光りものを探して
しばらく庭仕事や畑仕事、春の採取で忙しくしていると、スキルが4つも進化可能になった。
MP上昇・MP自然回復・EP上昇・EP自然回復がそれぞれ(微)から(小)になった。払ったコストは合計16SP。
そして、栽培がLv.10になった!
栽培する植物の質もよくなり、雑草が生えにくくなったし、虫の被害もそれほど出ないし、病気に罹りにくくなり、いいことづくめだ。
栽培がカンストしたことで、あるスキルが取得可能になった。
その名も成長促進スキル。必要スキルポイントは、20ポイント。
重いコストだが、すごく魅力的なスキルだ。
特にユニ樹育成や園芸、野菜・花卉・果樹栽培をしている今、かなり欲しいスキルである。
うん、取りました。
取ってしまった。
まあ、まだSPは残り113ポイントもあるし。
次の日曜日、休みを返上して、ゴブリンの長から教えて貰った大体の位置を頼りにコボルト村へ行ってみた。
最悪死に戻りしてもいいように、大事なアイテムは自室に置いてきて、お金も冒険者ギルドに預けてきた。
冒険者ギルドに預けたお金は、デスペナルティで没収されないところが良く出来ている。
自宅や自室、クランハウスの倉庫などに置いてある、携帯してないアイテムも、ロストしない仕様だ。
朝図書館に寄って、コボルトについての書籍も大まかに読んできた。
非常に名誉を重んじる文化らしい。
コボルトの好物は、肉と骨、それから光るもの、ということだった。
キラキラしたものが好きらしい。
ある作者は、水晶を渡したら仲良くなれたと筆述していた。
とりあえず、肉を持っていくか…?
犬っぽいのが好きなものとなると牛肉だろうかと思って持参してきたが、ゴブリンの時のように上手くいくだろうか。
気配察知に反応が引っかかり、次第にコボルト村が見えてくる。
ゴブリンの集落よりも立派な建築物が建っていた。
武器をしまい、牛肉を手に提げて歩いていく。
門番らしき2人組のコボルトに近づくと、
「何者ダ!」
と槍を向けられた。
コボルト語はゴブリン語よりも洗練されているようだ。
意味がわかりやすい。
「私ハ、ダッサイト言ウ。人間ダ。」
「人間ダト!?」
2人組の1人が村の中へ走っていき、もう1人はまだこちらに槍の穂先を向けて警戒の表情をしている。
コボルトは獣人と違って顔から四肢まで毛に覆われていて、犬が二足歩行しているような感じである。
但し、後ろ足で立っているというよりは、人間のように直線的な足で、前足も前足というよりは腕、という印象の体つきをしている。
もっと可愛いやつを想像していたが、ドーベルマン風の強面のコボルトは、迫力満点だ。
仲間を連れてきた門番の片割れが戻ってくると、「ツイテ来イ!」とそのまま連行されていった。
連行された先は村の中央の広場のようで、そこに何匹かのコボルト達と、明らかに年齢を重ねた、しかし矍鑠たるコボルトが待っていた。
「ワシガ村長ダ。オヌシガ人間ダト?
フーム、人間ニハ今マデ会ッタコトガナカッタガ、聞イタコトハアルゾ。
何用デキタ?」
「観光シニ。」
これは嘘ではない。
「ソレカラ、調停シニキタ。」
「調停ダト?」
「ソウ、貴方ガタコボルトト、ゴブリンノ仲ヲ調停シタイ。」
正直に、森を歩いていたらたまたまゴブリンの集落を見つけたこと、ゴブリンから事情を聞いたこと、集落の長から調停を頼まれたことを話した。
「ゴブリンノ差シ金カ!?」
「怪シイ奴!」
「何ガ調停ダ!」
と周囲のコボルトが口々に喚く。
それを村長が手で制し、口を開く。
「オマエノコトハ、マダ信用出来ン。ココハ誉レ高イコボルト村ダ。我ガ戦士ニ勝テタラ話ヲ聞イテヤロウ。」
すると周りがワッと沸き、誰それが勝負する、いや俺だ、と盛り上がる。
ええー、脳筋だ。
「タ、戦ウノハチョット…。」
「フン、ソウカ。デハ、何カ素晴ラシキ宝物デ誠意ヲ示セ。
オマエガ献上品ヲ持ッテクルマデハ、ゴブリンヲ攻メズニ停戦シテヤル。」
「ホ、本当デスカ!?」
「二言ハナイ!但シ待ツノハ1週間ダ。」
「ワカリマシタ。ソレデハ何カ、オ持チイタシマス。
今日ノトコロハ、コチラノ肉ヲ、オ収メクダサイ。」
肉を村長に渡すと、
「毒ノ匂イハシナイヨウダナ。有難クイタダコウ。」
と受け取ってくれた。
そのまま又、衛士にエスコートされ、村の門までやって来ると、
「変ナ真似ハスルナヨ。殺スカラナ。」
と脅され解放された。
はー、緊張した。
気分転換に沢山採取しながら帰った。
今回は夕方までには帰れたので、シスターアンナからのお咎めはなかった。
夜、神父様とシスターに、これから1週間ほど帰宅が遅くなること、夕食の手伝いが出来ないかもしれないことを伝えると、理由を説明していないにも関わらず、無理はしないように、と温かく受け入れられてしまった。
自室に戻り、どうしようかと考える。
なんだか今度はかぐや姫みたいなことになってきてしまった。
安請け合いしてしまったが、コボルトが気に入るような逸品を贈ることが出来るのか、心配だ。
キラキラしたものねぇ。
水晶は後で考えるとして、自分が今出来るのは錬金術によるガラス細工である。
最初ガラスシェードのランプやトルコランプのような、光源で光るものはどうだろうと思ったが、徒にコボルトに魔導具を渡してもいいものかわからなかったので、止めにした。
