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異文化交流

怪しげな挨拶をしたところ、

「ナンカヘンナイキモノダナ。デモオレタチノコトバハナス…。」

と訝しがられてしまった。


どうやらここのゴブリン達は人間を見たことがないらしい。

そりゃこんな秘境みたいな場所だもんな。


「ワタシハ、ニンゲンノ、ダッサイトイウモノダ。クスリヲモッテキタ。コレヲノムトナオル。」

と告げると、信用出来ないと警戒する者や威嚇する者が囲んできた。

だが、怪我人の奥さんが駆け寄る方が早かった。


「ナオル?ナオルデスッテ?コレヲノマセルノネ?」

「マズハ、キズニコレヲカケルトイイ。ソレカラ、コレラヲゼンブノマセロ。」

と中級HPポーション2本と増血剤と化膿止めを渡す。


すぐさま奥さんは横になっているゴブリンの元へ戻り、HPポーションを振りかけた。

すると血は止まり、明らかにゴブリンの顔色が良くなる。

更にHPポーションを飲ませると、傷口が盛り上がって塞がっていく。

増血剤と化膿止めも飲ませると、効果はすぐ現れない薬だが、かなり状態は安定したように見えるようになった。


それを見て、今度は奥さんが歓喜の涙を流している。

「アリガトウ、ホントウニアリガトウ。」

と言って手を握られた。


用は済んだので帰ろうと集落を後にすると、先ほど誰何してきたゴブリンが走ってきて、尋ねられた。

「マタクルカ?」


少し考えて、「マタクル。」と言って家路についた。


ヤズイに戻って冒険者ギルドに寄ったが、今日のことは現時点では報告しないことにした。

まだゴブリンの生態というか暮らしぶりも、何故怪我をしていたのかもわからないし、ヤズイからの距離が離れている為余裕があるからだ。


次の日曜日、図書館でゴブリンについて調べてみた。

ちゃんとゴブリンについて書かれた本は存在していた。ゴブリン達のオーラルヒストリーを取材したものや、ゴブリンの生態、倒し方、言語について、等々。

結構ゴブリンってポピュラーな存在だったんだな。ヤズイに全然いないから気にしてなかったけど。


ゴブリンは集団で暮らしており、それぞれの集団は縄張りを持っているとのこと。

集団の縄張り同士が重なるような密な状態だと気性が荒くなるが、広い土地で余裕を持って生活していると穏やかで友好的なゴブリンになるらしい。生活圏が人間の土地と接していると争いが多くなり、人に襲いかかりやすくなるそうだ。

