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大忙しの春

教会・孤児院の奥には裏庭がある。

庭というか、荒れ地だが。

今までまったく裏庭とは認識していなかったのだが、春の植えつけについて神父様と話していた際にあれが裏庭だと知った。ジャングルみたいになってるけど。


いくらでも開墾していいとのことだったので、果樹園を作るつもりでいる。これなら水やりなどは気にしなくていいし。

魔導具は便利だけど、魔石というランニングコストがかかる。幸い、教会や孤児院には特別複雑な魔導具はないのでそこまで大きくない魔石で済んでいるが、将来の為にも導入する魔導具は最小限にしておきたい。

もし魔導具を入れるなら、シスターアンナの為にも乾燥機とかにしたいし。

魔石は冒険者ギルドが定期的に寄付してくれている。


少ない人数で回せるようにと果樹栽培を選んだが、当然難しいだろう。ホーヤーがいればなんとかなるかなとはと思うけど。

でももともと荒れ地だったんだ。たとえ全滅しても、初めからなかったと思えばいいだけだ。


まずは荒れ地を開墾すべく、斧の心得と土木を1ポイントずつで取得した。

力もついてきたからか、斧も軽く扱える。木を切り倒し、切り株だけにすると、今度はウィンドで根元を掘り起こし、切り株はインベントリに入れておく。丸太は生活魔法の乾燥をかけてこれまたインベントリに入れておく。インベントリがスタック出来る仕様で本当によかった。

土地を切り拓いた後は、ひたすら耕していく。農機具が欲しくなるが、これも栽培スキル育成の為だと我慢して手作業で行う。

痛覚軽減のフィルターを使用しているので、腰や手の痛みを感じないところがゲームのいいところだ。

果樹園には杏を植えた。摘果の作業が必要になるが、摘んだ姫子は杏酒の為に持ち帰っていいと言ったらオラスとかが釣れそうだ。


孤児院の方の庭にもラズベリーとブラックベリーを植えてみた。これでクランベリーが採れなくなってもジャムには困らないだろう。

ホーヤーには来年以降サッカーが出たら株分けするように教えておいた。


裏庭と孤児院の間に遊ぶためのスペースを広く取ってあるが、教会側の方は殺風景なので、園芸スキルも1ポイントで取ってみた。四阿とかベンチも作りたい。既に図面は引いてある。

夢は広がるが、まだ目の前に広がるのは茶色い景色である。ここから緑溢れる町民憩いの庭を作っていきたいが、道は遠い。


あれだけ冬の間手工芸祭りをしていたので、DEX上昇(微)のスキルがDEX上昇(小)に成長可能になった。迷わず4ポイント払って取得した。初めてスキルが進化したので、地味に嬉しい。

戦闘を殆どしていないので、HP上昇MP上昇HP自然回復MP自然回復は全然伸びていないのだが(強いて言うならMP系の方は錬金術をやると育つので、HP系よりも伸びている)、STR上昇は狩猟と開墾でちょっと育った。VIT上昇も開墾で経験値を稼げた。

AGI上昇は戦闘だけでなく移動でも微量だがスキル経験値は溜まるので、これもゆっくりではあるが徐々に育ってきている。

DEX上昇の次に伸びがいいのはEP上昇とEP自然回復の2つだ。インしている間は何かしらの作業をやっていてEP消費が多い上に昼飯を抜いているので、この2つのスキルは日々育っている。開墾してた時期はびっくりするくらい伸びた。疲れれば疲れるほど伸びるスキル。そのうちDEX上昇の成長スピードを抜きそう。

もともと体力の多い職業だというのに、どんどんEP特化型になってきている。


同じく開墾作業で身体操作と体幹が伸びた。土木作業で戦闘に役立つスキルが育つのは嬉しい。

最終的に剣がメインウェポンになるのか、弓がなるのか、槍がなるのか、斧がなるのか、さっぱりわからなくなってきたが、身体操作と体幹はどの武器にも応用が利くのがいい。

心得系の習熟度は斧<剣<盾<槍<弓の順に高くなっているが、ソロなので弓がすんなりメインウェポンになる気はしない。


猟期も過ぎてしまったけれど、オラスとは時折会う。杏の摘果の話をしたら、杏酒に大分興味を示していた。チョロい。


薬師ギルドでは、鉢上げしておいた薬草を土に植え替える作業が始まった。

それとともに初春の野草の採取依頼も追加された。

今回は森ではなく川沿いの平原が生育地域なので、冒険者ギルドで地図を読み込んでからいつもとは違う門から出かけていった。


ヤズイから遠い山々を横断したり崖を登ったりしていたのに、ヤズイ近辺のこっち側の草原に出てくるのは初めてなので、なんだか新鮮だ。

辺りはまだ残雪の白と茶色い景色だが、川沿いにはセリも生え、フキノトウも生えているのを見ると、春が近づいているのを感じる。フキノトウは大好きなので全力で採取した。フキノトウ味噌を作りたい。