じゃあ切子細工はどうだろう。
鉛ガラスを作るところからだが、発想は悪くなさそうだ。
だがそもそもダイヤモンドがない。
結局あまり思い付かなかった。
収納スキル上げの為にも自室のアイテムをインベントリに入れ直し、明日は冒険者ギルドに行って情報を集めよう、と計画を練る。
その日は各ポーションを大量に作製し、錬金術のスキル経験値上げをして終わった。
翌日、薬師ギルドに、これから1週間ほど薬草園の手入れはするが、薬草の選定は行わなくていいか相談しに行った。
1週間だけなら良い、とのことだった。
樹上茸や白鷺草の採取数が少なくなることも話しておく。
猫耳婆は、探るような目つきをしながら、「わかったよ」と了承してくれた。
その足で冒険者ギルドに行き、お金を一部おろしてから、ギルドマスターに会いたい、と取次を頼む。
程なくしてへペルさんの執務室に通された。
これまでの経緯を説明し、ゴブリンとコボルトの緊張状態について話す。
そして何故かコボルトの尊ぶ物を贈らないといけない状況になってしまったことも。
へペルさんは腕を組んで、うーん、と唸ると、眉間に皺を寄せている。
だが、このまま自分が調停役を担うことを承認してくれた。
水晶を採集出来るところに心当たりはあるか尋ねると、以前清流草を採取した川をもっと遡上していくと、山脈に突き当たるという。
そこら辺りは花崗岩が露出しているので、水晶が採れるんじゃないかという話だった。
更に、大昔にある男が、人が入れるほどの大きさの水晶の晶洞を見つけたという話があるんだそうだ。
ただ、男は地図スキルを持っていなかった為、二度とその場所を探せなかったという。
言い伝えのようなものだが、水晶と関連した話ではあり、やはり晶洞もその山脈辺りだったそうから、蓋然性はありそうだ。
町から離れている為、特に採掘権などは設定されていないらしい。
後は鉱山というと、大分遠方になってしまい、1週間で往復するのは現実的ではないと言われてしまった。
山脈付近の詳細な地図はないが、おおまかな位置関係がわかる広域の地図を見せてもらえた。
情報提供に礼を言って冒険者ギルドを去り、武器屋に入って工具を探す。
目当てのタガネを数種類とハンマーを購入し、図書館に寄って水晶の採掘方法についてや岩石や鉱物の本、古い言い伝えの説話集を読み漁る。
採掘と鉱石加工のスキルも1ポイントずつで取得した。
その日は出発しないことにして、夜は薬湯を作って過ごした。
次の日、山脈を目指して出発する。
今日は水晶発見が目的なので、途中で採取可能なアイテムを見つけても脇目も振らずに歩き続けることにした。
とうとう山脈に辿り着いたが、ここからが問題である。
もうやけくそになって木の枝を拾い、どちらに倒れるかで行き先を決めることにした。
鑑定で観察すると、確かにこの山脈の側面には花崗岩の露頭があった。
水晶探し1日目はマッピングをしておきたい為、採掘は後回しにして山脈の片方の面をしらみつぶしに歩く。
夕方まで歩き続けて、夜になると夜目を使って孤児院に戻った。
2日目は山越えして、今度は山脈の裏側を歩き回った。
3日目は花崗岩をタガネで割ったりしながら水晶を探す。小さな結晶は見つかったりした。
4日目、山脈に向かって歩いていると、白い蛇が通り過ぎるのを見た。
蛇は幸運の象徴とも言うので、心の中で蛇を拝んでおく。
山を登りながらなんとなく違和感を感じて、タガネでパカッと岩を開いてみると、晶洞が見つかった!
それと同時に発見スキルのレベルが3から4に上がった。
しかもその晶洞は当たりだった。沢山の蛍石と、大きな水晶の結晶が晶出していた。
緊張しながらタガネとハンマーで水晶を採掘していく。
いくらスキルアシストがあっても、失敗は許されないのだ、否が応でも緊張してしまう。
鉱石加工の練習用に蛍石も大量に採った。
問題は帰りだ。
絶対に死んでアイテムロストしたくない。
フラグになりませんように。
気配察知と気配遮断を掛けてモンスターを迂回しながら家路を急ぐ。
なんとかヤズイの町まで辿り着くと、どっと疲れが出てきた。
孤児院に戻り、ログアウトする。
あとゲーム内で2日で、水晶を研磨出来るのか心もとない。
それでもやらなくちゃいけない。
なんで巻き込まれただけなのに、こんな苦労をしているのかはよくわからないけれど。
1日の仕事を終え再びログインすると、錬金術の合成を5ポイントで取って、先ずはサンドペーパーを作製する。粗さを色々変えて作ってみた。
生活魔法で洗浄を覚えたので、魔法で石の汚れを落とした。
それからはただひたすらに蛍石を磨き続けた。
朝を迎えルーティンをこなし、手が空くとまた石を磨き続ける。
鉱石加工がLv.2に上がったので、いよいよ水晶を研磨することにする。
ただただ無心で磨くのみだ。
午後から翌朝まで磨き続けて、やっと完成した。
今日はもう期限の最終日だ。
日曜日なので、朝から出発した。
そして今最も死にたくない!と緊張している。
そういう時に限ってモンスターが現れるんだよなぁ。
眼前には、ビッグイーグルとの表示がある。
恐ろしいことに、レアボスだった。
SPの数字を訂正しました。