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冬の楽しみ

熊は冬眠に入り、雪が降ることも多くなった。

歩きまくったおかげで健脚スキルはとうとうLv.8になった。このスキルと狩猟はやたら相性がいい。

カンジキを履いて雪山を歩いてもかなりのスピードになる。まさにストライダーの面目躍如だ。

今は罠猟だけでなく、歩いて追跡して鹿や兎を狩れるようになってきた。

気配察知と気配遮断のスキルも順調に育っている。


今日も弓で兎を仕留めるのに成功し、血抜きをしていたところだった。

祝詞を上げているオラスに対し、警戒の合図を出す。

オラスも急いで警戒態勢に入ると、あっという間にフォレストウルフに囲まれた。

尾根の上で、木もないところなので、樹上に逃げることも叶わない。

オラスと背中を合わせ、槍を構える。

フォレストウルフの数は全部で17!

嘆いても始まらないので、とにかくやるしかない。

スッと槍を引いて誘い、飛びかってきた狼の目を目がけて槍を突き出し、突き刺した狼ごと槍を薙ぎ払って周囲の狼を牽制する。

スナップを利かせて突き刺した狼を放り投げ、ストーンアローでとどめを刺す。

すぐさま襲いかかってくる2頭目に対し、ウォーターアローをお見舞いし、足を止めた隙に喉に一突き。

熊猟での経験が生きているのか囲まれても冷静に対処出来ている。

後ろからキャインキャインと高く情けない音が聞こえてくるのも平常心維持に役立っている。

今度は両脇から飛びかってくるのを、片方はストーンウォールで突進を止め、もう1頭の首の横を槍で切り裂き、ストーンウォールを解除するとそのまま槍の石突きでドンっと頭を突いて昏倒させ、槍を返して心臓に突き入れる。

痺れ薬をウィンドで飛ばす戦法も考えたが、こんな至近距離での素早い戦闘には不向きなので却下とした。

1頭ずつ地道に倒していくしかない。

雪上の戦闘なので、人間側は不利だが、動き回らないのでそのディスアドバンテージも気にならない。

ぐっと足に力を入れて大地を踏み締める。腰の回転力を活かしてブンっと槍で薙ぎ払うと狼がたじろぐ気配がした。

下から喉輪を掬い上げるように槍を突き刺す。

迸る鮮血が白い雪を赤く染めるままにさせ、槍を引き、再度別の狼に向けて槍を突き出す。ステップで躱す狼に対し、ストーンアローを叩き込む。これで6頭目。

ここまで来ると無謀に突っ込んでは来なくなり、グルグルと唸りながらこちらの様子を窺っている。

「ダッサイ、そっちは?」

「6頭倒した!」

「こっちは5頭。あと残りろくー。」

オラスの話す内容を切り裂くかの如く、アオーーーーーン!!という遠吠えが響き渡る。

あーこれはもしかして…やっぱり気配察知に引っかかってるー!!こっちに向かってくる!増援だ!

慌てて低級EPポーションをオラスの背中に投げつける。これで踏ん張ってくれ。

自分にも低級MPポーションを掛け、一歩踏み出し目の前の狼の眉間目がけて槍を押し込む。

その間に威力を増したストーンアローを横の狼に叩き込み、引き抜いた槍を別の狼の喉元に突き刺す。

あの増援が来るまでにこいつらの数を出来るだけ減らさないと!

切実に範囲攻撃魔法が欲しい。今言ってもしょうがないけど!

2頭同時にかかってきたのでストーンウォールに頭突きしてもらい、ストーンウォールを解除して2頭とも薙ぎ払う。1頭の傷が浅かったのでウォーターアローでとどめを刺す。

もしも自分が倒れたら、オラスが死んでしまうかもしれない。

ゲームのキャラだけど、このゲームでの相棒だ。ここで失うわけにはいかない。

威力マシマシ、追尾機能にもMPを割り振って増援に来た狼をストーンアローで1頭倒し、槍を目の前の走り込んで来た狼に突き入れ、引き抜く際に手首を返して確実に息の根を止める。