ヤズイはヨーロッパ風の街並みだが、米がないわけじゃない。というか、リアルのヨーロッパでもイタリアとかスペインとか普通にお米食べるしそれ以外の地域でもポリッジにしたりして食べたりするしね。

そんなわけで米の供給には困っていない。ここはなんとしても、ごはんのお供に春の野草を採って帰ろう。


薬師ギルドの依頼分以上に採取してヤズイに戻ると、猫耳婆に新しい調薬レシピを教えて貰った。

春の野草は滋養強壮や病の予防になる薬が作れるらしい。

「いい加減調薬セットを買い替えな」

と言われてしまったので、中級調薬セットを買った。いや貯金はしたいんだけども。

猫耳婆にはヤナハの話はしてある。自分がいなくなってもヤナハのサポートをしてくれるよう頼んでおいた。


野草採取もいいが、マハンの為にお金を稼ぐ必要があるので、もっと高額な依頼があるか聞いたところ、この季節は川の上流にある清流草が薬効があるので高値で取引されているとのことだった。

「だけど、上流までの道程でジャイアントスパイダーっていうモンスターがいるんでね。

もし清流草を採りに行くなら毒耐性取って、解毒薬持っていくといいよ。」

とは猫耳婆の言だ。

多分エリアボスだと思うが、グラッジホーンラビットと違って住民に出現場所を認知されているタイプのボスモンスターのようだ。

指名依頼を出して貰うようお願いし、冒険者ギルドの資料室で調べてみると、弱点は火とのことだったので火魔法を5ポイントで、毒耐性を1ポイントで取得した。

毒耐性はレベルが低いうちは毒を防ぐことは無理で、毒ダメージを軽減する効果しかないが、育てていけば有用なスキルになるはず。

これでSPは11ポイントになってしまった。しばらくスキル取得を節約しないと。


今年の冬は、孤児院の子供達の間で風邪が大流行するのは防げた。単発で学校から貰ってくる子はいたけど、風邪薬で早め早めに対処出来たのがよかった。

町民の方もいつもより潤沢に薬を用意出来たので重症にまで悪化するパターンは少なかったと聞く。

肺炎で亡くなった高齢の方はいたそうだ。

それでも圧倒的に死者の数は例年より少ないらしい。

貢献が認められ、薬師ギルドランクが上がり、薬湯のレシピ集を貰った。

レシピ集には色々な病気の治療薬だけでなく、石化耐性や魅了耐性を一定時間付与する耐性薬も載っていた。

しかも耐性薬のすごいところは、同じ耐性薬は重ね掛け出来ないが、別の耐性薬なら重ね掛け出来るところだ。

このゲーム初のバフ手段を手に入れたので、早速解毒薬・予防薬と共に薬湯を片っ端から作ってみたら、調薬スキルはLv.7まで上がった。


状態異常を治す方法は、狂化を解除するのが神聖魔法とポーション、毒と睡眠と麻痺の場合は回復魔法と薬とポーション、その他の状態異常は回復魔法かポーションとなっている。

ヤズイに錬金術師ギルドはないが、図書館の本に各状態異常回復ポーションのレシピが載っていたので、作り方は知っていたもののなかなか成功しない為しばらく放置してたけど、錬金術の調合も頑張らないといけない。

こちらは調薬に遅れをとっていて、まだLv.4しかない。練成もLv.3と低い。

夜の内職は錬金術にするとしよう。


とにかく準備をしっかりと行い、毒耐性の薬湯を飲み、解毒薬を沢山インベントリに入れて、清流草の生育地域に出発すると、案の定エリアボスだったようですんなりジャイアントスパイダーとエンカウントした。

糸を吐き出して飛ばすスピードが早く、散々糸でぐるぐる巻きにされたが、火魔法のLv.1で使えるファイヤーを糸に掛けて焼き、ウォーターで消火する。ファイヤーアローを習得していないので、ファイヤーを飛ばして攻撃することは出来ないが、自分に巻かれた糸を焼くくらいなら出来る。