研究者達はゴブリンを有害な存在と見るか、友好的な知的生命体と見るかで意見が分かれているようだった。


そしてどうやらゴブリンの文化では食事と歌が重要であるらしい。

好きな食べ物は、肉・魚と書いてあった。


次の日、午前中のタスクを終わらせると、またゴブリンの集落に行ってみることにした。

市場で鶏肉と川魚を買って出かける。

ほぼノープランで出発してしまったが、会ってどうするつもりもなかった。ただ興味がある、それだけだ。

友好的に話せるなら、山の向こうに行かないよう約束を取り付けようかな、くらいは考えている。


山を縦断してまで移動すると、健脚スキルが凄い勢いで成長していき、遂にLv.10に到達した。

スキルレベルは10までなので、カンストしたわけだ。

徒歩の移動スピードはめちゃくちゃ速くなったし、オープンワールドでも移動がそんなに苦にならなくなった。

登山家や森歩きの達人の称号もあるので、山での移動は平地での移動に比べてかなり速い。

それでも山越えは時間がかかるが、達成感が得られるので嫌いじゃない。

じっくり景色を楽しみたい人にはストライダーを勧めたい。

他の職業のプレイヤーはダッシュや騎乗のスキル、あるいは乗り物やファストトラベルを活用しているようだが、ストライダーなら徒歩1本だろう。騎乗にも憧れるけど。


健脚スキルがLv.10になると、ストライダーの固有スキルが増えた。

これはDEX上昇と違って、進化して上書きされるタイプでなく、健脚スキルとは別に使えるようになった。

スキルツリーが解放された感じかな。

新しく増えたスキルは適応、というスキルだ。


普段プレイヤーはセーフティーエリアでログアウトするように推奨されていて、アバターが消えるのではなく、ゲーム上でアバターが残る仕組みになっているので、宿屋やNPCの民家、自宅(賃貸や購入で自宅を所有出来るハウジングシステムがある!)で安全にログアウトする人が多い。道端だと盗難にも遭うし。

都市・町・村などのエリア以外を旅している時はマップに存在するセーフティーエリアでログアウトするか、結界石という1パーティー分がキャンプ・ビバークするに十分な土地を一時的に簡易セーフティーエリアにするアイテムを利用する。

但し結界石で作れる簡易セーフティーエリアは再ログインすると効果が切れてしまう。

しかも1つの結界石でセーフティーエリアを作ることが出来る回数も制限されていて、大体3〜7回で壊れてなくなってしまうっぽい。

勿論街道に宿場町はあるが、間隔が空いている場合は野宿するのも珍しくないらしい。

そんな時に活躍するのが結界石であり、これはプレイヤー・NPCに限らず使用出来るアイテムで、旅をする場合は複数個持つのが常識のようだ。


ストライダーの適応は、なんとこの結界石と同様の効果を得られるのだ。

マップ上のどこでも安全にログアウト出来るようになり、宿屋代や結界石代を節約出来る、ストライダーしか使えないスキルなのだ。

これもストライダーを選んだ理由の1つだったりする。

ちなみに適応にはスキルレベルが設定されていない。


秋になる前にこのスキルを獲得出来てよかった。

これでほぼオートセーブのゲームのような遊び方が出来るし、旅する際に安心だ。


新しいスキルにわくわくしながら歩いていると、集落付近に着いた。

敵意がないことを示すように、武器はしまい、インベントリから葉っぱに包まれた肉と魚のお土産を取り出す。

深呼吸をしてからゆっくり集落に近づいていくと、ゴブリンの姿が見えてきた。

どうやら歩哨の役割を担っているゴブリンらしい。

前回観察していた時は、そういったゴブリンは見ていなかった。

何かあったのだろうか?