魔法を連発したいがリキャストタイムもご丁寧に設定されているのでなかなかテンポよくとはいかないのが歯がゆい。

近寄って来たところに槍を突き入れ、もう1頭が攻撃に入るあたりでストーンウォールを出し、なんとか攻撃を繋げていく。

そんな戦闘を繰り広げていると、気づけば最後の1頭であるリーダーの狼をオラスと2人で挟み込む態勢になっていた。

オラスの槍を軽々と躱すその背中を槍で突こうとするが、上手く身を捻って避けられてしまう。

埒が明かないので残りのMP全部を威力と追尾機能に注ぎ込み、最後のストーンアローをぶっ放す。

ようやくフォレストウルフリーダーが倒れていった。

「勝った…のか?」

「勝ったんだよ、オラス。今日はもうこのまま帰ろう。」

急いでフォレストウルフの死骸をインベントリに突っ込んでいく。最終的に狼を22頭倒したらしい。

オラスも途中だった祝詞をサッと唱え、雪上に落とした弓装備を拾っている。

兎もインベントリに収納し終わり、さっさと帰ることにしよう。

クタクタに疲労している体に鞭を打ち、最速でヤズイを目指す。

ヤズイに辿り着くと、膝が笑っていた。兎も狼も解体は後日にすることとし、2人して公衆浴場に向かう。


さっきから湯船の中で「んぁ〜〜」しか言っていない。

それ以外の声が出なくなっている。

2人して、んぇ〜とかんぁ〜とか山羊のような声を発しながらお湯に浸かって今日の疲れを癒やしているところなのだが、まだ人語を話すほどには回復していない。一旦湯船から出て体を拭き、長椅子にぐでん、と横になる。

インベントリからコップとミントを取り出し、水魔法のウォーターで水を注ぎ入れる。

簡単ミント水の出来上がりだ。

ごくごく飲み干していると横から手が出てきた。

無言でもう1つコップを取り出しミント水を入れて渡してやる。

隣からああーという声が聞こえてきた。

んぁ〜よりは人語に近くなってきたかも。


それからしばらく風呂に出たり入ったりを繰り返してダラダラ過ごし、ようやく芯を取り戻してきたあたりで皮膚がもうすっかりふやけきっていたので、衣服を再び身につけ冬の寒さの中それぞれの家路についた。


孤児院に戻ると、子供達相手に今日はもう閉店です、と情けない顔をしながら告げ、シスターアンナに断って自室へ行き、そのままログアウトした。


ログアウトした際の感覚としては、疲れていたが、燃え尽きたような脱力ではなかった。

なんとなれば、オラスは死ななかった。死ななかったのだ。

明日は兎と狼を捌き、狼の報酬を山分けしないといけないし、プレゼントづくりもしなくてはならない。

やることがいっぱいだ。

楽しみだな、と思いながら眠りについた。


翌日ログインすると、時刻は既に夜だった。皆寝静まっているようなので、夕食は諦め内職をすることにする。

EP自然回復(微)が働いてくれたようでEPにも余裕があるので食事なしでもいけそうだ。

今は最年少のカフィの為のプレゼントを作っている。彼女には布で出来た絵本を贈るつもりだ。

主人公である人形が、それぞれの場面場面で背景ページのポッケに入ったり、お布団に入ったりして人形を動かしながらストーリーを体感出来るようになっている絵本だ。

裁縫と刺繍のスキルはLv.5とLv.3にまでなった。

刺繍スキルはスノーシューズに名入れをしたらなんだかんだ育っていた。


既に雪が降るようになっていたので、共有のおもちゃはインベントリから出し、好きに遊ばせている。

というか、かまくらを作らされたり、雪合戦でぼかすか雪玉をぶつけられまくったりしたので、よっぽど部屋の中で遊んでくれた方が楽だと気づいたから早めに放出したとも言う。


敢えて彩色せず木の色の違いだけでコントラストを作り、想像力の余地を多く残したおままごとセットとドールハウスは、性別を問わず子供達より好評を博した。

ドールハウス用に人形を10人分用意したが、それもなかなか大変だった。

ドミノ倒しをしたりビー玉転がしを出来る木のレールも大好評だ。

どうぶつしょうぎがどの年齢にも刺さり、年齢が上の方の子達は囲碁・将棋・チェス・バックギャモンの四種大会を開催しては順位を争っている。

小さい子達はどうぶつしょうぎと五目並べで遊んでいる。


これらのおもちゃの労働の対価として、キラキラなどんぐり3つとまあるいどんぐり5つを貰った。

ここヤズイの孤児院では、通貨単位はどんぐりである。どんぐりの力こそ真のパワー。


なんにせよ地獄の雪合戦連戦を戦わなくて済むようになったのはありがたい。


踊ることの好きなリンカにはバレエダンサーがくるくると回るオルゴールを贈る予定。

オルゴール部分は買ってくるわけだが、オルゴールの箱は彫刻で飾りをつけた木製の箱を手作りしたし、バレエダンサーのチュチュも作成済みだ。後はバレエダンサーの人形を彫るだけだ。


