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冬の訪れ

「ウオラァァァァァアア!!」

と声を上げ、熊に向かって走っていく。

喉元を突かれた熊が右へ左へ頭を振り、前脚をシュタカのおっちゃん目がけて振り下ろそうとするところへ大盾をガキン、と押し込む。

人と熊が一塊となって押し合うその背中を1人の猟師が駆け上り、

「どおっりゃあ!!!」

という掛け声とともに槍が熊の脳天を貫く。

ドォンと倒れる熊の体の周りにストーンウォールを出し、人が下敷きになるのを防ぐと、倒れた熊の頸動脈をシュタカのおっちゃんが再度斬りつけ、ブシュッと返り血を浴びていく。

おっちゃんがようやく構えを解くと、解体班のアジマがすかさず駆け寄っていった。


そこでようやく痺れる左手から盾を放し、息を吐く。

3回目の熊猟でなんとか形になるようになってきた。

UIに通知がきているのに気づいて確認すると、Lv.10になっていた。

モンスターほどの経験値ではないが、動物を殺すことでも経験値を得られるらしい。

ついでに10レベル毎にスキルポイントが5ポイント追加で貰えるようだ。


ヨロヨロと熊から離れるように歩いて、地面に大の字になってアドレナリンを落ち着かせる。

このゲームは本当に、その道のプロフェッションを尊敬するようになるゲームだ。

猟師の人ってスゴい。

「寝るなよ。町の外だぞ。いつモンスターが来るかもしれないのに。」

「その為にオラスが見張ってるんでしょ。」

「あのなあ。」


オラスは無視して猟犬達を呼び寄せる。

トーベからちょうど餌や水を貰っている犬達はなかなかやって来ないが、白い紀州犬のような犬だけは、構ってやるか、みたいな空気を漂わせながら来てくれた。

わんこをモフりながら横になっていると、呆れたようにため息をつき、オラスは去っていった。

自然と口角は上がっていく。

どうせこの後薬師ギルドに扱き使われるんだから、今だけ休ませて欲しい。

血抜きが終わったら、内臓、血、死骸の運搬係として収納する役目もあるし、土魔法を使う役割もあるので、本当に今だけなんだ。

しばらくわんこと一緒にゴロゴロしてたら、アジマの撤収するぞー、の掛け声で束の間の休息は終わってしまった。

血液の入った瓶を渡され、熊の死骸・内臓と一緒にインベントリに収納していく。

運搬先は猟師ギルドの中くらいの大きさの小屋である解体所だ。

熊の血は薬師ギルドまで自分が持って行くことになっている。

今まで熊の解体は解体班のベテランの猟師達がやっていたのだが、今回はいかにも鍛えてやるぞという顔をしたアジマに

「たまにはやってみるか?」

と声を掛けられた。

貴重な機会だし、やってみたいのは山々だが、後ろからああだこうだと言われるのは目に見えているので迷っていると、

「やらないなら別にいいけどなー。」

と言われ、慌てて

「やります!やらせてください!」

とお願いする。

それからはステレオどころか9.1サラウンドの勢いで横から後ろから斜めから声が飛んできて、やれ手つきがなってないとか、そこをもっと丁寧にとか散々口を出されまくり、緊張から手汗が止まらない中解体する羽目になった。

今までで1番解体のスキル経験値が入ったが、2度とやりたくない地獄の実技講習だった。


あの後薬師ギルドで働かされて散々調薬を行い、孤児院に帰ってまたアスレチック台になり、熊肉を使った夕食を作り、子供達をお風呂に入れて寝かしつけ、ようやく自室に戻って内職でもするかとUIを確認したら、いつの間にか加護が増えていた。

何がトリガーになったのかさっぱりわからないが、ユニ神の加護、というものを貰ったようだ。

ユニ神はユニ教が信奉している神様だから、孤児院生活の向上に取り組んでいるのがよかったんだろうか。

加護の効果は、MND5%増加、神聖魔法・神聖魔術取得ポイント減少、神聖魔法・神聖魔術支援、だった。

しかもスキルポイントを25ポイントも貰えた!