糸で巻かれる度毒ダメージが入るが、都度解毒薬を使って治す。

ジャイアントスパイダーの脚での攻撃がヒットしたり、躱しながら槍で突き刺したり、ウィンドアローでちまちま攻撃していると、時間はかなりかかったが、粘り勝ちで討伐することが出来た。

いつも通りドロップ品はないが、落ち着いて戦闘が出来たので、達成感がある。

上流に行くと確かに清流草が生えていた。

この草は清流でしか生えず、冷たい雪解け水の中で生育している時が1番薬効があるらしい。

そして月光草ほどではないものの、かなり懐が潤った。


レアボスではなくエリアボスだったのでソロ討伐特典のスキルポイントもレアボスより低い1ポイントを貰い、蜘蛛殺しの称号も得て、更に10SP追加された。

蜘蛛殺しには蜘蛛型のモンスターにクリティカルが発生しやすくなるという効果がある。


今回はそれほど疲れも感じず、時間はかかったものの、生命力と体力で粘れることがわかったので収穫があった。


夜の内職も毎日錬金術だと飽きるので、子供達の革靴作りも並行して行っている。これは普段使いではなく、日曜日のミサなどちゃんとしたフォーマルな場面で履く用だ。

春祭り用に作った編み上げブーツとは違い、男の子も女の子もローファーにする予定。勿論防水機能もつける。


春祭りと言えば、それよりも前にプレイヤー用の春のイベントがある。

季節毎に運営が企画するイベントがあるのだが、今までは戦闘能力が低かったり余裕がなかったりで参加してこなかった。

今回はイベントポイントで交換出来るアイテムにイベント限定の薔薇の苗と、色々な種類の花の種が入っているミックス種があったので参戦することにした。参加ティアーは1番易しいものにした。


プレイヤーは専用の特設ステージに移動し、広大な迷路の中でタマゴを探し、獲得数を競う。

対人戦もありで負けると自分のイベントポイントの一部を失い、勝った方は相手からイベントポイントを奪取出来る。

イースターを意識したイベントだが、時期を前倒しして、なるべく特定の宗教を意識させないように気をつけているそうだ。

気配察知と健脚スキル、地図・測量・分析スキルのおかげで、ある程度戦闘を避けることが出来、タマゴを集められた。対人戦成績は2勝3敗だった。

でも段々魔法と槍の組み合わせが板についてきて、攻撃の流れがスムーズになってきた感じがする。


特にランキングに載るほどの活躍ではないが、薔薇の苗3つと種を2袋手に入れられたので当初の目的は果たせた。

イベントは結構楽しかったので、また機会があれば今後も参加したい。

何よりティアーを選べるのがいい。初心者にも優しい設計なので、運営のアンケートでフィードバックしておいた。

アンケート報酬としてSP1ポイントゲットもした。


猟師ギルドではミモザからタンニンを抽出しているので、猟師ギルド周辺にミモザが植わっているのだが、そのミモザも花の季節がやってきた。


ミモザにインスパイアされ、教会の庭のベンチを置く予定の場所へと続く道を作り、キングサリを20本植えてアーチも設置した。

庭に草花を植えたり種を蒔いたり忙しいが、園芸用の苗などは農家ギルドから購入している。

大きな街では園芸家ギルドもあるようだが、ここでは農家ギルドが兼任している。

園芸家ギルドは何をすればギルドランクが上がるのか不明だったが、単純に美しい庭を作ってオープンガーデンを催したり、花卉栽培をしたり、育種したりするとランクが上がるらしい。


苗や種はそれほど高くないが、数が多いので結構な額になった。それでも清流草の報酬の一部で賄えた。

マハンの学資貯金計画は続く。


庭のデザインは、奥まったところにキングサリのアーチと隅っこにベンチを置いて隠れ家感というか秘密の花園感を出すようにし、中間に花畑と小径を配し、教会の側面から前庭にかけて芝生を敷き、敷地の境目に沿って花が上下で立体的になるようラティスを立てた。