ヤナハは調薬に興味がありそうだったので、自分が使っていた初心者調薬セットをプレゼントすることにしている。断じて手抜きではない。猫耳婆から口頭で教わったレシピやコツを一冊の本に纏め、ヤナハの名前と草花を刺繍した表紙で美しく製本した。わかりやすくなるように工夫を凝らした秘伝帖には愛が詰まっているのだ。

自分は既に低級調薬セットを使っている為問題はない。

でもそろそろ中級調薬セットを揃えないといけない時期だ。

何だかんだ調薬スキルはLv.6まで育っている。熊素材を使って調薬したり白鷺草を使って調薬すると面白いくらいにスキル経験値が溜まるので、スキルが伸びるのも早い。


女性陣の最年長のハルには彼女専用の水彩絵の具セットを。これもほぼお金の力で解決しているが、箱にハルの名前を彫った!

お絵かき道具は共有のものがあるのだが、すぐ小さな子達にグチャグチャにされる運命にあるので、専用のものをあげたら喜ぶかな、と思ったのだ。


内職の間ずっと生活魔法のライトを使いっぱなしなので、生活魔法のスキルレベルもじわじわと上がってきている。

着火の魔法はほとんど使わないので主にライトと浄水で稼いだ経験値なのだが、遂にLv.4になり乾燥の魔法が使えるようになった。

これで寒い朝いちいち外に出て洗濯物を干す苦役から解放されたのだ。ものの数分で乾くので、午前中の家事の時間は大幅に短縮された。


魔法と言えば、フォレストウルフとの戦闘の後にあの時あれほど切望していた範囲攻撃魔法を覚えた。土魔法がLv.4になってストーンランスの魔法が可能になったのだ。

ストーンランスは全体攻撃魔法ではないが、範囲内の敵を複数攻撃することが出来る優れものなので、フォレストウルフ戦のような時には役立つだろう。

欲を言えばフォレストウルフ戦でこそ使いたかったが。


自分のレベルも上がって11になった。

フォレストウルフ戦を振り返るに、槍と魔法両方を繰り出す戦法はなんとなく形が見えてきたように思う。しかしまだ詠唱短縮のスキルが育っていない為、技と技の繋ぎに変な間が生まれている状態だ。ストーンウォールを出したら1回ウォールを消して、それからウォーターアロー、のように予備動作があるせいであまり滑らかに技を繋げられていない。

魔法の威力が高ければそれでもいいが、自分の場合は大した威力もないので手数で勝負しなければいけないのに、その手数勝負で躓いている状態だ。

この状況を打破する策として、取得コストが10ポイントのスキル、多重詠唱を取ることにした。

ストーンアローとストーンアローは同時に展開出来ないが、ストーンアローとストーンウォールなら同時に展開出来るようになるスキルだ。スキルレベルが上がればストーンアローとウォーターアロー、ストーンアローとウォーターウォール、というように別系統同士でも展開出来るようになる。

どんどん器用貧乏な魔法槍士路線を突き進んでいるが、まあいいだろう。

この先にきっとロマンはあるはず。


夜なべしてカフィの絵本を作り終わり、途中からはリンカの為のバレエダンサーを彫っていたが、朝になったので階下に下りて朝食の準備をする。

昨日あんなに疲れていたくせにふんふんと鼻唄を歌いながら食事を作っていると、子供達の世話をしていたシスターアンナが、おや?という表情をしてみせたが、こちらの様子を一通り観察すると、また子供達の脱いだ服やシーツを抱えて仕事に戻っていった。

