ハルの悩み
新年が明けてからも本に囲まれて過ごしていると、称号がもう1つ増えた。
本の虫:ゲーム内で本を沢山読んだ証。INTの成長率増加。本の読了数でINTの成長率上昇。
ついでにスキルポイントも1ポイント追加されていた。
これは読書家御用達の称号だ。本を読めば読むほどいいなんて最高でしかない。
へっぽこ魔法槍士としてはINTが上がるところもありがたい。
最近の気がかりは、ハルの元気がないように見受けられることだ。でも、ティーンの少女に迂闊に何を悩んでるのなんて聞けないし、そっと様子を窺っていることしか出来ていない。
そんなある夜、革コートの仕上げに入っているとノックの音がして、扉を開けるとシスターアンナが立っていた。
なんでも相談があるという。2人して階下に降りると、シスターはお茶を用意してくれていた。
温かい柿の葉茶を飲みながら促すと、話はハルのことだった。
春のお祭りでは花の乙女といって、町の12歳の女の子達が花を蒔きながら町内を練り歩き、精霊に協力を呼びかける祭事があるのだという。
ユニ教が入ってくる以前からのお祭りで、今ではユニ教のお祭りとも化しているが、要は田起こしのお祭りみたいなものなんだろうな。
精霊については自分もよくわかっていないが、このゲームには精霊魔法や精霊召喚があるので、まあ精霊もいるんだろう。
精霊魔法や精霊召喚はエルフの得意魔法だ。自然神みたいな扱いなんだろうか。
その花の乙女に今年はハルも参加する。そこまではいいらしい。
問題は花の乙女の衣装、だそう。
色鮮やかな刺繍を施した衣装を着るそうだが、各家庭により、刺繍の模様が異なるらしい。家紋みたいなものかな。リボンの色も家庭によって決まっていて、孤児院の子供の場合は白と決まっているとのこと。
どうやらハルは、その刺繍の意匠に孤児院独自のものがなく、誰かの家の刺繍を借りるのが嫌みたいだ。
学校で何か言われたりしたのかな。
シスターアンナは衣装を作ってあげたいが、産後うつの町民がいて、赤ちゃんの世話とお母さんのサポートでいっぱいでとても衣装を作れる状態じゃないので、厚かましいお願いだがハルの衣装を作って欲しい、というのが相談内容だった。
ふふふ、シスターアンナ、あなたは正しい人間に相談しましたとも。
伊達に内職で刺繍を鍛えてないんですよ。この刺繍・裁縫スキルで町1番の衣装を拵えてやろうじゃありませんか。
春のお祭りなので、植物の成長と少女の成長を願って草花のモチーフが多いようなので、こちらも草花モチーフを取り入れよう。リボンにだって刺繍入れてやる。靴も作らなきゃ。
やってやるぞー!
というわけで、まずは採寸です。服の採寸はシスターアンナに手伝ってもらった。問題は靴の方だ。
靴作製のスキルに頼りきるしかない。木型に関しては、彫刻・型紙作製のスキルにも期待している。
ついでにシスターアンナとユステフ神父の足の採寸もした。
刺繍スキルは現在Lv.4まで育っている。もうちょっと内職してレベルを上げたい。その間は革靴を作っていよう。
刺繍用の枠を置く土台のうまも作製した。これで大型刺繍もドンと来いだ。
日本刺繍も立体刺繍もやってみたかったんだよね。今回チャレンジしていこうと思う。
思わず色とりどりの刺繍糸を沢山購入してしまった。
最近はマハンの進学費用としてお金を貯めていたんだけど、刺繍糸なら仕方ない。うん。
マハンの為に夏の月光草採りは頑張る所存です。
どうせならと付与術も取得した。コストは5ポイントだったけど、いずれ取るつもりだったから問題ない。
これはアイテム作製の際にステータス項目を補正する能力や特殊機能を付与出来るスキルだ。
ゲームでよくある、防具VIT+5、みたいな補正のことだ。特殊機能は撥水とか防水とかの仕様だ。
補正値や、複数補正はスキルレベルが上がる毎に増加する。
せっかく防具作製や武器作製のスキルがあるんだから、取らなきゃ勿体ないスキルとも言える。
今は練習台として、皆の靴下や服に耐久性アップを付与している。
ちょうどドカ雪のシーズンになってきて暖かな屋内で過ごしたいので、革靴づくりはちょうどいい。
革靴は牛革と豚革を使用することにした。
ところで、全然伸びていない風魔法だが、ウィンドに新たな活用方法が出来た。
ウィンドで除雪するのである。威力調整と安全性確保に緻密な操作がいるので、魔力操作のスキルも伸びる。
子供達の登校時に同行し、除雪するのが朝の日課になった。
すると遂にウィンドアローを覚えた!これで戦術の幅が広がる!
火魔法は森の中では危険なので取っていないが、いつか火も扱えるようになりたい。
ヤナハに少しずつ調薬も教えている。彼女も独立した後の将来のことを考えていたらしく、手に職をつけようと意欲的に取り組んでいる。
ホーヤーの方も鍬を手に入れて春に向かってやる気十分だ。冬野菜は収穫し終わったが、一部は雪室に入れて保存している。
グリフィスの弓の練習は、冬の間オラスが教えてくれることになった。タダで引き受けてくれたのでやっぱりいいヤツだ。
毎日木型を彫っていると彫刻スキルもLv.3に上がった。
型紙に起こして、革を裁断し、縫い合わせ、木型に合わせて釣り込み、底を縫いつけ、かかとをつけ地道に作っていくと、遂に革靴が完成した!
革靴には防水機能をつけた。
第1号はユステフ神父に贈った。練習台の革靴なので後でまた作り直さないといけないが、木型も型紙もあるから1号よりは楽に作れるだろう。
並行して編みぐるみやフェルト人形を作ると殊の外カフィがお喜びになり、こっちも量産せよとの下命を拝した。
なんと気づけばカフィネットワークにより、孤児院以外の子供達の分まで作らされた。
そんなこんなで一冬を手工芸に費やしていたが、早春、再びオラスと山に入った。
目的はサトウカエデの樹液採取だ。
これは冒険者ギルドの依頼だった。
孤児院用にも欲しいので、多めに採取し、オラスの家で交代で煮詰める。
採取し終わった穴には木の栓をし、来年までの間に自然と穴を塞いで貰う。
メープルシロップは子供達に大いに喜ばれた。
その頃になると刺繍レベルが5になったので、まずは春のお祭り用のリボンから縫い始める。銀色の刺繍糸で、聖句を縫っていく。ユニ教の聖句と、古い言い伝えで残る幸運のまじないを縫い、LUK+1をつけた。
衣装の方にもLUK+1をつけ、沢山の花々を縫っていく。日本刺繍は面の表現が素敵でグラデーションも美しくていい。胸元には立体刺繍で菫と野いちごを縫った。
完成後、ハルとシスターアンナを呼んでお披露目すると、ハルは泣きながら喜んでくれた。
カフィに見つかるとカフィにも作ってとか言い出しそうなので、これはお祭りまでインベントリで保管しておく。
革靴第2号はシスターアンナに渡し、第3号は編み上げブーツを春のお祭り用として作っている。
春に向けて種まきをしつつ、果樹の剪定もしなければいけない。
相変わらずやることがいっぱいだ。
ユステフ神父には、秋になったら旅立つことを伝えた。