ツルバラやクレマチスを絡ませて、下にはルピナスやアガパンサスなどを植えるつもりだ。

教会の側面には六角形の四阿を建てた。なかなか広い四阿で、天気の良い日は外で講話出来るようにした。

教会の壁を背にするようにいくつかベンチも置いてみた。

ここで会話が弾んだり、一休みしてもらえたら嬉しい。

木材は開墾の際に出た丸太を活用した。


そんなこんなしているうちにヤズイの春祭りがやってきた。

衣装に身を包んだハルは可憐で、白い刺繍リボンで編み込んだヘアセットも可愛かった。

我ながらなかなか満足のいく仕上がりだ。

町は華やぎ、ハルは笑顔で役割を全う出来た。

このゲームをやっていて、非常に印象深い経験になった。

練り歩いた後は教会でミサが行われ、その後町のあちこちでパーティーが催された。

否応なしに春の気分が盛り上がるお祭りだった。


そして遂にヤナハに調薬スキルが生まれ、まだまだ時間はあるが、15歳で独立した際は薬師ギルドで働くことが内定した。

彼女はすごく感謝してくれたが、彼女自身の将来の選択肢を狭めてしまったことでもあるので、内心複雑だった。

しかし、ずっと将来が心配だったと言われてしまえば、この内定を祝う他ない。

せめて彼女の未来に幸あれと祈るばかりだ。


そんな風にあらゆる意味で春を迎えていると、称号が2つと加護が1つ増えた。

猟師の友と緑の指、狩猟神の加護である。


猟師の友:猟師ギルドの会員との友好な証。猟師の好感度が上がりやすくなる。DEXとLUKの成長率増加。友好な猟師の数が増える毎に成長率上昇。

SP+10


緑の指:グリーンサムの持ち主である証。栽培関係のスキルと園芸支援。

SP+1


狩猟神の加護:決められた猟期を守り、割り当てられた定数以内の動物を狩った証。DEXとLUK2.5%増加。弓術・罠猟・遠見・解体・素材加工・皮鞣し・武器作製支援。

SP+25


ステータス補正が嬉しい。

猟期を守ったか確認の為に、春になってから称号や加護がついたんだろうか。


花や樹木の手入れをしていると、花卉栽培と樹木育成のスキルも生えた。

いつもの森に入って山菜採りもした。ウルイ・ゼンマイ・タラの芽などが採れてホクホクだ。


分蜂の時期になったので、養蜂のスキルを1ポイントで取得し、蜂の巣箱を孤児院の裏庭に面した林に複数個設置してみた。農家ギルドから蜜蝋を買ってきて巣箱に塗ったり、キンリョウヘンの鉢植えを近くに置いたりもした。

しばらく様子を見ていたら、1つの巣箱にミツバチが移り住んでくれた。

ハルとグリフィスが養蜂に興味を示し、手伝ってくれている。

2人とも養蜂のスキルを習得してくれるといいな。

秋になったら、キンリョウヘンの鉢は春まで屋内で栽培するよう2人に伝えておく。


ヤズイに来てからようやく1年近く経った。

正直短かったのか、長かったのかわからない。

ゲーム内では時間加速もあるし。

でも楽しい1年だったのは確かだ。


大体1年経ったあたりで、新たな加護を貰った。

それもユニ神の祝福、だ。

普通のユニ神の加護が上書きされて祝福に変わっていた。

これは1年の頑張りが評価されたってことでいいんだろうか。

勝手にそう受け取って、ニコニコしてしまう。


ユニ神の祝福:MND10%増加。神聖魔法・神聖魔術取得ポイント減少。神聖魔法・神聖魔術支援。

SP+50


MND10%増加はなかなか強力だ。MNDは毒や睡眠、魅了、石化などの状態異常のデバフ抗力に直結するので、より安全になるのはいいことだ。


ちなみに確認すると、神聖魔法の取得ポイントはなんと5ポイントになっていた!

普通の属性魔法と同じコストになってしまった。

なんか加護から神聖魔法を取れという圧を感じる。

思わず攻略サイトを見てしまったが、神聖魔法は主に対アンデッド特攻型の魔法のようだ。

アンデッド特攻の攻撃魔法や狂化解除、解呪などが使える。

神父様が使っているのはLv.2で覚える回復という魔法である。

回復は精神状態安定化と狂化解除の効果がある。

神父様は主に精神状態安定化を活用しているのだろう。

アンデッド以外のモンスターにはほとんど効かないので、あまり使い勝手がいい魔法とは言い難い。


だが、神聖魔法の進化先の神聖魔術は通常の取得ポイントが200SPもするだけあってかなり強い。

パーティー全体への攻撃を1度のみ相手に跳ね返す魔法や、何より蘇生という魔法がある。

これは味方単体を戦闘中HP全快で生き返らせる、破格の魔法だ。

但し神聖魔術がLv.10にならないと使えない。

でも蘇生が出来るのは神聖魔術だけだ。


5SPがあまりにもお得なので心が揺らぐ。

恐らく神聖魔術の取得ポイントもかなりディスカウントされるだろう。

冒険者ギルドマスターの言葉も気になる。

へペルさんは信仰心からというよりは、何か実利のあるような雰囲気で神聖魔法を勧めてきていた。

何かのイベントがあるんじゃないかと第六感が囁く。


うーんSPもあるし、取っちゃえ!