今日の朝食はゴボウのスープに卵焼きとほうれん草のベーコン炒めとパンだ。

配膳は子供達も手伝ってくれる。

子供達を学校に送り出したら、家庭菜園の手入れをしてから薬師ギルドで水やりをし、オラスの家を訪ねる。

今日は無理しないことにしてひたすらフォレストウルフの解体を行うことにした。

冒険者ギルドの解体所の片隅を借りて黙々と解体し、魔石・牙・毛皮を冒険者ギルドに売り払い、肉を引き取ってもらった。

作業が終わるとオラスの家に戻り、出してもらった柿の葉茶を飲んで一息入れる。


もともとオラスとの狩りは新年までと決めていた。猟期はもう少し長いものの、積雪量が多くなるので効率がよくないからだ。

それを2人で話し合って、今季の狩猟は今日までにすることに決めた。

少し時期を前倒ししたわけだ。

2人とも昨日で大分疲れたし、こっちは新年までにプレゼントも作らなくちゃいけないし。なんとなく狩猟どころでなくなったので、自然とそういう話になった。

また早春に2人で活動することにして、オラスの家を辞した。


それからは、薬師ギルドの仕事以降はまるまる時間をすべてプレゼント作りに充てられるようになり、無事新年までに作り終えることが出来た。

出歩かないので昼食は抜きにし、EP自然回復のスキルを育てている。

プレゼント作成が終わってからは資料の装丁・製本作業に集中し、遂に資料整理を終わらせることが出来た。

ユステフ神父を3階の資料室に案内し、資料の分類法や内容について説明すると、神父様は大感激して何度もお礼を繰り返してくれた。

お礼を言わなきゃいけないのはこちらの方だ。

もう少し滞在していいか尋ねると、気が済むまで滞在していいと笑って答えてくれた。


その日、称号がもう1つ増えた。

ユニ教徒の友:ユニ教信徒との友好の証。ユニ教徒の好感度が上がりやすくなる。MNDの成長率増加。友好なユニ教徒の数が増える毎にMNDの成長率も上昇する。

SPは10ポイント貰えた。


神父様やシスターに称号のことを報告するのは恥ずかしかったのでしていないが、この孤児院での仕事をしっかりと果たせたご褒美のように感じられ、とても嬉しかった。


そんなわけで、今仕事らしい仕事をしているのは午前中の早い時間帯だけだ。

あとはひたすら図書館で本を読んでいる。

秋や冬は日曜日返上で狩猟や採取に勤しんでいたので、久しぶりの休暇らしい休暇だ。

ジャンルを定めず、気になる本を片っ端から読み漁っている。

夜は刺繍の内職の時間だ。


大晦日、教会ではミサが執り行われる。

その年逝った者を惜しみ、新しく生まれた命を寿ぐ、いい式だった。

元日は各家庭で新年を祝う。

オラスの家にも顔を出したらオラスのお母さんに料理を沢山ご馳走してもらった。

午後孤児院に戻り、緊張の瞬間がやってくる。

子供達にそれぞれプレゼントを渡していくと、しばらく子供達はポカンとした表情をしていた。

最初に行動を起こしたのは最年少のカフィだった。

「カフィの?これ、カフィのなの?カフィだけのプレゼント?」

「そうだよ。」

「開けていいの?」

「開けてごらん。」

ビリッと勢いよく包装紙を破いて、中から絵本を取り出すと、高い歓声を上げる。

マハンは信じられない、というようにカフィを眺めている。

ラキとソムがカフィの後に続き、包装紙を開けて騒ぎ出す。

皆がようやく動き出し、競って包装紙を開けていく。1番小さくて軽くて薄い封筒を受け取ったマハンが恐る恐る封筒を開いていく。

ホーヤーは鍬を気に入ってくれたらしく、満足気にニコニコしている。

ヤナハは興奮してキャーキャー声を出し、ヒューはにんまりとパズルを抱きしめている。

リンカのオルゴールの音が流れ出す。

グリフが弓を構えて笑っている頃にはラキとソムは早速チャンバラごっこを始めていた。

ハルは固まりながらも包装紙を開け、絵の具セットの箱を震える指で開き、15色揃った絵の具と折り畳みパレットと筆洗器、絵筆が入っているのを確認していた。

ユステフ神父が、「さあ、何て言うべきなのかね?」と促すと皆が口々にありがとう!と言い出す。

ガッカリした顔をした子がいないことに安堵しながら「気に入った?」と訊くと、うん!とのお返事をいただけた。

その後は思い思いの方法でそれぞれのプレゼントを愛でる子供達を眺め、ようやく肩の荷が下りたのを感じた。

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あかん...おっちゃんこうゆうの弱いねん...
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