これは生活に疲れた自分への、神様からのエールと受け取っていいんだろうか。


翌朝ユステフ神父に相談してみると、神父様はニコニコして、ダッサイさんの頑張りが天に通じたんですよ!と我が事のように喜んでくれた。

しかしこの加護の活かし方がさっぱりわからない。自分にとって唯一にして最大のメリットはSP25ポイントってとこだし。

首を傾げていると、

「ダッサイさんのあるがままでいいと思うのですが、悩まれていらっしゃるなら冒険者ギルドのギルドマスターにご相談されるのがいいかもしれませんよ。」

と神父様からアドバイスを貰った。


薬師ギルドで水やりをしていると、猫耳婆が

「へー、加護がついたんだねぇ。」

とボソッと言って通っていった。


オラスに会ってユニ神の加護の話をすると、マジか、という顔をされた。

「なんだよその表情は。」

「いやー、加護を貰うなら狩猟神の加護かな、と思ってたから。」

「オラスは狩猟神の加護を持ってるの?」

「ああ。」

「神父様が冒険者ギルドのギルドマスターに相談してみたらっておっしゃってたんだけど、なんで冒険者ギルドマスターかわかる?」

「いや、俺もわからん。」

謎は深まるばかりだ。


気になるなら狩りの前に冒険者ギルドに寄れば、というオラスの提案で、2人して冒険者ギルドに行ってみる。

依頼掲示板の前で吟味しているオラスを置いて、受付の人にギルドマスターに会えるか聞いてみたところ、都合がつくようですんなりギルドマスターのオフィスに通されてしまった。


「ダッサイ様、お久しぶりですね。ご相談があると伺いましたが。」

「お久しぶりです、へペルさん。ご相談したいこととは、ユニ神からいただいた加護のことなんですが…。」

「まあ、ユニ神から加護を授けられたのですか!?それは大変おめでとうございます!」

「あ、ありがとうございます。ユステフ神父様にご報告したところ、へペルさんにご相談するとよいとのことでしたので伺った次第でして。

この加護はどう活かすものなんでしょうか?」

「あら、決まってるじゃないですか。神聖魔法を取得すればよろしいのです。」

「ええ…。いやぁ神聖魔法はちょぉっとぉぉ、手が届かないかなぁ、と。」

「神聖魔法取得ポイント減少の効果がついているじゃないですか。」

「はあ…。」

確かに神聖魔法の取得ポイントを確認すると50ポイントになってた。半額!お買い得!な感じであるが、それでも50ポイントである。

「…確かにスキルポイントが足りていないようですね。」

おいおいこの人、断らずに看破使ったぞ、今。

猫耳婆の悪癖が移ったのか!?

「いいですか、ダッサイ様。まずは今後のスキル取得は神聖魔法を優先して計画すべきです。

幸い現在38ポイントスキルポイントをお持ちのようですから、あと12ポイント貯めればいいだけです。

何、レベルをあと6つ上げればいいのですよ、レベル上げ頑張ってくださいね!

レベル上げに適した依頼をお持ちしましょうか?」

「いえ、いいです、いいです。」

神父様から信仰の強要はないのに、冒険者ギルドマスターからものすごい強い神聖魔法を取れという圧を感じているのですが…。

多分だけど、ユステフ神父は冒険者でもないからスキルビルドの相談は冒険者ギルドマスターにした方がいいよくらいの気楽さでギルドマスターにアドバイスを求めるよう勧めてくれたんだと思う。

お出しされたのがこの神聖魔法原理主義者だったけど…。

「他に何かアドバイスはありますか?」

「一にも二にも、神聖魔法を取ることですよ。」

「あ、ハイ。お時間をいただき、ありがとうございました。」

「こちらこそわざわざお越しいただき、ありがとうございました。

ヤズイの町で、神父様とシスター以外にユニ神の加護を授かったのはダッサイ様唯お一人です!

これは快挙ですよ、快挙!!