ポチッとな、と取ってしまった。ついでにMND上昇(微)も2ポイントで取得してしまおう。

神聖魔法はINTは関係なく、MNDの値を参照するスキルなので、MNDが増えればより強力になる。


ユステフ神父に報告すると感激した様子で喜んでくれた。

へペルさんが執拗に神聖魔法を勧めていた意味を尋ねると、悩みながらも真相を話してくれた。

教会に植わっているシンボルツリーはただのシンボルツリーではなく、ユニ樹と言って神秘の力を秘めた木で、町の治安や伝染病予防などの公衆衛生、町民の精神状態安定化や政情不安を避けやすくなるよう、緩やかに影響を及ぼすらしい。

神聖魔法を持っている者のみ樹木育成に関与出来、魔力譲与でユニ樹を成長させることが出来るそう。

成長すればするほど、町の安定化に寄与するらしい。

神父様も毎日魔力譲与を行っているが、もともと魔力量があまり多くなく、住民の精神状態安定化にも魔力を使わないといけないので、なかなか思うように成長させられない状態だとのこと。


これはへペルさんは明らかに、こっちが樹木育成を手伝うシナリオを描いているんだな。

そしてまんまとその思惑に乗りそうになっている。

しかし、ユステフ神父は選択を強いない。

旅人は心のままに行動することが望ましいと考えているようだ。

でも自分の心に従うとしたら、ユステフ神父を、子供達とシスターアンナを、オラスを、延いてはヤズイの町を守りたい。

その場で魔力譲与を3ポイントで取得した。後悔はない。


ユニ樹育成に尽力したい旨を伝えると、神父様はこみ上げるものがあるようだった。

何度も感謝の意を述べられる。

こっちとしてもMP上昇とMP自然回復が伸びるだろうという思惑もある。

デメリットはSP貯金が減ることくらいだが、ユニ神の祝福で50ポイントも貰えたのはきっとそういうことなんだろう。


神父様に連れられて、ユニ樹の元へ行き、魔力譲与を行う。

MPを吸われる感触があるが、気持ち悪くなったりはしなかった。

それから教会に行き、2人で報告と加護への感謝を祈った。


日々のルーティンに魔力譲与が加わる。

朝、料理をする前に魔力譲与を行い、日中はMP自然回復に任せ、夜の時間帯にMPを全部注入する。

ユニ樹に魔力譲与をするようになると、MP上昇とMP自然回復が著しく伸びた。

今まで戦闘か錬金術でしか使わなかったので、普段の生活でスキル経験値が溜まるのは大歓迎だ。

更には栽培と樹木育成のスキルも伸びた。


ある日薬師ギルドでいつものように薬草を鑑定しながら選定していると、猫耳婆も選定に加わり、手を動かしながら

「ありがとう。助かるよ。」

と言ってくれた。

具体的な言及はなかったが、何を指しているかはすぐわかった。


それから素早く選定しつつ、治癒院に植えられている、ユニ樹と同じく神秘の力を持つヒフォ樹の話をしてくれた。

ヤズイに治癒院はなく、薬師が訪問診療形式で患者の家を訪れているが、大きな街には治癒院という病院のような施設が存在するらしい。

治癒院には必ずヒフォ樹と呼ばれる木があり、病や怪我の治癒を緩やかに助ける力があるとのこと。これも魔力譲与で成長するらしい。

魔力譲与の資格は調薬のスキルを持っていること。

ユニ樹のこともヒフォ樹のこともあまり大っぴらに旅人には話していないそうだ。

ユニ樹もヒフォ樹も枝や葉に大きな力があって、それを採取出来るのは譲与資格がある者のみ。

悪用されないよう、信頼出来るプレイヤーにしか公開していないらしい。


もしも治癒院があるような場所を訪れたら、ユニ樹優先でいいが、ちょっこしヒフォ樹も育てて欲しいと言われた。

この情報を伝えてくれるということは、猫耳婆が自分を信頼してくれているいうことだ。

まったく、ツンデレめ。


「それから他所へ行ってもあんまり薬師ギルドランクを上げすぎるんじゃないよ。扱き使われるからね。」

という言葉に、扱き使ってたのはアンタでは、という顔をすると、

「政治的な話だよ。そうだね、Cランクくらいで止めておくのがいいだろう。

