると2人はコボルトがこの場所を訪れることを了承してくれた。
翌日の午後、この場で和平交渉を行う約束をし、ゴブリン集落の長にも説明する。
明日、長も出かけることになった。
その足で1人だけでコボルト村へ行き、アルバの父親と村長に今日の結果を話す。
明日はアルバの両親と村長も若者2人の住処に赴く予定だ。
翌日、ルーティンを済ませてから、市場で鶏肉と牛肉を買い込んで目的地へ急ぐ。
少し早めに着いて、ゴブリンとコボルトを待つ。
程なくしてウガの両親、ゴブリン集落の長、アルバの両親、コボルト村村長がやってきた。
ヤヤヤの妻とウガが、アルバの両親とアルバがそれぞれ抱き合い、再会を喜ぶ。
それぞれを代表して長と村長が結婚の祝辞を述べ、ウガとアルバが誓いを立て、その場で和平も結ばれた。
用意してきた肉を取り出して調理すると皆が喜んで食べてくれた。
調理道具は借りたから、大したものは作ってないけど。
若い2人は交易という名の物々交換を兼ねて、定期的にゴブリン集落とコボルト村を訪れることになった。
絶対アルバの父親は孫でも生まれたらデレデレになるタイプだと思うので、是非2人には幸せに向かって頑張って欲しい。
沢山礼を言われながら皆と別れ、孤児院に戻る。
夜は地図と調査報告書を作成した。
明くる日、採取を早めに切り上げて、ギルドマスターに会うと、地図と調査報告書を提出する。
へペルさんは、これだけ詳細な資料があれば今は特に行動を起こす必要はない、と判断したようだった。
もう少し通って、山越えをしない約束を取り付けるつもりだと言うと喜ばれた。
ビックイーグルの死骸を冒険者ギルドの解体所で取り出すと、丸焦げの鷹を見て、親方が盛大にため息をついた。
どうやらビックイーグルは羽が高値で売れるらしい。
最高級の矢羽なんだとか。
焦げてしまったものは仕方ない。
ビックイーグルの肉は美味しくないそうなので、そのままスライムの餌になった。
その週末は、今までの埋め合わせにどこへも行かず、孤児院で一日中子供達と過ごした。
磨いた蛍石をあげると皆が大興奮し、マハンまでもが目をキラキラさせていた。
石っていいよね。
自分もフローライトの魅力にハマってしまい、リアルで100均のものを買ってしまった。
磨いていない蛍石はまだまだインベントリに保管してある。今後のお楽しみだ。
いつかこのフローライトでアクセサリーを作りたかったので、アクセサリー作製のスキルも1ポイントで取ってしまった。
先ずは木材や革で女の子達のヘアアクセサリーでも作ってみようかと思う。
立体刺繍でアクセサリーを作るのもいい。
全部に付与術でステータスアップをつけたい。LUK+2か、LUK+1とVIT+1を組み合わせるべきか迷う。
こうして夜の内職メニューに、サンダル作製とヘアアクセサリー作製が加わり、夏までに終わらせようと気合いを入れるのだった。