こんな素晴らしいことをお知らせしてくださって、私の方からこそ御礼をしなければ。」

「あ、あ、そうですか。

で、ではこれで失礼いたします。」

そう言ってやっとこさ、神聖魔法勧誘を退け、オラスの元に戻ってきた。


「どうだった?」

「うーん…。」

「???」


謎は解明されないまま狩猟へと向かうことになった。


今日は殊の外冷える。

歩いてる時はいいが、足を止めると痺れる寒さだ。

新たな罠を設置しながら、寒いなーとUIを見たら、なんかHPが減少してる!?

しかも目の前でEPの表示がじわじわと減っていく。


「オラス、なんかHPとEPが減ってるんだけど、何?」

「寒いからだろ。」

「え?」

「寒いと体力奪われるってよく言うだろ。気をつけろよ、もっと気温が下がったらもっと減りが早くなるからな。」

「ええー…。」

「暑いとこ行けば暑さでも同じようなことが起きるぞ。」


あんなに圧をかけられた反動だろうか、気がついたらHP上昇(微)・HP自然回復(微)・EP上昇(微)・EP自然回復(微)・VIT上昇(微)のスキルを合計10ポイントで取得していた。


そんなこんなで一日のルーティンを終え、再び自室での夜の時間が始まる。

目下最大の懸案事項は皆への冬のプレゼントである。

スノーシューズと手袋は既に渡し済み。これはプレゼントっていうよりも、必須アイテムを渡したっていうだけだ。

知育玩具なんかの共有品と、それぞれにオンリーワンのプレゼントを贈りたいと考えている。

オンリーワンのプレゼントを10個考えるのは、結構難しい。

ホーヤーへのプレゼントは子供用の鍬だ。

これは武器屋に特注してある。

単純に自分が鍬を使っていると真似して大人用の重たいのを使いたがって危険なので選んだのだが、多分喜んでくれると思う。

年子の兄弟であるラキとソムには、木製の剣に綿を入れた袋状の布を被せた子供用の剣。

黙々と一つのことをこなすのが好きなヒューには木製のパズル。

狩猟に興味を示していたグリフには子供用の弓と、鏃の代わりに乾燥させたスライムをつけた矢と矢筒を。

最年長のマハンは学問に興味があるようなので、図書館の入館証をプレゼントするつもりだ(大人なのでお金で解決出来るものには金の力を使うのを惜しまない)。

問題は女の子4人だ。

プレゼントにダメ出しをするような子達じゃないが、冴えない表情をされたら泣いてしまう。

共有のドールハウスやおままごとキッチンセットは既に作ってインベントリにしまってあるが、個人用に、となると途端に難易度が上がる。

今日も難しい問題には目をつむり、とりあえずやれそうな知育玩具づくりから取り掛かることにする。

先延ばしと言う勿れ。

出来ることから一歩ずつ、の精神が大事。

知育玩具と一口で言っても種類は色々ある。

バックギャモン、将棋、囲碁、チェスあたりは作っておきたい。

と、いうわけで彫刻と彩色のスキルもそれぞれ1ポイントで取得してしまおう。

絵の具や木の板、彫刻刀なんかは準備してある。

将棋はどうぶつしょうぎの3×4の盤面と、普通の将棋盤を用意する。

駒はどれも動物柄にしておく。

囲碁も木製の碁盤に、木製の碁石を用意する。木製なので削るのも楽でいい。

黒白である必要はないので、水色と黄色に塗り分けてみた。

バックギャモンは作るのも簡単だった。

問題はチェスの駒である。

絶対時間かかる。

よし、後回し。

ネットで知育玩具を検索したら将棋の第一人者が子供の頃遊んでいた、などの惹句も並んでいて思わず笑ってしまったのだが、子供はビー玉転がしとか好きだよね。まあ大人だっていざやるとハマるけど。

難しいパーツでなくとも、ドミノ用の木製の板とビー玉が通るような縁のついた板を大量に用意しておけば勝手に遊んでくれるだろう。

というわけで小さな板と長めの板を大量生産し面を取っていく。

明日こそチェスの駒を作成しよう。

レベルとスキルポイントの数字を訂正しました。

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神聖魔法取る気一切なくて草
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