高ランクだと、旅をするのもままならなくなっちまうかもしれないからね。」

と忠告してくれた。


ひたすら果樹園や畑の手入れをしたり、革靴を作ったり、調薬や、調合・錬成を行ったり、採取をしたり、図書館で文学の本を読んでいたりした。

オフラインの時にゲーム攻略サイトで果樹栽培について調べていると、LUKが結実良好加減や味の良し悪しに影響すると知り、LUK上昇(微)を2ポイントで取得してしまった。

まあどうせステータスアップ系はいずれ全部取るつもりだったし、武器防具換装も必要なので、この機会にINT上昇(微)と武器防具換装を、それぞれ2ポイントと5ポイントで取得した。

斧やら槍やら弓やらを持ち替えたり装備したりするのも大変だったので、武器防具換装はとても役に立った。


健脚スキルも伸び、登攀スキルもLv.4になったので、白鷺草や樹上茸の採取も大分効率が良くなった。

オラスと森に入るのも楽しかったが、一人で歩くのもそれはそれで開放感があって良い。

緑が萌える中森林浴をするのは気持ちがよかった。

山を縦断してヤズイとは反対側の麓の森まで行くと、薬草の群生地があり、心置きなく採取出来た。

そのまま森の中を採取しながら探索していると、気配察知に複数反応が引っかかった。

モンスターの反応だが、対象はあまり移動してない。

ノンアクティブのモンスターなのかな、と思い、普段はモンスターを避けてゆくのに、思わず気配遮断を掛けながら様子を見に行ってしまった。

どこの町からも遠い、プレイヤー未踏の地であろう森を歩き、高揚していたのかもしれない。


そこは森の中にある開けた土地だった。

どうやら集落のようで生活の気配がする。

こんな隠れ里に誰が住んでいるのだろうかと身を乗り出すと、ボロ小屋というか、雑な建築物から出てきたのはなんとゴブリンだった!

じっと観察していると、当たり前かもしれないが、彼らは普通に生活していた。その様は面白いとも言えた。

興味深く眺めていると、突然大きな声が聞こえ、住人(?)達がわらわらと小屋から出てきて、ガヤガヤと集まっていく。

そこへ担ぎ込まれたのは血だらけのゴブリンだった。

動物にやられたのだろうか、それとも他のモンスターと戦ったのだろうか。

一人のゴブリンが駆け寄って声を掛けている。

怪我をしたゴブリンの奥さんなのだろうか、大きな声で嘆き悲しんでいるのが、ジェスチャーからわかる。

ゴブリン達のこのあまりにも人間らしい行動に驚き、心動かされてしまった。


ヤズイの冒険者ギルドには、ゲームにありがちなゴブリン討伐の常設依頼はない。

他の町にはあるのかもしれないが、単純にヤズイでは周囲にゴブリンがいないからだ。

しかも、ここはヤズイからだいぶ離れた場所で、あのゴブリン達が山を越えてヤズイの脅威となるような事態は考えられなかった。

だからだろうか、ゴブリン達を殲滅しようとは思わなかった。

ゴブリンの奥さんの嘆き声が一層大きくなる。

件のゴブリンはかなりぐったりとしていた。


どうしてもそのままやり過ごすことが出来ずに、思わず茂みから出てしまった。

HPポーションと増血剤と化膿止めの薬湯を置いたらさっさと逃げよう、と考えて進むと、奥さんと怪我をしたゴブリンを囲むように立っているゴブリンの一人がこちらを振り返った。


「ダ、ダレダ!?」


ん?


ゴブリンの言葉がわかる。

近づくと奥さんの泣く声も聞こえてきて、アナターアナターと叫んでいるのがわかった。


もしかして、言語スキルさんが仕事していらっしゃる?

えーっと。


「コ、コンニチハ。ワタシハアヤシイモノデハアリマセン。」

と、思いっきり怪しい挨拶をしてしまった。


ど、どうしよう。

ガーデニングアイテムのパーゴラをラティスに変更しました。

スキルポイントを訂正しました。

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【朗報】言語スキルさん有能!!
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