警戒しながらもこちらを攻撃する様子を見せないゴブリンに歩み寄っていき、お土産を掲げて見せると、

「ヨクキタナ。」

と歓迎の言葉を貰えた。

「ミヤゲヲモッテキタ。」

と告げると、ホホホホーイ!と大声を上げ、それを合図にゴブリン達が集まってくる。

「ナンダナンダ。」

「ア、コノマエノダッサイトカイウヤツ。」

「ミヤゲ?ナンノミヤゲダ。」

「クイモノダ、クイモノノニオイガスル。」


わらわらと囲まれていると、怪我人の奥さんがやってきた。

「アナタ、アリガトウ。アノヒト、ゲンキニナッテキタ。オレイガシタイ。キテ。」

と案内されついていくと、ボロ小屋の中に通された。

怪我をしていたゴブリンは、座れるようになるまで回復していたようだった。

「ダッサイ、アリガトウ。セワニナッタ。カンシャスル。」

「コレハ、ゲンキニナルクスリダ、ノムトイイ。」

一旦お土産をしまい、薬湯を出して渡すと、素直に受け取って飲んでくれた。

「ヘンナアジスル。」

「クスリダカラ。」

「アリガトウ。」


そこへ別のゴブリンが入ってきて、

「ダッサイ、オサガヨンデル。コイ」

と手招きしてきた。

オサ?が何かよくわからないが、呼ばれているようなので、怪我人に目顔で挨拶し、呼びに来たゴブリンの後に続く。

すると、さっきの小屋よりもちょっと大きな小屋に連れて行かれた。

小屋に入ると、子供でない限りゴブリンの年齢はわからないものの、皮膚に刻まれた皺から年嵩と思われるゴブリンが座って待っていた。

どうやらオサとはこの集落の長だったらしい。

「ヨクキタナ。レイヲイウ。

ヨク、ヤヤヤヲスクッテクレタ。」

怪我人の名前はヤヤヤというようだ。

「コレハ、ミヤゲダ。」

と肉と魚を取り出すと、長は嬉しそうにした。

さっき呼びに来たゴブリンが土産を受け取り、外に出て行く。


「ヤヤヤハ、ドウシテケガヲシタノカ?」

と尋ねると原因を話してくれた。

長い話を要約すると、ゴブリンとコボルトは長年敵対しているが、最近になってゴブリンの若者とコボルトの娘が恋に落ちた。

ゴブリン語とコボルト語はかなり共通しているらしく、意思疎通が図れるんだそうだ。

親に反対された2人は駆け落ちし、姿を消してしまったが、ややあって2人が生活している場所をゴブリンが見つけた。

その貧しい暮らしぶりを可哀想に思い、発見したゴブリンは若者の父親に話した。

父親が2人の元を訪れ、改めて彼らの決心を聞き、遂に婚約を認め、2人にゴブリンの集落に来るよう誘った。

だが2人はコボルトの娘の父親に所在がバレるのを恐れ、集落には行かないと話したそうだ。

哀れに思った若者の父親は、コボルトの集落に説得しに行ったらしい。

そこで激昂したコボルトの娘の父親に切りつけられ、怪我をしたというわけだ。

あれからゴブリンとコボルトは一触即発状態だそうだ。

それで歩哨を立てているとのこと。


うーん、ロミオとジュリエットかよ。


長い話が終わると、広場に案内され、ゴブリン達がおそらく全員で焚き火を囲んでいた。

その輪の中に加わるよう手で示され腰を下ろすと、お土産の肉と魚を調理したであろう料理が配られた。

簡単な焼き料理だったが、結構イケる。


昼間から宴会になり、場が盛り上がると、遂には全員で歌い出した。

サビっぽいのが何度も繰り返されるので、歌詞を覚えてしまい、途中から一緒に歌うと大盛り上がりになった。

初めて歌唱スキルが仕事したかもしれない。

やがて宴も終わり、ゴブリン達は三々五々散っていった。


食器を片付けて貰っていると、長が話があると言ってきた。

なんでも、コボルトとの緊張状態を解決して欲しいらしい。

いざ戦闘となると、コボルトの方が比較的強いので心配なようだ。

「オマエ、ゴブリンチガウ。コボルト、ハナシスルカモ。」

うううん、安請け合い出来ないなぁ。

でもゴブリンやコボルトが武装状態でいるのは人間側としても望ましくない。

戦いがエスカレートしてどちらかが勝ち、負けた方が山を越えて縄張りを移動しないとも限らない。

「シカタナイ。ハナシダケスル。ドウナルカハ、ワカラナイ。」

「ソレデイイ。タメシテクレ。」


長に別れの挨拶をして集落を出て急いで帰ったが、夕食の準備には間に合ったものの、子供達の帰宅時間には間に合わなかった。

シスターアンナに「心配したんですからね!」と怒られ、ラキにはニヤニヤと笑われ、カフィにはべったりくっつかれた。


寝かしつけの後、部屋に戻ってUIの通知を確認すると、なんと称号が増えていた。


ゴブリンの友:ゴブリンとの友好の証。ゴブリンの好感度が上がりやすくなる。VITの成長率増加。友好なゴブリンの数が増える毎に成長率上昇。

SP+10


……友達認定早過ぎないか?

ていうか、もし他の場所でゴブリンに襲いかかられたら戦闘も辞さないのだが、なんかやりづらくなるな。

VITとSPは普通に嬉しい。


なんか変なことに巻き込まれてきたぞ。

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